放送局: スパイクTV

プレミア放送日: 3/13/2007 (Tue) 22:00-23:00

製作: ロケット・サイエンス・ラボラトリーズ、ブルランLLC、マルーフTV

製作総指揮: クリス・コーワン、ジャン-ミシェル・ミシュノー、シャルル・ダンコム、ジョー・ロジャース、アンドリュウ・ダンカン、デイヴィッド・グリーン、フィル・マルーフ、アンドリュウ・ジャイミソン

ホスト: ビル・ゴールドバーグ


内容: 12チームによる勝ち抜きアメリカ大陸縦断レース。


参加チーム:

チーム・1957 チェヴィ (ラルフ・ダイザ&シーザー・セハ) 1957 チェヴィ 210

チーム・ランボルギーニ (ジェフ・マーシャル&ジョン・エルティンガム)- 2003 ランボルギーニ・ムルシェラゴ

チーム・ニッサン (エリック・ヒンクリー&ジェレミー・スミス) 1997 ニッサン 240SX

チーム・ハースト・オールズモービル (アンドレ・サクエイラ&リチャード・サクエイラ) 1975 ハースト・オールズモービル W-30

チーム・ポンティアック・トランザム (マイク・オルソップ&モーガン・オルソップ) 2002 ポンティアック・トランザム WS6

チーム・ロータス (ブライアン・ニューベリー&ダニー・クライン) 2007 ロータス・エキシージ S

チーム・ホンダ・シビック (パリス・ジャクソン&ダーティ・ライス) 1996 ホンダ・シビック LX 4ドア・セダン)

チーム・ムスタング・ファストバック (フィリップ・デュラン&リッチ・ブラノン) 1965 ムスタング・ファストバック 2+2

チーム・サイオンTC (ディミトラD&アンドレア・アビノザ) 2007 サイオン Tc

チーム・フォードF150ラリアート (ジェイソン・ウォレス&ジェイク・キートン) 2004 テキサス・ランチ・エディション F150 ラリアート 4x4

チーム・BMW M3 (JRレイズ&チャック・アグイラー) 2001 BMW E46 M3

チーム・ダッジ・チャージャー (マイク・ムスト&ジム・アシエルモ) 1968 ダッジ・チャージャー


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最初、背景にレース仕様の車、前景に元プロレスラーのビル・ゴールドバーグが腕組みをしてでかでかと映っているこの番組のポスターがサブウェイのプラットフォームに貼られているのを見た時には、私はてっきりこれは「ワイルド・スピード (The Fast and the Furious)」系統の映画だとばかり思っていた。


TV番組をさも映画風のポスターを刷って宣伝に努めるのはもちろんないことはないが、どうやらカー・アクションを前面に押し出した作品というのは、TVよりも映画の方が合いそうな気がする。カー・レース映画の「レッドライン (Redline)」というのも封切られたばかりだし。


そしたら「ブルラン」は勝ち抜きのカー・レース・リアリティ・ショウであったことを後日知ったわけだが、へえと思うまもなく、今度はFOXがやはりカー・レース・テーマの、こちらはドラマ新番組「ドライヴ」の放送を始めた。リアリティ・ショウとドラマというジャンルの違いはあっても、どちらもアメリカ大陸を移動しながらの撮影になるのは避けられず、製作費も撮影日数も嵩むのは避けられまいと思うが、まあ一視聴者の立場からすれば、面白い番組さえ見られるならば、それに越したことはない。


この「ブルラン (Bullrun)」というのは、実は同名のアメリカ大陸横断レースというのが実在していて、そのタイトルを借りている。オリジナル・レースの方は2004年から始まっており、カー・レースというよりは、様々なクラシック・カーや徹底して改造を施したマッスル・カー、純粋なスポーツ・カー等を一堂に集めて、だいたい一週間をかけて町から町へと練り歩く (走る)、どちらかというとお祭り騒ぎ的なイヴェントだそうで、タイムを競うだけでなく、一日の終わりには毎夜盛大なパーティがあるそうだ。要するに、お金持ちのお祭りである。実際の話、本当にタイムを競うだけなら、どう考えたってどんなチューンを施してあろうとも、クラシック・カーの出番なぞあるまい。


