Enemy


複製された男  (2021年12月)

オミクロン変異ウイルス蔓延のために、ついに年末の帰省を断念する。先月末で、既に入国後3日間の強制隔離と14日間の待機期間というお達しがあったのに、オミクロンのせいでさらに強制隔離期間が6日に増えた。 

 

ただでさえ地方出身者はその14日後に初めて田舎に戻ることが許されるのに、さらに6日加算され、アメリカから帰省するためだけにほぼ3週間が必要だ。いくらリモートでいくらか日本でも仕事することはできるだろうとはいえ、これでは帰省する意味がない。東京で美味いもの食うという夢も叶いそうもない。いつでも帰れるようにブースター・ショットまでちゃんと射ってるのに。 

 

さて「複製された男」だが、こないだ「デューン 砂の惑星 (Dune)」を見て、最近、演出のドゥニ・ヴィルヌーヴはSFづいてるなと思ってフィルモグラフィをチェックしていて、そういえばヴィルヌーヴ作品に見落としているものがあったことを思い出した。 

 

その作品「複製された男」は、話題になった「プリズナーズ (Prisoners)」と同じ2013年に製作され、「プリズナーズ」同様、主演にジェイク・ジレンホールを起用している。大きく異なるのは「プリズナーズ」がシリアスなドラマ、一方の「複製された男」がSFホラーというジャンルの差で、思い詰めた、もしくは追い詰められた主人公に扮するジレンホールは、印象としてはどちらも甲乙つけ難い。 

 

それなのに「プリズナーズ」が多く人々の目に留まり宣伝されたのと対照的に、「複製された男」の方は、私はそんな作品があったことすら長い間気づかなかった。本当に公開されたのかと思って調べてみると、2014年春に確かにアメリカでも公開されているが、一部の単館公開か映画祭サーキットでの上映に限られたようで、内容が見る人を選びそうなのを考えると、それも納得ではある。 

 

ヴィルヌーヴはカナダ出身であり、「複製された男」は多くトロントで撮影されている。人工的に整備されているという印象の強いアダムのアパートや街並みから連想するのは、同じくカナダのトロント出身のホラー映像作家デイヴィッド・クローネンバーグが撮った一連の初期のホラー作品群で、特に「シバース (Shivers)」の高層ビルを強く思い出した。と思って調べてみると、実は「シバース」が撮られたのはトロントではなく、モントリオールだった。ま、そんな遠く離れているわけでもないし、そんなもんか。 

 

 

注: 以下、展開に触れてます。 

 

「複製された男」がほとんど無視されたのは、ちょっと無理筋の展開、および最後のなんちゃって結末にあるのは間違いないところだと思う。冒頭のエロティックな導入部 (これもクローネンバーグを連想した理由の一つ) から、アダムが自分のドッペルゲンガーをヴィデオに見つけて憑かれたように追いかけるまではいい。 

 

しかしアダムがアンソニーにホテルで会うという展開は、それまでのアンソニーの態度を考えるとご都合主義的という印象を拭えない。最後のシーンは、自分がこれまで見ていた映画はいったい何だったのかと驚愕必至で、エロティック・ホラーからなんちゃって怪獣ものに一挙に話、印象が飛ぶ。ある意味、強烈な印象を残すのは確かだが、しかし、オレが見ていたのはこんな作品だったのかと一種、脱力感もかなりのもんだ。 

 

この最後の幕切れは、イザベラ・ロッセリーニ演じるアダムの母を暗示しているという解釈が一般的なようだ。それで思い出すのは、ロッセリーニが様々な昆虫・生物に扮する「グリーン・ポルノ (Green Porno)」で、まさしくロッセリーニがそれに扮していた。「グリーン・ポルノ」は2008年、「複製された男」は2013年製作であり、「グリーン・ポルノ」が「複製された男」に影響しているというのは、かなりありそうだ。でも、私個人としては、ロッセリーニにはどちらかというと母性的なものを感じるのだが。 


 










< previous                                      HOME

トロントの大学で歴史を教えているアダム (ジェイク・ジレンホール) は、最近気分がすぐれず、同僚の教授からたまには映画でも見たらどうかと勧められる。自宅アパートでレンタルしたヴィデオを見始めたアダムは、その中に出ている俳優が自分自身に瓜二つなのを見て驚愕する。瓜二つというよりも、その男は自分自身にしか見えなかった。アダムは映画のクレジットを手がかりに、インターネットを使ってその俳優アンソニー (ジレンホールの二役) の住所と電話番号を突き止める。最初は電話でけんもほろろの応対をされるアダムだったが、最終的に二人はホテルの一室で会うことに合意する‥‥ 


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system