V (ヴィ)

放送局: ABC

プレミア放送日: 11/3/2009 (Tue) 20:00-21:00

製作: ザ・スコット・ピーターズ・カンパニー、HDフィルムス、ワーナー・ブラザースTV

製作総指揮: スティーヴ・パールマン、イヴ・シモノー、ジェイス・ホール、スコット・ピーターズ

製作: キャシー・ギルロイ

監督: イヴ・シモノー

脚本: スコット・ピーターズ

オリジナル・ストーリー: ケネス・ジョンソン

撮影: デイヴィッド・フランコ

美術: イアン・トマス

編集: マイケル・オーンスタイン

音楽: ノーマンド・コーベイル

出演: エリザベス・ミッチェル (エリカ・エヴァンス)、モリス・チェストナット (ライアン・ニコルズ)、ジョエル・グレッチ (ジャック・ランドリー)、ローガン・ハフマン (タイラー・エヴァンス)、ローデス・ベネディクト (ヴァレリー・スティーヴンス)、ローラ・ヴァンダーヴォールト (リサ)、モリーナ・バッカリン (アナ)、スコット・ウルフ (チャド・デッカー)


物語: 突然世界中の主要都市の上空に巨大な宇宙船が出現する。エイリアンの代表として現れたアナは人類に対し、我々の望むものを提供してくれるならば高度な技術力というそれに見合う代償を提供する用意があると持ちかける。実際エイリアンの出現は、そこかしこで奇跡を起こしていた。一方FBIのエリカはテロリスト分子を追っていて秘密の会合に潜入する。そこではテロリストではなく、既に人類に紛れ込んでいるとするエイリアンを駆逐するためのものだった。そこでエリカは誰あろう自分のパートナーがエイリアンであることを目の当たりにする。果たしてエイリアンの真の目的は何なのか‥‥


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実はクラシックと言えるSFミニシリーズの「V」を、私は見たことがない。私が東京に住んでいた1980年代に民放のどこかが深夜にやっていたことだけは覚えているが、当時特にTVドラマを見ていたわけではなく、それも深夜枠に編成されているエイリアン侵略ものという海外ドラマに、格別興味を惹かれることもなかった。


だからオリジナルと今回のリメイクを比較することはできないのだが、その後アメリカのTV番組に馴染んだ立場から言うと、やはり今回のリメイクには興味をそそられる。特にABCは近年、「ロスト (Lost)」をヒットさせ、今シーズンも、世界中の人間がいっせいにブラックアウトに陥り、その時に6か月先の未来を予知夢していたという奇想天外な設定の「フラッシュフォワード (FlashForward)」を編成するなど、わりとSFジャンルに力を入れている。


私見では「V」で描かれるエイリアン侵略ものには、いくつかのやり方がある。侵略というからにはだいたいエイリアンは敵としてとらえられているのだが、そのエイリアンがいきなりやってきて地球人相手に戦争に発展するというものと、いつの間にかエイリアンが地球人の中に紛れ込んでおり、じわじわと繁殖しているというタイプの二通りの描き方が代表的だろう。前者だとアクション重視の作品となり、「宇宙戦争 (War of the Worlds)」「クローバーフィールド (Cloverfield)」なんかがある。後者だとそのテイストはホラーに近くなり、「インベージョン (The Invasion)」みたいな作品になる。


そして今年、ニール・ブロムカンプが「ディストリクト・ナイン (District 9)」で、地球に降り立ったのはよかったものの、自星に帰れなくてスラム化してゴミだめを漁って暮らしているエイリアンという、言語道断の設定のエイリアンを描いた。いきなり人類がエイリアンを奴隷化するのだ。これなんか地球は全然侵略されてないが、力関係が逆になっただけで、基本的構造は一緒だ。


そしてさらに、「V」で描かれる、人間とエイリアンの駆け引きを描くネゴシエーションものとでも言うべきスタイルがある。だいたい、エイリアンというと意思の疎通ができないという先入観があるから、力によって相手を打ち負かすか、あるいは相手の知らないところですり替えを完了しておくということになりやすい。しかしこれはエイリアンが好戦的あるいは言葉が通じない時に起こることで、人間の言葉を解することができるほど知能の高いエイリアンなら、まずは外交的に人間と接触してくるだろうから、いきなり戦争や侵略という風にはならない。当然これは考えられることだ。


