グリーン・ポルノ

放送局: サンダンス

プレミア放送日: 7/22/2008 (Tue) 20:30-20:45

製作: サンダンス・チャンネル

製作: リック・ギルバート、ジョディ・シャピロ、イザベラ・ロッセリーニ

脚本/監督/主演: イザベラ・ロッセリーニ


内容: 昆虫の生態/セックスを描く短編集。


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インディ映画専門のサンダンス・チャンネルが製作した、実験的作品「グリーン・ポルノ」というタイトルだけは知っていた。なんでもそのサンダンス主催のインディ映画の登竜門サンダンス映画祭にて評判になったらしいということだが、その中身はというとよく伝わらないというか、聞いたり読んだりしてもほとんど意味がよくわからず、イザベラ・ロッセリーニ監督主演の昆虫のセックスを模した珍妙な作品ということだけはなんとか記憶に残っていた。


それがある時いつものように深夜トーク・ショウを見ていると、ロッセリーニが出てきてしきりにその「グリーン・ポルノ」の宣伝をしている。どうやら作品が今回そのサンダン・チャンネルにて本邦初放送されるということで、宣伝に余念がないらしい。だいたい私は深夜トークはチャンネルを切り換えたりしながらCBSのデイヴィッド・レターマンがホストの「レイト・ショウ」とNBCのジェイ・レノがホストの「トゥナイト」を交互に見たりしているが、その両方にロッセリーニがゲストとして出て宣伝していたので、マジで推されているのは確かなようだ。


それよりもなによりもその時にちらと紹介された「グリーン・ポルノ」のクリップにはかなり驚かされた。オール・スタジオ撮影で背景なし、簡単なセットを組んだだけで、ロッセリーニが様々な昆虫に着ぐるみで扮し、それがどうやって生殖活動を行うかだけに焦点を絞って製作されたのが、「グリーン・ポルノ」である。これが通常の作品なら、できたものを見るだけで製作に至った事情や裏話など普通は気にかけないが、今回ばかりは事情が違った。いったいどのような経緯でこのような作品が製作されてしまったのか、さすがに気になった。


そもそもの発端は、インディ作品にもよく出演してサンダンスとも関係があったロッセリーニに、サンダンスが話を持ちかけたものらしい。サンダンスはiPhoneやブラックベリー等のモービル媒体で視聴することのできる、短編シリーズのコンテンツ製作を模索していた。つまりそのコンテンツは、せいぜい数インチのモニタで見ることを考慮した、シンプルな、数分程度の作品である必要がある。


一方サンダンスは、早くから環境保存に留意した番組を製作放送してきたことでも知られている。そこでサンダンスはロッセリーニに、短編シリーズで、環境にも留意し、なおかつ「フラッシー (Flashy: 派手)」なコンテンツはできないものかと相談した。そこでロッセリーニが考え出したのが、「グリーン・ポルノ」であったということだ。ロッセリーニは、「私にとって『フラッシー』とはすなわちセックスのこと」だったと答えている。


そしてでき上がった「グリーン・ポルノ」は、バグ (虫類一般) のセックスの仕方を教えるという、半エンタテインメント、半教育番組的なキッチュな味わいの、それぞれが1分強の8つのセグメントから成る摩訶不思議な作品となった。その全部をロッセリーニが脚本を書き、演出主演している。だいたいどのセグメントも冒頭に素顔の (着ぐるみを着ていないという意味。ノー・メイクということではない) ロッセリーニが登場し、その回の内容をちょこっと紹介、あとはだいたいロッセリーニのヴォイスオーヴァーで進行する。ロッセリーニが扮するのは:


