アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




  1. 1.  ディズニー+とアップルTV+  

 

今後もHBOのHBO MaxやNBCのピーコック等の新規サーヴィスの参入が控えているアメリカのストリーミング業界だが、少なくとも2019年末時点で、TVおよびストリーミング界を含めた最大の話題は、ディズニー+とアップルTV+という二大ブランドがサーヴィスを開始したことにある。 

 

とはいえ両サーヴィスが共に順風満帆のスタートを切ったわけではない。共に事前の知名度だけは抜群だったが、初日加入者1,000万件超えのディズニー+に較べ、アップルTV+の方は大した成績を治められず、如何せん力が及ばなかった。 

 

これは両サーヴィスのコンテンツを較べれば簡単に納得できることで、これまでのディズニー作品の膨大なコンテンツを見放題のディズニー+と、できたてほやほやでオリジナルでほとんどコンテンツらしいコンテンツのないアップルTV+を比較してどちらのサーヴィスに加入するかを訊かれれば、ほとんどの者はディズニーと答えるに決まっている。 

 

現時点ではアップルTV+の訴求力は、従来のアップルTV由来の一般映画やTV番組の視聴に多くを負っており、要するに、amazonやhuluとなんら変わるところはない。アップルTV+が差別化を打ち出してビジネスを軌道に乗せるには、今後のオリジナル・コンテンツの拡充如何にかかっている。 



 

  1. 2.  弾劾裁判か否か   

 

今年もまたトランプ関係の話題がTV界を席巻したというか蹂躙した。今回はトランプが職権濫用してウクライナの大統領にバイデン親子に関係して圧力をかけたのかけないの等が取り沙汰され、それが弾劾裁判に値するかどうかで紛糾し、報道するTVの報道合戦も過熱、世界中の注目を集めた。 

 

結局事件は2020年まで縺れ込み、共和党のミット・ロムニー議員が反旗を翻して対トランプに一票を投じたものの、共和党が多数を占める上院であっさり否決され、トランプ無罪が確定した。 

 

ビル・クリントンの弾劾裁判の時も、決定的な証拠があってもクリントン無罪が確定した。そのため今回もトランプはどこからどう見ても犯罪者だが、やはり有罪は免れるだろうなと思ってはいたが、やはり大山鳴動してネズミ一匹という印象は免れず、茶番にしか見えなかった。結局トランプは意外にも4年間という任期を全うするようで、こうなると民主党の誰が次の大統領選でトランプに対抗できるかというのが、今後の焦点だ。 




  1. 3.  「ザ・ビッグ・バン・セオリー」最終回とシットコムの終焉   

 

アメリカで最も高い人気を誇るシットコム「ザ・ビッグ・バン・セオリー (The Big Bang Theory)」の最終回は、アメリカのTVコメディの一つの時代の終焉を印象づけた。ステュディオに観客を入れてマルチカメラ撮影で、同時に笑いの反応も同時収録するシチュエイション・コメディ、略してシットコムは、TVコメディを代表する一つのスタイル、というか、一時はコメディというとこの形しかなかった。 

 

しかしカメラがステュディオの外に出てコメディもドラマのように撮るようになると、シットコムより作り手の自由度が高いこちらの方が重宝されるようになった。明らかに笑いという点ではシットコムの方が笑えるが、製作者はより内容に深みのあるシングル・カメラ撮影による番組作りの方に向かい、現在ではそちらの方が主流だ。 

 

そして、人気の点ではすべてのコメディで最も人気のあるシットコム「ビッグ・バン・セオリー」も、ついに最終回を迎えた。もしロザンヌ・バーが舌禍事件を起こさずABCの「ロザンヌ (Roseanne)」が続いていたならば、シットコムの寿命ももうちょっと伸びたかもしれないが、今となってはその可能性を論ずるのも詮ないことだ。シットコムが完全に消えるということはないと思うが、しかし絶滅危惧種の仲間入りしたんじゃないかという一抹の危惧もないこともない。 




  1. 4.  CBSの正念場   

 

ドラマやコメディでは依然強いCBSではあるが、最大人気番組の「ビッグ・バン・セオリー」が最終回を迎え、さらにここ10-20年程度は、かつて鳴らしたニューズ・報道の分野でもふるわない。近年は1年から数年置き程度の頻度で、朝夕の報道関連番組でホスト・キャスターの梃入れ改編を繰り返している。特に一昨年の、「ディス・モーニング (This Morning)」におけるチャーリー・ローズのセクハラ解雇は痛かった。その傷跡は今もまだ完全には癒えていない。 

 

そんなこんなでCBSは、今年、大鉈を振るって再度改革を実施した。「イヴニング・ニューズ (Evening News)」アンカーに「ディス・モーニング」のノラ・オドネルを移動させ、さらに番組はニューヨークからではなく、ワシントンD.C.からの放送になった。「ディス・モーニング」はゲイル・キング、アンソニー・メイソン、トニー・ドコピルの3人体制となった。 

 

アメリカにおける報道番組は減る傾向にあるが、アグレッシヴな業界予測によると、ここ数年のうちに、3大ネットワークの顔とも言える夕方のワールド・ニューズのどれかが、もしかしたらキャンセルされるかもしれないという。要するに、ネットワークはワールド・ニューズでは食えなくなっている。もしそうなった場合、真っ先に切られそうなのが、最も視聴率の低い「イヴニング・ニューズ」になる可能性はすこぶる高い。ネットワークのワールド・ニューズが、80年目の正念場を迎えている。  




  1. 5.  ジェシ・スモレットの自作自演  

 

FOXのヒット・ヒップ・ホップ・ドラマ「エンパイア (Empire)」は、現在低迷が続くFOXで、最も人気のある番組だ。その「エンパイア」主演の一人、ジェシ・スモレットがヘイト・クライムによる暴力によって怪我を負い、ニューズ沙汰になった。人種差別はアメリカでは日常茶飯的に起こっているが、やはり有名人が襲われてニューズ沙汰になると、その影響力は大きい。 

 

そしてそれが、やらせの自作自演だったというのは、さらに大きなニューズになった。スモレットを襲って逮捕された男二人は元々スモレットの知人で、スモレットが彼らに支払った小切手も見つかった。本人は黙しているが、どうも社会の目を人種問題に向けさせようという社会的動議ではなく、単純にもっと自分のパブリシティを上げ、主演のテレンス・ハワードやタラジ・P.・ヘンソン並みのサラリーをもらいたかったからというのが理由らしい。 

 

こうなると誰もスモレットの味方をする者はなく、秋の新シーズンからスモレットの役はばっさり切り捨てられた。死んだのではなく、ロンドンに行ってしまったとなっているところを見ると、あるいは復帰の余地を幾ばくかは残しているらしい。いずれにしても人間、欲をかき過ぎるといいことはない。 



 










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2019年アメリカTV界10大ニュース。その1

 
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