参加も金も名誉もあるセレブ的人間に限った招待オンリーであり、それなのに申し込み料金として17,500ドルもとられる。そんだけの金を払った挙げ句参加を断られる場合もあるわけで、それだけの金を捨て金と思えるだけの人間しか参加しない。要するに世の中にはそのくらいの金は屁だと思っている金持ちが結構いるんだろう。因みに2004年のブルランはLAからアメリカを横断してマイアミがゴール、2005年は西海岸巡回のLA発LAゴール、2006年はNY発LAゴールで、タイムズ・スクエアでのスタート時はかなり混乱したというが、私はそんな話初めて聞いた。まあ、タイムズ・スクエアっていつもなんかイヴェントがあって人がやたらといたりするから、そうそうなんでもかんでもニューズ・ネタになるわけではない。今年2007年のブルランは、5月にカナダのモントリオール発、マイアミ・ゴールだそうだ。


一方、TV版「ブルラン」の方は、基本的に費用はTV局持ちであり、見ているとどう見てもお金には縁がなさそうなやつらも見える。彼らの乗る車の種類も様々で、1957年のチェヴィなんて、生まれて半世紀、普通にあるならば走りさえすればめっけものだろう。しかし、こういう車をぴかぴかに磨き上げてチューンして、とにかく馬力だけはあるとういう風に改造するのがアメリカの車好きだ。私もいかにもああいうでかくて頑丈だけが取り柄というアメ車というのも実は嫌いじゃないのだが、ではオーナーになりたいかというと、それは願い下げである。毎月必ずどこかでぼろが出て、維持費だけでバカになるまい。


本家のブルランとは異なり、TVの方は、少なくとも主眼はタイムに置いたカー・レースである。毎回最下位になった者から脱落していき、優勝チームには20万ドルという賞金も出る。決して小さくはない金額だ。出発はモンタナ州ホワイトフィッシュで、番組第1回ではそこからアイダホ州アソールまでとワシントン州シアトルまでの2区間で速さを競う。途中ではドライヴィング・テクニックを競うコーナーが設けられており、サーキットの両側に棒状のスタンド上に設えてある100個程度のランプを、車の屋根にとり付けた両側に伸びた特殊アームで叩き割りながら進む。ミスると一個ごとにペナルティがつき、時間に直して持ちタイムに加算される。


まず区間勝負であるが、まずその日に地図が手渡され、そこで初めてどこに行くかがわかる。地図上には最も簡単なフリー・ウェイを中心に走るルートが記されているが、参加者は必ずしもその通りに走る必要はない。自分でもっと効率的なルートを探しながら走っても可だ。ただし道を間違えたら、それは即自分に跳ね返ってくるのはもちろんだ。下の道にはボーナス・ポイントも用意されており、そのチェック・ポイントを走ることによって、30分とか1時間といったボーナス・タイムをもらうこともできる。ただしこれには数に限りがあり、そこを通ったからといって全員がボーナス・タイムをもらえるわけではない。


参加チームはすべて二人組みで、当然一人がドライヴァー、もう一人がナヴィだ。男性二人の友人同士というチームが最も多いが、父娘や女性同士というチームもある。壮観というか、むしろ奇観という印象に近いのが、やはり彼らが乗る車だろう。TV版「ブルラン」は本家と違ってタイムを競うものとはいえ、やはりどう見ても単純にタイムを競ったらたぶん話にならないだろうという車が揃っている。ホンダ・シビックはそりゃ「ワイルド・スピード」では活躍したろうが、あの排気量ではどう見ても長距離向きとは思えない。ブルランは4,000マイルを走るのだ。女の子二人が乗るトヨタ・サイオンなんて、これも実はかなり走りはするんだろうが、しかしねえ。


