Noah


ノア 約束の舟  (2014年3月)

なにやら宗教がブームの気配だ。こないだイエス・キリストを描く「サン・オブ・ゴッド (Son of God)」が公開され、今回「ノア」、そして死後の世界を垣間見た子供を描く「ヘヴン・イズ・フォー・リアル (Heaven Is for Real)」と、矢継ぎ早にその手の作品が公開されている。 
 
TVでも、昨年聖書の世界を描くミニシリーズ「バイブル (Bible)」がヒストリー・チャンネルで放送され、意外な好成績を記録した。今年も死者が復活するABCの「リザレクション (Resurrection)」等、SFというよりも信仰を描く番組がいくつも放送されている。要するに末世ということか。 
 
西洋社会では宗教というとキリスト教が最大宗教だろうが、これらの作品の中でそういう枠を超えて最も広く大衆にアピールするのは、ダーレン・アロノフスキー演出、ラッセル・クロウ主演の「ノア」だろう。聖書の世界というよりも、アクション大作という印象の方が強い。 
 
アロノフスキーは、どちらかというと、「ブラック・スワン (Black Swan)」「ザ・レスラー (The Wrestler)」等、インディ系小品を撮る時の方が印象を残すが、「ファウンテン (The Fountain)」みたいな結構金のかかっている歴史転生SFみたいな作品もある。ただし、結局「ファウンテン」は何をしたいのかよくわからなくて空中 分解したという印象が強く、やはりアロノフスキーは、小ぢんまりとした話でも焦点を決めて集中して撮るインディ型が合っていると思わせた。  
 
そのアロノフスキーが、今度は事もあろうに聖書を題材としたハリウッド・スペクタクルを撮る。うーん、「ファウンテン」も乗りとしてはこの路線で大きく失敗したんだよなという記憶が頭をよぎる。しかも主演はハリウッド・スターのラッセル・クロウだ。「ファウンテン」も同様にアクション・スターのヒュー・ジャックマンと、レイチェル・ワイズを迎えて撮った作品だった。 

 

一方今回はクロウと、ジェニファー・コネリーが主要登場人物で、コネリーはアロノフスキーの出世作である「レクイエム・フォー・ア・ドリーム (Requiem for a Dream)」で主演している。今回こそもしかしたらアロノフスキーがハリウッド大作も撮れるフィルムメイカーであることを証明する機会となるかもしれない。 
 
今回初めて知ったのだが、聖書ではノアは500歳くらいということになっているらしい。色々と異説はあるらしいが、それでも数百歳というのはどの説でも変わらないようだ。それって‥‥人間じゃないだろう。 

 

そのノアの父メトシェラ (アンソニー・ホプキンス) になるとほとんど仙人化しており、いったい何歳という設定なのかまるでわからない。1000歳くらいか。もっとも旧約のこの時代の話に合理的な説明を求めるのも無理な話で、ほとんどは喩え話として機能している。ユダヤ人にとってはもっと血肉のついた話なんだろうが、この辺は色々と解釈の分かれるところだろうと想像する。 

 

そしてノアたちを野蛮なトバル・カインたちから守るために戦うウォッチャーは、まるで宮崎駿の「天空の城ラピュタ」に出てくるロボットそっくりで、内部には機械が埋まっているようでまるで神の使いという感じがしない。しかも本当にロボットにように群がる人間どもを薙ぎ倒す。洪水自体がすべてを灰燼に帰す極限的な暴力だからなにを今さらという感じもしないでもないが、しかし、水それ自体には暴力の意志はないだろうが、ウォッチャーは明確な意図を持ってトバル・カインたちを叩き潰す。それでも、彼らは神の使いではあっても無敵というわけではなく、一人また一人とトバル・カインたちによって倒されると、どうやら天に召されていく。アロノフスキーによるノアの洪水の話は、こういうものなのか。 
 

だいたい、洪水の時、方舟が奪われそうになって戦いになるという設定は初耳だ。もし本当に洪水になったとしたら、確かに方舟の奪い合いになりそうな気はしないでもないが。しかしそれで自分たちだけが助かろうとやって来る者どもを蹴散らすノアたちも、クリエイターから見捨てられないでいいのだろうか。トバル・カインの仲間たちを何人も殺したウォッチャーたちも天に召されたようだから、悪い奴らは皆殺しで構わないのだろうか。まったくもって神/クリエイターたちの考えることはわからない。ノアが悩むのも当然だ。もし自分を選んで神託を告げたのだったら、やはりその時、理由やしなければいけないことの方法もついでに教えてもらいたい。その資格を明確なものにするためにそこだけ自分で考えろというのは、ちょっと突き放し過ぎではないだろうか。しかし、やはり神は人の質問や意見には答えないものなのか。 










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遠い遠い昔、ノア (ラッセル・クロウ) は地上が水没する夢を見る。これは神の啓示と信じたノアは、妻ナーマ (ジェニファー・コネリー)、長男セム (ダグラス・ブース)、次男ハム (ローガン・ラーマン)、三男ヤペテ (レオ・マクヒュー・キャロル)、そして昔野蛮な部族に襲われ、一人だけ助かったのを育てたイラ (エマ・ワトソン) と共に、方舟の建設にとりかかる。何年もの月日が経ち、もう少しで方舟が完成しようとする頃、森の動物や様々な生き物が方舟に自ら乗り込んでくる。洪水が近いと見たトバル・カイン (レイ・ウィンストン) は、方舟を掠奪しようとノアたちに襲いかかる。かつてクリエイターの使者として地上に送り込まれていたウォッチャーたちは、ノアを信じ、トバル・カインたちと戦う。そして洪水が発生し、すべてのものは方舟を除いて襲いかかる水の中に呑み込まれる‥‥ 


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