「ブレインデッド」クリエイターのロバート・キング、ミシェル・キング夫妻は、先頃最終回を迎えたCBSの「ザ・グッド・ワイフ (The Good Wife)」のクリエイターでもある。
「グッド・ワイフ」は特に私のお気に入りの番組というわけではなかったが、アメリカでの評価は高く、よくエミー賞にもノミネートされていた。見てみると確かによくできていると思う。
番組の最終回は、どうやってこれまでの話に幕を引くか作り手も頭を悩ますところだが、いかにも大団円という展開にせず、ほとんどいつもの話のように進んだ。けじめをつけるべきところはつけ、けじめのつかないところはけじめのつかないまま終わらせ、なるほど必ずしも最後に花火を打ち上げる必要はないのだなと思わせた。要するに、やっぱり上手な作り手たちだ。
そのキング夫妻による新ドラマ「ブレインデッド」は、今度はワシントンDCを舞台にするポリティカル・ドラマ、というと、ふうんなるほど、と思うだけだが、それが実はDCの政治家がエイリアンに身体を乗っ取られ、痴呆化傀儡化していくコメディSFスリラーというなんともけったいな番組ということを聞いて、興味が湧いてきた。
最近の世界の政治は、右を向いても左を向いても、またか、とがっかりさせることばかりだ。日本の政治家にもがっかりさせられるが、やはり本気でマジかと世界平和と将来を憂えてしまうのが、アメリカのドナルド・トランプの台頭だろう。
よく考えれば、というか考える必要すらなく、こいつの大統領立候補はジョーク、というかジョークにすらなってない三文芝居でしかなかったのに、それが本気で共和党代表になり、本気でアメリカ大統領になる可能性まで浮上してきた。ごく普通の判断力さえあれば大統領になる資質があるかどうかなんて一と目でわかるのに、アメリカ国民の目は節穴だらけかと本気で訝ってしまう。
キング夫妻も、これは変だ、なんでこういう事態になったのかと思ったに違いない。そして閃いたのが、エイリアンによる人類乗っ取りだったのだろう。トランプが票を獲得するためには、トランプだけでなく、トランプの周囲と彼に投票する人も含めた大多数の人間の乗っ取りを必要とする。無尽蔵とも言えるアリ型エイリアンは、トランプの台頭をちゃんと説明できる。そうかトランプは人間じゃなかったのか。道理で。
番組主人公のローレルに扮するメアリ・エリザベス・ウィンステッドは、こないだは「10クローバーフィールド・レーン (10 Cloverfield Lane)」でもエイリアンに襲われたばかり。今回もエイリアンの水面下での侵攻を未然に防がなければならない。人類の未来を背負った大任だ。
ローレルの兄で議員のルークに扮しているのが、ダニー・ピノ。NBCの「ロウ&オーダー: 性犯罪特捜班 (Law & Order: Special Victims Unit)」で、オリヴィアのパートナーとして、常に何かに対して怒っているみたいな演技の印象が強かったので、こういう余裕のある政治家みたいな演技は新鮮に映る。
ルークのライヴァルの老獪議員のレッドに扮するトニー・シャルーブは、かつて「メン・イン・ブラック (Men in Black)」においてもエイリアンだったことがあった。すっかり忘れていたが、「ブレインデッド」でエイリアンにやられ、耳の中から膿のような卵のようなものがじゅくじゅく溢れてくるのを見て、突然思い出した。エイリアンに身体を乗っ取られて、痴呆のように見える表情をこれだけうまく出せる役者というのも滅多にいない。最後はまた「MIB」のように頭をぶっ飛ばされるのだろうか。
エイリアンに身体を乗っ取られるという話は、これまでにも何度か製作されている。今春のUSAの「コロニー (Colony)」もそれっぽい話だし、ABCの「ヴィ (V)」、「インベイジョン (Invasion)」なんてのもあった。コメディだってABCの「ザ・ネイバーズ (The Neighbors)」がある。映画では「遊星よりの物体X (The Thing)」、「ボディ・スナッチャー (Invasion of the Body Snatchers)」、「ゼイリブ (They Live)」、「ヒドゥン (The Hidden)」等クラシックが多々あり、M. ナイト・シャマランの作品はある意味この手のテイストが横溢している。
とはいえ「ブレインデッド」の場合、上記のどれとも印象が異なるのは、現在の政治的環境を鑑みて、ホラー・コメディというより、政治に対する風刺、当てこすりという印象が強いためだろう。エイリアンによって身体を乗っ取られたせいとでも考えない限り、トランプが大統領になるという事態は説明がつかない。