Long Day's Journey Into Night


ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ  (2021年6月)

「ロングデイズ・ジャーニー」は確か一昨年、アメリカでもかなり長い間公開していた。ちょっとチェックしてみると、中国映画で、ミステリ仕立ての恋愛ロマンみたいな紹介のされ方をしていて、気にならないことはなかったんだが、特に大型作品というわけでもないだろうに2時間半近く恋愛絡みの作品ということに気が引けて、結局見ずじまいだった。 

 

知らない監督に俳優と思っていたからでもあるのだが、後で調べると女優の方のタン・ウェイはアン・リーの「ラスト、コーション (Lust, Caution)」の彼女だった。「ラスト、コーション」では新人として紹介されていたと記憶しているが、女優として順調に仕事しているようだ。 

 

いずれにしても、今回、次見る作品を探していたらたまたま「ロングデイズ・ジャーニー」が引っかかってきた。タイトルを覚えていたのでこれも何かの縁と見始めたはいいが、この作品、最初の20分で既にストーリーを追えなくなった。主人公のいる世界が夢か現かわからず、タン・ウェイ演じる女性も、その存在がよくわからない。時間軸もはっきりしない。雰囲気たっぷりだが、結局どういう話かよくわからず、途中で飽き始めたというのが正直なところだ。こういう作品が製作されてしかもヒットするなんて、わりと中国の民度も高いなと思いながら見ていた。 

 

そしたら、映画も終わりに近くなって、もしかして、これ、1シーン1ショットでずっと撮ってない? と、はっと気がついた。どこから長回しになった? ビリヤードのシーンからか? その前のブランコだかリフトのシーンも長かった。既にあそこから始まっていたのか。いや待て、その前のモーターサイクルのシーンも長かったぞ。もしかして卓球のシーンも1ショットで撮っていたっけ? なんで少年ばかり映してカメラを切り返さないんだろうとは思ったんだよ、しかしそれ以前だともう何があったか思い出せんぞ、どうしよう、と俄然焦る。 

 

それにしてもカットでなくて俯瞰での村の移動撮影になったのは、1シーン1ショットをずっと続けるつもりだからか。それにしてもどこまで続く? と思っていたら、そのまま最後まで行った。どのくらいあった? 30分はあったよな。そうか、これがあったからこの映画、カルト化していたのかと気がついた。 

 

しかも後で調べてみると、この映画、途中から3Dになるそうで、そこから1シーン1ショットになるということだ。その時、登場人物が観客にサインを送るというギミックまでついているという。3Dと1シーン1ショットか。しかもオフィシャル・サイトによると、30分どころか1時間の長回しだそうで、そんなにあったのか。 

 

サインというのにまったく気づかなかったというのも業腹なので、hulu (で見ていたのだ) に再度アクセスして、主人公が一緒に卓球する少年に会う前に入った映画館で、たぶん3Dグラスをかけ、その時にようやく、主人公が見る映画ではなく、「ロングデイズ・ジャーニー」のタイトルが現れる、それが合図になっていることに気づいた。そうか、なんで今頃作品タイトルかとは思ったんだよ。でも上映が始まって30分経ってタイトルが現れる映画というのもないわけじゃないから、それ以上は気にしなかった。 

 

いずれにしても、後半のこの1シーン1ショットを3Dでやったというのは凄い。全編を1シーン1ショットで撮ったサム・メンデスの「1917 命をかけた伝令 (1917)」と「ロングデイズ・ジャーニー」の3D1時間の1シーン1ショットとでは、いったいどちらが凄いのか。3Dの撮影機材で1シーン1ショットなんて撮れるのか。3Dですらないマーティン・スコセッシの「アイリッシュマン (The Irishman)」は、2DのくせにCG後付けのために何台ものカメラで同時撮影していたが、要するに、3Dカメラってあんな感じだろう。あんな大型のカメラ、手持ち撮影できるのだろうか。 

 

私はこれまで、だいたい見る作品を決める時は映画館で本編が始まる前の予告編を見て、面白そうだなと思った作品から候補にしておくというスタイルで映画を見てきた。それがパンデミック以降、映画館が封鎖になってこのやり方が使えなくなった。それで最近は、例えばアカデミー賞にノミネートされている作品をストリーミングで探して見てたりする。そうすると、今度はそのストリーミング・サーヴィスで次の作品を推薦してくる。今回もそうやって「ロングデイズ・ジャーニー」が配信されていることを知ったために、映画の予告編を見たこともなく、本当に一昨年ロングランしていた中国映画ということと、ミステリ仕立てのラヴ・ロマンスということ以外にほとんど内容を知らずに見た。 

 

もちろんそのおかげで1シーン1ショットのことをまるで知らずに見れたわけで、そうやって自分で何も知らずに見て、今この瞬間、超ロング1シーン1ショットの真っ最中ということに自分自身で気づいて驚愕する方が、何倍も印象が強烈になるのは言うまでもない。これが全編1シーン1ショットの「1917」の場合だと、最初からそのことで話題になっているために、その事実を知らずに作品を見るのはほぼ不可能だったりする。それに較べれば今回は、そうだったのか、という驚愕を満喫できて、実は最高のシチュエイションで見れたなと、満足度は高い。別に3Dじゃなくてもいいです。 


 











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ルオ・ホンウ (ホアン・ジエ) は父の死後、久方振りに故郷にかえってくる。なんの未練もない町だったが、ある一人の女 (タン・ウェイ) のイメージが、頭から離れなかった。その女は有名女優と同じ名を持っていた。ルオは女を追い求めるように町を彷徨い、いつしか夢か現実かわからない世界に足を踏み入れて行く‥‥ 


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