●トンボ●ホタル●クモ●ハエ●カタツムリ●ミツバチ●カマキリ●ミミズ


の8種で、どれもそれなりに興味深い。カマキリは交尾中にメスがオスの頭を食いちぎって食べてしまうという話は有名だから知っていたが、ミツバチは交尾後、オスの生殖器はそこで折れてメスの生殖器の蓋代わりになってしまい、オスはそのまま失血死するなんて話は初めて聞いた。クモのオスもメスと交尾しようとして不用意に巣の中央で獲物がかかるのを待っているメスに近づき過ぎると、餌と間違えて食べられてしまうことがあるそうで、そのため、オスは細心の注意を払ってメスに近づくと、一瞬の隙を突いてメスの生殖器に自分の精子をなすりつけると、あとはすたこら逃げ出すだけだそうだ。


こういう、自分の命と引き換えに最初で最後のセックスをしたり、抜き足差し足でレイプにすらならない交尾が楽しいかと思うが、彼らはたぶん快楽のためにセックスしているわけではなく、ただ遺伝子に組み込まれた本能によって交尾しているだけだから、快楽は最初から求めてないんだろう。いずれにしても、こうやって命を賭ける方はどの種でもオスで、だいたいメスはオスを犠牲にして受精したりする。オスの世話で寝て食って交尾して卵を産むだけで一生を終える女王バチなんかその最たるものだ。


これが進化して哺乳類とかになると、明らかにメスの負担の方が大きくなると思えるのは、虫と違って哺乳類になると、受精した子が母親の胎内にいる妊娠期間が長くなること、および子供の時に自分で食料を調達することができず、親の庇護下でいる必要があり、基本的にそれは母乳をあげる母親の役目になるからだろう。どうやら進化によってわりを食ったのは女性のようだ。


このような内容の興味深さと共に、やはり印象に残るのは、シンプルかつカラフルな造型とイメージ、そしてそれぞれの虫に扮したロッセリーニの怪演? だ。ロッセリーニは毎回その時のテーマとなる虫に扮するのだが、基本的にオスの方を演じ、いざ合体という時には、その相手は人形、模型だ。そういうプロップを相手に男役のロッセリーニが腰を振って見せたりするのだ。そのヘンさ加減がたまらない。顔に6つの目を持つオスグモに扮した時は、メスグモを受精させると、クモ歩きにすたこらさっさと逃げる。思わず噴き出してしまう。


しかし視覚的に最も強烈なのは、カタツムリに扮した時だろう。そのセグメントでロッセリーニは、私は身体が柔らかいので全身をすっぽりと殻の中に滑り込ませることができる、しかし時によっては私の頭の上に自分のケツが来ることもある、と言うと、そのケツの穴からにょろにょろと便が出てきてロッセリーニの顔に降りかかるのだ。その時のロッセリーニの、諦めとも快感ともつかない表情がまた笑える。あんたその系の人か? ロッセリーニはミミズに扮したセグメントでもお尻の方から便、尿を排泄していただけでなく、カタツムリはお互いを突き刺しながらSMセックスをして興奮する、なんてことを言っていた。ロッセリーニって結構やばいかもしれない。なんてったって「ブルー・ベルベット」の人間だし。


とにかく実験的な作品ということには一分の疑いもなく、時に笑え、感心させ、知識も得ることができるというと言うことないが、しかし、それはそれとして、ではいつ、どんな時にこの作品を見るのかという疑問は残る。実際に私は見たわけだが、それはたまたまであって、しかもTVだ。作品本来の目的である移動体器機向けのコンテンツとしては、いったいどういう時にこの作品が提供されるのだろうか。確かに携帯向きだとは思うが、しかし、本当に人はわざわざ携帯でエンタテインメント・コンテンツを見ようと思うだろうか。


私は家では四六時中TVを点けっぱなしにしているが、いったん外に出ると、コンピュータでならまだしも、わざわざ携帯でTVや映画、エンタテインメント作品全般を見ようとはまったく思わない。まず第一に画面が小さくて見づらい。そういうわけで自分自身に照らし合わせてみると、モービル器機向けエンタテインメント・コンテンツというジャンルには懐疑的なのだが、しかし小さい時から携帯片手に育った携帯世代にとっては、このような形のエンタテインメントもありなのかなと思う。おっさん、古くさいと言われそうだ。







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