Lucy in the Sky


ルーシー・イン・ザ・スカイ  (2019年10月)

先週の「アド・アストラ (Ad Astra)」に引き続き、今週も宇宙が舞台か、SFづいてるな、ま、こんなこともあると思いながら見に行った「ルーシー・イン・ザ・スカイ」、ちゃんと宇宙が舞台で話が始まる。が、実は宇宙が背景となるのはそこまでで、あとは基本、地上が舞台だ。 

 

というかこの映画、実は宇宙SFではない。前回「アナイアレイション -全滅領域- (Annihilation)」で目にしたナタリー・ポートマンが主人公で宇宙飛行士に扮しているということで、こちらが勝手にまたSFに出ているポートマン、なんてったって「スター・ウォーズ (Star Wars)」のお姫様でもあることだし、と勝手にスペース・オペラ的な作品をイメージして行ったら、どうやら、なんか勝手が違う。 

 

ポートマン演じる主人公のルーシーは、宇宙飛行士だ。ついに念願かなって宇宙におけるミッションに参加し、宇宙から地球の姿を見る機会を得る。それはこちらの予想を超えるほど荘厳で美しかった。宇宙に完全に心を奪われたルーシーは地球に帰還してからも気もそぞろで、地上では家族のことや日常の雑事もあるが、しかしルーシーは心は宇宙に置き忘れたかのようだった。 

 

それなのにどうしてもまた宇宙に行きたいルーシーは、訓練だけは他の誰よりも熱心に取り組み、自分の命を危険に晒すほどだった。そんな時、宇宙に行った経験のある者だけを誘う排他的クラブに誘われたルーシーは、そこで、女たらしの先輩飛行士のグッドウィンの誘惑によろめいてしまう。ルーシーは今や家庭のことを顧みず、宇宙に再び行くこととグッドウィンとの逢瀬だけに生き甲斐を感じるようになる。 

 

他方、そういうルーシーは周りの目から見ると危なかしい存在で、そのためルーシーは、次の宇宙ミッションから外される。さらにグッドウィンは、既にルーシーに飽きていて、新人の女性飛行士に食指を伸ばしていた。ルーシーは自分の世界が壊れかかっているのを感じて、行動に移る‥‥ 

 

という展開を見てもわかるように、「ルーシー・イン・ザ・スカイ」はまったく宇宙SFものではなく、昨年の「ファースト・マン (First Man)」のような宇宙をめぐるドラマですらない。そうではなく、宇宙に行くという機会を得たがために人生を狂わせてしまった、地に足すらつけていない女性を描く話だ。あれ、ということは地に足がついてないわけだから宇宙の話ということには‥‥ならないか? 

 

それにしてもその女性ルーシーを演じるのが、よりにもよってポートマンだ。つまり、この話は「ファースト・マン」でも「アド・アストラ」でも「アナイアレイション」でもなく、実は「ブラック・スワン (Black Swan)」の変奏であることに途中から気づく。ポートマン演じるルーシーは、いつの間にやらあちらの世界に足を突っ込んでいた。 

 

かれこれ10年ほど前、これと似たような話が、NASAで実際にあった。NASAでとある男性飛行士を巡って三角関係に陥った女性飛行士が、ライヴァルの女性をなき者にしようと画策して事件を起こし、ニューズ・ネタになっていた。「ルーシー・イン・ザ・スカイ」がその話を元ネタにしているかどうかは定かではないが、私ですらまだよく覚えているこの話を、脚本/監督のノア・ホウリーが知らないわけはなかろう。地上や日常での最もどろどろとした話と、そういうところから最も遠い宇宙という両極端の世界が同一軸上で交わる話を作ってみたいと考えたとしても、不思議はない。 

 

ところで現在、史上最初の女性宇宙飛行士だけによる宇宙遊泳ミッションが実現して、ニューズになっていた。ルーシーが危惧せずとも、やるべきことをきちんとやっていたら、再び宇宙に行けた可能性は高い。時々、ちゃんと世界は進歩していると思わされる。 

 

ところで、タイトルからビートルズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ (Lucy In The Sky With Diamonds)」を連想する者も多いと思う。私もそうだった。実際に曲自体はトレイラーや作品中に流れもする。ではあるが、ところが話自体には特にビートルズや曲を連想させるものはない。察するに、「ルーシー・イン・ザ・スカイ」は、ビートルズの曲と、現実にあったNASAの事件の両方から触発されて膨らませた話だと邪推するのだが、どうだろうか。 











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女性宇宙飛行士のルーシー・コーラ (ナタリー・ポートマン) が、初めての宇宙でのミッションを終えて地球に帰還する。宇宙体験は想像を超えるもので、ルーシーは次のミッションにも選ばれて再び宇宙を目指すべく、以前にも増して精力的かつ禁欲的、半ば偏執狂的に日々精進に励む。一方で家に帰れば、理解のある夫ドリュウ (ダン・スティーヴンス) と、難しい年頃の娘のブルー・アイリス (パール・アマンダ・ディクソン) がいて、さらに老齢の母ナナ (エレン・バースティン) もいるなど、些細な日常の雑事もあった。NASAでは宇宙に行ったことのある飛行士だけの排他的クラブに誘われ、気持ちの浮わついていたルーシーは、つい先輩飛行士のマーク・グッドウィン (ジョン・ハム) の誘惑によろめいてしまう‥‥ 


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