Abby & Brittany   アビー・アンド・ブリタニー 

放送局: TLC 

プレミア放送日: 8/28/2012 (Tue) 22-22:30-23 

製作: フィギュア・エイト・フィルムズ 

製作総指揮: ビル・ヘイズ、カーク・ストレブ 

出演: アビゲイル・(アビー)・ヘンゼル、ブリタニー・ヘンゼル、パティ・ヘンゼル、マイク・ヘンゼル 

 

内容: 結合双生児のアビー・ヘンゼル、ブリタニー・ヘンゼル (Hensel) 姉妹に密着する。


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Abby & Brittany


アビー&ブリタニー   ★★1/2

こないだ、「ヒア・カムズ・ハニー・ブー・ブー (Here Comes Honey Boo Boo)」で視聴者をあっと言わせた、というか、知識者の間ではかなりの反感を買ったTLCが、また新たに編成する問題番組が、「アビー&ブリタニー」だ。 

 

ある双子の姉妹に密着するリアリティ・ショウ、といえば、別に特になんの問題もない普通の番組だ。しかし、それに登場する双子の姉妹が、単なる双子の姉妹ではない、結合双生児であるとなると、話はまったく変わってくる。番組に登場する双子の姉妹、アビーとブリタニーは、首から下が一体の身体で繋がった、結合双生児なのだ。 

 

身体の不自由な者に密着するリアリティ・ショウというのは、なにもこれが初めてではない。特にTLCは、これまでにも「リトル・ピープル、ビッグ・ワールド (Little People, Big World)」をはじめとする、いわゆるリトル・ピープルと呼ばれる小人の家庭や生活に密着するリアリティ・ショウをいくつも編成している。アニマル・プラネットにも「ピット・ボス (Pit Boss)」があるし、HBOにもリトル・ピープルが主人公のコメディ「ライフズ・トゥー・ショート (Life's Too Short)」がある。 

 

スパイクの「ハーフ・パイント・ブロウラーズ (Half Pint Brawlers)」やトゥルー (Tru) TVの「ハルク・ホーガンズ・マイクロ・チャンピオンシップ・レスリング (Hulk Hogan's Micro Championship Wrestling)」のような、小人レスリングをフィーチャーする番組もあったし、ちょっと古いがFOXは、FOXらしい悪趣味勝ち抜きリアリティの「ザ・リトルスト・グルーム (The Littlest Groom)」なんてのも編成している。だから少なくともリトル・ピープルというくらいでは、こちらも特には驚かない。 

 

しかし、今回は、こればっかりは、違うだろうという気がする。それはリトル・ピープルは、確かにハンディキャップを負ってはいるだろうが、それでも彼らの生活は、営み自体は他の誰とも違わない。しかし、一体の身体の上に首が2個乗っかったアビーとブリタニーの場合、明らかに彼女らの生活は一般的な物差しでは測れない、まったく異なるものにならざるを得ない。 

 

因みに結合双生児という単語は、実は今回初めて知った。かつて日本語では、結合双生児のことをシャム双生児といった。昔、シャムにそういう例が多かったのかもしれない。江戸川乱歩には「孤島の鬼」というシャム双生児が出てくる作品があるし、エラリー・クイーンには、「シャム双生児の謎」という、そのものずばりのタイトルの作品がある。ミステリ好きはまず100%、結合双生児ではなく、シャム双生児として覚えているだろう。確かベトちゃんドクちゃんの時ですら、まだシャム双生児で通用した。 

 

英語だって昔はシャム双生児、Siamese twinsといった。だからクイーンの作品のタイトルが「The Siamese Twin Mystery」だったわけだが、たぶんシャムに対して侮蔑的という配慮からだろう、Conjoined twinsと呼ばれるようになった。その和訳が結合双生児なわけだ。 

 

いずれにしても私は結合双生児=Conjoined twinsという単語を知らず、ある時同僚の同年代のアメリカ人男性と、確かその時サーカスのサイド・ショウの話をしていて、それから話がシャム双生児に及んだ。で、私がSiamese twins云々というと、彼は、Siamese twins、なんだ、それと言う。Siamese twins、知らないのか、ほら、二人の人間が一つの身体で繋がっている者たち、というと、彼は、ああ、Conjoined twinsのことか、と初めて納得した。私もその時、初めてアメリカではもうシャム双生児という単語が通じないことを知った。結合双生児というのか。 

 

さて、アビーとブリタニーは、その結合双生児だ。現代アメリカでは、妊娠中にこれらの障害を発見できることが多いが、二人の場合は母パティは出産するまで自分が双生児を、しかも結合双生児を妊娠していることを知らなかったという。パティは看護師で自分が働く病院で二人を生み、そして医者から子供が頭が二つあり、胴体が繋がっていることを知らされたそうだ。 

 

ベトちゃんドクちゃんのように、結合双生児は時として分離手術を施されることもあるが、アビーとブリタニーの場合、首から下の胴体部分は一人分しかない。手足は右左1本ずつだ。心臓は二つ、肺は四つあるが、腎臓は三つ、胃は二つ、肝臓は一つ、腸は一つと、内臓は一定してなく、ある部分は一人分だったりある部分は二人分あったりする。脊髄は身体の真ん中で一本に融合しており、たとえ現代医学がどんなに進んでいようとも、ブラック・ジャックが執刀しようとも、二人を分離するというのは無理な相談だ。 

 

脳は二つあるわけだから、人格はもちろん二つある。その脳で手足はお互いに右側と左側をそれぞれが支配しているそうだ。つまり彼女らの場合、歩くという最も単純な行為すら、お互いの密接な意思疎通、連携がないと機能しない。常に二人三脚を実践‥‥いや、二人の場合、二人二脚を一日24時間、生まれてこのかた毎日続けている。見ていると軽く走ったりもしている。慣れの問題と片してしまってもいいものだろうか。 

 

夜中におしっこに行きたくて目覚める時は、二人一緒に目覚めるのだろうか。お腹すいた時は、二人一緒にお腹すくのだろうか。アビーだけが食べてブリタニーは食べなくても、あるいはその逆でもいいのだろうか。味覚は差があって、片方がおいしいと思うものを片方はおいしくないと思ったりするのだろうか。嫌いなものを食べる時は片方に押し付けるとか?  

 

こういう状態でちゃんと生きて成長して生活していることは、奇跡としか言いようがない。彼女らはちゃんと学校にも行って、少なくともある程度は普通の人間が送るのと変わらない子供時代を送ったらしい。親の愛情を充分に受けて育ったのだけは間違いないだろう。しかし彼女らも今では20代だ。やっぱり、恋人は欲しいのではないだろうか。しかしその可能性はあるのか。 

 

とにかく、あまりにも自分の人生と比較して違うことだらけなので、彼女らのものの考え方や行動の仕方は、ほとんどすべて想像するしかない。あまりものこちらの想像を超えた状態や環境に、見ているこちらの感受性が麻痺しそうになる。しかし、なんで彼女らはあんな天真爛漫に笑えるんだ? 番組を見終わって判断不能になって呆然とするという体験を久し振りに、いや、初めて味わった。 










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