それで思い出すのは、確かにエイリアンが人間と交渉しようとしていた「地球が静止する日 (The Day the Earth Stood Still)」で、キアヌ・リーヴスがエイリアンとして人類相手に交渉した。そして「V」でも当然、エイリアンを代表するネゴシエイターが登場する。それが番組主人公とも言えるアナだ。リーヴスにせよアナにせよ、高度な文明によってたぶん人類の理想とする容姿を客観化して作り上げられたモデルだから、かなり人工的 (エイリアンが作っているのだから人工的という言葉はヘンなのだが) くさい。それにしても人間的じゃない美しさというのは誉め言葉になるのかどうか。


「V」は番組冒頭で巨大宇宙船が世界の主要都市上空に突如として出現し、人類と交渉したいと申し出る。その代表が人類と似たような容姿を持っているアナだ。もちろん本当の姿が人間そっくりということは考えられず、これは交渉をしやすくするためにエイリアンが造形した一種の便法だ。一方、実はこのように姿を現す前に既にエイリアンは先発部隊を地球に送り込んでおり、水面下で活動をしていた。その先発エイリアンの中には、ほとんど完璧に人類と同化して、人間として生活し、地上で人類の女性と結婚して暮らそうと考えているライアンのような者もいた。


テロリストを追っていたFBIのエリカは、怪しい者を追跡するその過程で、思いがけなくエイリアンたちの存在に気づき、彼らを撲滅しようとしている地下組織に遭遇する。エリカはそこでエイリアンに懐疑的な神父ジャックを知ると共に、誰あろうFBIの自分のパートナーがエイリアンであった事実を知る。パートナーが自分を抹殺しようとしていたのだ。そしてエリカの息子は、人類とエイリアンを結ぶ大使として立候補し、アナの娘リサと恋仲になる。


アナは人類にメッセージを伝えるための仲介役として、TVアナウンサーのチャドを指名する。喜んでその任に当たろうとするチャドだったが、アナは筋書き通りの、人類にエイリアンの好印象を与えるできインタヴュウを欲する。ジャーナリストのはしくれとしてそれはできないといったんは話を断りかけたチャドだったが、しかし、エイリアンとの独占インタヴュウという世界中が注目している大舞台から降りることは、キャリアにとって大きなマイナスだ。チャドはほとんど傀儡となってできインタヴュウを行う‥‥


というのがオープニングで、だいたい以上が主要な出演者だ。一目で気づくのが、かつてFOXでジョス・ウェドン製作のSF「ファイアフライ (Firefly)」に出演していたモリーナ・バッカリン (アナ)、ABCの「ロスト」のエリザベス・ミッチェル (エリカ)、USAの「4400」のジョエル・グレッチ (ジャック神父) 等のSF系番組の常連で、こういった面々のキャスティングだけで、なるほどこれはSF番組なのだなと知れる。


一方、最もSFっぽくないキャスティングなのが、スコット・ウルフ扮するTVキャスターのチャドで、実際、彼がアナとインタヴュウを行うという段になると、SFというよりはお互いの腹の探り合い的な、わずかな表情の変化の演技を楽しむドラマ的な印象が強くなる。演出は数々のTVドラマ、特に過去に題材をおいた史劇やSFで知られるイヴ・シモノーで、グレッチとは「4400」繋がりだろう。


シモノーはどちらかというとアクションよりは内面の葛藤をとらえる演出の方に冴えを見せるという印象があり、「ニュルンベルク軍事裁判 (Nuremberg)」や「インテンシティ (Intensity)」の緊張感を煽るドラマ部分の方が、アクションよりできがいいと思う。特にそれを強く感じたのが、エリカが地下組織の会合に出向き、そこをエイリアンが襲って乱闘になるというシーンで、最近のこの種の番組のアクション・シーンの演出としては、かなりスピード感に欠ける。なんか、かつての西部劇の殴り合いのアクション・シーンを見ているかのようなのだ。今時の若い演出家が撮ったらもっとアクションとしては映えるだろうにという印象を拭い得ない。


他方、こういう演出が効果的なのがチャドとアナのインタヴュウで、二人とも座ったまま、立ったままで、表面ではお互いににこやかな表情を絶やさないまま、内側では腹を探り合って葛藤渦巻くという内面アクションの方が、実際のアクション・シーンより手に汗握るのだ。それはそれで面白いのは事実であるが、しかしそのせいで、「V」はSFというよりドラマという印象の方が強い。