一方オールド・カーは、前述のチェヴィなんて、エンジン乗せ換えなければ勝負にはならないだろうが、違うエンジン乗っけてもチェヴィと言っていいのか。ダッジ・チャージャー、ハースト・オールズモービル、ポンティアック・トランザム、ムスタング・ファストバックなんて、クラシック・カーであり、特にムスタングは、年代こそ違えかの傑作「ブリット」や、最近でも「60セカンズ」でフィーチャーされてたりもするのだが、私の印象では、この手の車はやはり「ダーティ・ハリー」系で、思う存分車ごと体当たりして大破するための車という印象の方が強い。あるいは死体をトランクに積んで谷底落とされるとか。アメ車はトランクを開けたらそこに人が横になってたというのがやはり理想だ。

Bullrun

ブルラン   ★★1/2

これらの対極にいるのが、ランボルギーニ・ムルシェラゴ、ロータス・エキシージを両雄とする文句なしのスポーツ・カーだ。ここにニッサン240SXとBMW M3を加えてもいいだろう。どう考えても単純にサーキットを走らせたら、トップ・スピードと加速に勝るこれらの車に勝てるわけがない。そして最も意外なのが、フォードF150だろう。これ、ピックアップ・トラックである。どう見ても走り重視の車じゃない。そりゃ四駆だから悪路のレースとかになれば俄然実力を発揮はするだろうが、所詮トラックはトラック、荷台のある車が普通のレースに参加するかと思ってしまう。ただし車高は高く見晴らしもよく乗り心地もよさそうで、自分で運転することを考えると、ランボルギーニなんかより実はこちらの方がよほど私にはアピールする。こういう風につい思ってしまうところが、私もいつの間にかアメリカに毒されているという証拠なのかもしれない。


さて、単純に考えてスポーツ・カーの方が断然有利に見えるブルランだが、もちろんそうじゃない。先頭を走ってたって、一本道間違えれば帳消しなのだ。さらに公道を走るレースであり、そこにはポリス・カーも目を光らせている。スピード違反で捕まれば時間をロスした上に罰金、スピードによっては下手すりゃ即免停か取り消しだ。実際番組第一回で、既にポリス・カーに車を止められていたやつらがいた。飛ばせばいいってもんじゃない。それにしても、ポリスから免許証の提示を求められて、免許を忘れてきていたことに気づいたあの男は本当にバカだ。スパイクTVは免許の確認もせずにレースをスタートさせたのだろうか。


というわけで、ポリスがいそうもない直線一本道でランボルギーニがその気になると、本当に飛ぶようにびゅんびゅん先行車を追い抜いていくのだが、そういう見せ場ばかりというわけにもいかず、結局最終的には全車団子の状態になる。ただ飛ばすわけには行かないとなると、むしろ大きく影響するのは車そのものよりもドライヴァーの腕、さらにそれよりも端的に言ってナヴィの的確な指示こそが勝負に直結する。実際、かなりみんな道を間違えてUターンしてたり言い争ってたりしていた。


こういう事情もあるため、レースは各々の実力勝負というよりも、「サバイバー」「ジ・アメイジング・レース」等の勝ち抜きリアリティ・ショウに見られる、数チーム毎の擬似協力体制というものがすぐにできて、お互いに協力し合ってたりしていた。ある車が石を跳ね飛ばしてラジエイターに穴を開けると、他の車がやってきて応急修理に手を貸していたりする。今貸しを作っとけば、後で有利になるかもしれない。カー・レースといえども相手がいての公道勝負なら、こういうポリティカルなパワー・ゲーム的要素が加わらざるを得ない。


一方、ドライヴァーの腕がポイントになるのが毎回織り込まれているドライヴィング・テクニックのチャレンジ・コーナーで、例えば番組第2回のこのコーナーでは、走っているバスの両側に数本ずつとり付けられたオブジェクトを、自分の車の屋根にとり付けたアームで右、左と交互に破壊する。一個破壊したらすぐ減速してバスの後ろにつき、逆側に回ってすぐ加速を繰り返さなければならず、見てて結構エキサイティングだった。やっぱレースの醍醐味は加速と減速、それにカーヴにある。私が車社会のアメリカを代表するレースであるNASCARよりもF1の方が好きなのは、ここに理由がある。視覚的に単調なオーヴァル・コースでのほとんど馬力に頼った高速巡航レースであるNASCARは、F1ほど面白いとは思えないのだ。さて、この回のチャレンジではシビックのドライヴァーがバスに近寄りすぎてアームをぶつけて折り曲げてしまうというアクシデントがあり、当然の如くタイムを落として脱落していった。これらのチャレンジは他チームとの一対一勝負であり、下位チームがそれに勝つと、上位チームとポジションを入れ換えるというギャンブル性が加味されている。


実は番組を見ていて最も印象深いのが、レース・シーンよりも、こういう番組が製作されること自体だったりする。公道レースなのだ。どう考えてもどこかで誰かが法を破ってスピード違反するのはわかりきったことであり、そうである以上、お上がこういう番組を製作することに難色を示さないわけがない。それが普通の判断というものだろう。ところが番組第1回では、参加者の一人は道を訊くために車を警察署に横付けして、よりにもよって警官に道を訊いていた。それで俺たちはレースで急いでいるから近道を教えてくれとでも訊ねたのだろうか。カメラがそのシーンをとらえている以上、そういった話にならなかったわけはなく、たぶん理由もちゃんと答えたと思うのだが、そこで警官はスピード違反はしないようにとでも言って送り出したのだろうか。これが日本だったらあり得ない状景だと思う。


さて、番組は第1回では唯一の女の子ペアだったサイオン・チームが去り、第2回では途中で車のトラブルに見舞われたニッサン・チームと、まず日本車チームが2台連続して脱落した。結果は2区間の総合タイム、およびドラテク勝負を加算して決まるから、だいたい自分たちチームがどの辺にいるという大雑把な感じはわかっても、発表があるまで正確な順位はわからない。最初の回のサイオン・チームの女の子なんて、自分たちが最下位だとはまったく思っていなかったようで、発表に憤っていた。


これまでを見るに、やはり車の性能の差は、それほど最終的な順位には関係していない。ちょっとしたドライヴィングの腕とナヴィの力さえあれば、車の性能の差なんて簡単にひっくり返せる。だからこそランボとチェヴィが同じ土俵の上を走っても勝負になるわけだ。それに臨機応変に状況に対応する判断力こそが勝負のポイントだ。もちろんそこに運を加味することも忘れてはならない。それでも、いつものように私の予想を言うと、優勝は‥‥ああ、今回ばかりはまったくわからんわ。いつだって誰にでも一発逆転のチャンスがあるからなあ。それでも選ぶとするならば、うーん、穴狙いでフォードF150チームってことにしとこうか。自分でも当たる気がしないけど。



追記 (2007年5月)

「ブルラン」で最後の3組に残ったのは、フォード、オールズ、トランザムの3チーム。自分で言っといてなんだが、本当にF150が最後まで残った。こうなったら優勝を目指してもらいたい。と思っていたら、そのフォード・チームは最後の結果発表で先に3位が確定する。結局優勝は父娘のトランザム・チームで、2位が友人同士のオールズ・チームということになった。トランザムの父の方はこれまではナヴィに徹し、娘が車を運転していたのだが、優勝が確定した瞬間、車に乗ってその場で派手にタイヤから煙を上げながらスライドさせて円を描く、NASCARでよく見るウィニングのホイール・スピン (と言うのだろうか) を見せる。なんだ、彼だってかなり運転できるんじゃないか。


いずれにしても最後まで残ったのは全部アメ車、それもトランザム以外はどこから見ても走らなさそうな車が残っちゃって、やはり運転技術20%、運80%といったところかと思わせた。オールズなんて、最後の最後でブレーキの効きがおかしいからといきなりガレージに車乗り入れて結局修理できなくてすぐ出てきていた。最初から調子悪かったなんて言ってたが、だったら直して参加しろよと思ったのは私だけか。






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