ところでエイリアンのマザー・シップの一つは、東京上空にも出現する。今では東京が描かれる時にほとんど必須となった雑多な歌舞伎町のビル街を背景に、マザー・シップの底面いっぱいにアナの顔が現れ、ヘタクソな日本語で人類とエイリアンとの提携を呼びかけるシーンは結構にやりとさせられる。最近はNBCの「ヒーローズ (Heroes)」以来、特にSFもので日本が舞台になることが多い。今シーズンでも前掲の「フラッシュフォワード」で日本、しかも筑波という設定を、日本に行かないでセットだけで再構築するという「ヒーローズ」同様の荒技を見せていた (因みにこの番組には竹内結子も出ている。)  ウェドンの「ドールハウス (Dollhouse)」でも、こないだのエピソードでいきなり内面世界で日本のお座敷になって、芸妓やニンジャが現れたりしていた。


SFものじゃなくても日本を目にする機会は結構あり、今シーズンのCBSの「ジ・アメイジング・レース (The Amazing Race)」は日本も舞台の一つだった。「V」の歌舞伎町のシーンは本物の絵を利用しているが、これなんか、同じくABCが、こちらは本当に東京で撮った勝ち抜きリアリティの「アイ・サヴァイヴド・ア・ジャパニーズ・ゲーム・ショウ (I Survived a Japanese Game Show)」から、フッテージを流用させてもらっているのではなかろうか。


なんかSF番組では、現実の場所にロケしなくても許されるという暗黙の了解があるようだ。とはいえ「ロスト」では、あれは実際に韓国に行ったとしか思えないシーンがある。現在アメリカではコリアンはエスニックとして確固たる地位を築いており、ところによっては中華街なんかよりよほど大きなコミュニティを持っていたりするから、アメリカ内においてもかなり韓国っぽい雰囲気の場所は探せば結構あると思うが、どうなんだろう、少なくとも「ロスト」では韓国ロケを敢行しているように見えるが。


話は逸れるが、「ロスト」と言えばその「ロスト」に主演級で出ていたミッチェルが、「V」にもまたほぼ主演として出ている。先シーズンの「ロスト」は、ミッチェル扮するジュリエットが核弾頭を爆発させるシーンで終わっており、死んだものと思われるが、現在の「ロスト」はタイム・トラヴェル・ネタで推移しているから、だからといって番組から必ずしもいなくなることを意味しない。実際、ベンに殺されたロックがちゃんと生き返って? 番組に出続けている。


しかし「V」に出ているミッチェルを見て、ああ、ジュリエットは本当に死んだんだな、もう帰ってこないんだなと思った。もし、まだ「ロスト」に出番があるなら、とてもじゃないが別の番組に主演級でかけ持ちなんかできないだろう。同じことはやはり「ロスト」でヒロイックな死を遂げたチャーリーを演じるドミニク・モナハンにも言え、今秋始まった「フラッシュフォワード」でモナハンが出ているのを見た時にも、ああ、チャーリーは本当に死んでしまったんだなと、数年かけてやっとチャーリーの死を納得した。現実の役者の今現在のキャリアを見て、番組の今後の展開や現状を理解する時もある。


「V」は実は4回放送されただけで一時的に放送は小休止し、続きは来年3月からということになっている。これで思い出すのはFOXの「プリズン・ブレイク (Prison Break)」の最初のシーズンで、結局「プリズン・ブレイク」はかなり中休みをとったことが特にマイナスになることもなかった。一方、最初にある程度エピソードを放送して視聴者からなんらかの反響を得た後、そのことをフィードバックして内容にとり入れるというやり方が最近散見されるようになってきた。「フラッシュフォワード」も来年3月まで放送は休みだし、FOXの「ハウス (House)」とかも来年の新エピソードの放送までかなり時間が空く。


このやり方だと、少なくとも視聴者の意見を番組に反映させることができる。ただし、もちろん所定の予定本数をまだ撮り終えていない場合に限られる。その上、番組放送に間が開き過ぎることで視聴者が興味を失ってしまう可能性も否定できないが、そのマイナス分を考慮してもプラス分の方が大きいという判断だろう。それが正しかったかどうかの最終的な判断は、番組の続きが放送されてからするしかない。








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ヴィ   ★★1/2

 
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