放送局: We

プレミア放送日: 3/20/2006 (Mon) 22:00-23:00

ホスト: クリスティ・ヤマグチ

ジャッジ: エルヴィス・ストイコ、オクサーナ・グリシュク、ルディ・ガリンド


内容: 勝ち抜きフィギュア・スケート・リアリティ・ショウ。


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実は私のフィギュア・スケート好きは、かなり年季が入っている。元々ロビン・カズンズだとか、いかにも玄人っぽいスケーターがお気に入りだったのだが、それでも意識してフィギュアを見だしたのは、やはりアイス・ダンスのトーヴィル/ディーンの「ボレロ」以降のような気がする。あれは確かに滑る方にとっても見る方にとっても、フィギュア・スケートというスポーツのあり方を変えた。


そういうわけでフィギュアはなにも五輪に限らず、毎年の世界選手権はほぼ欠かさずに見ているし、アメリカに来てからは全米選手権もだいたい見ている。時間が許せばヨーロッパ選手権も見ていたりする。さすがにグランプリ (GP) シリーズまでは追っかけて見たりはしていないが、それでもESPNが中継するNHK杯は見てたりするので、かなり歴史のあるファンと言えるとは思う。私がPGAゴルフの次に強いスポーツがフィギュア・スケートだ。


さて、今年は4年に一度の冬季五輪開催年であり、さらにアメリカTV界がリアリティ・ショウ花盛りということもあって、アイス・スケートで勝負する勝ち抜きリアリティ・ショウ「スケーティング・ウィズ・セレブリティーズ」がFOXで編成されたことは記憶にも新しい。とはいえこの番組は、フィギュア・スケートというよりも、ABCが放送して人気を得た「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ」の二番煎じという色の方が強く、番組としてはとてもじゃないが見られたものではなかった。


だいたい、一朝一夕での熟達がほとんど不可能なアイス・スケートにおいて、素人を呼んできて勝ち抜きリアリティ・ショウを作ろうという根性が浅ましかった。そんなのは無理というのは、熟考しないでもごく普通の常識さえ持ち合わせていれば誰にでもわかることなのだ。そういうクズ番組にスコット・ハミルトンやドロシー・ハミルやカート・ブラウニングといったかつての一流スケーターが出ているのを見ることの方が哀しかった。


さて、その「スケーティング・ウィズ・セレブリティーズ」を横目で睨みながら製作されただろうと思われるのが、今回Weが放送している「スケーティングス・ネクスト・スター」である。女性専門チャンネル、ライフタイムの二番煎じとして出発した、これまた女性向け番組専門チャンネルが製作する勝ち抜きフィギュア・スケート・ショウというだけでなんとなく中味が知れるが、ついつい長年の習慣で、フィギュア・スケートと頭につくと、ついつい見てしまうのであった。


少なくとも「ネクスト・スター」の場合、勝ち抜きフィギュアといっても、「セレブリティーズ」のように素人を起用しているわけではない。一応全員ガキの頃からスケート・シューズを履いている、ある程度は年季の入ったスケーターだ。とはいえそのことはもちろん、彼らがアメリカ代表としてオリンピックに出られるほどのレヴェルではないことを示している。もしそれくらいの実力があるんだったら、最初からこういう番組に出るんじゃなくて、オリンピックを目指すだろう。


これで思い出すのが、一昨年から昨年にかけFOXとNBCが編成した、「ザ・ネクスト・グレイト・チャンプ」と「ザ・コンテンダー」という2本の勝ち抜きボクシング・リアリティだ。両番組とも、毎週勝ち抜きで勝ち上がっていくというボクシング・リアリティだったのだが、これももちろん、本当に力のあるボクサーなら、こんな番組に出る必要はない。最初から公式戦でチャンプを目指せばいい。だいたい、TV番組の勝ち抜きボクシングで優勝したからといって、その実力を認めてくれるボクシング・ファンなんていないだろう。要するに「ネクスト・スター」もやはりそうで、どうしても一流ではないスケーターによる、なんとかこの世界に入る足がかりをつかもう的な勝ち抜きリアリティという印象は拭い難い。そして、それを突きつめて言えばこうなる。そういう2流スケーターしか出ない番組を見ることに何の意味がある?


前出の2本のボクシング・リアリティ・ショウの場合、前者のプロデューサーがオスカー・デ・ラ・ホヤ、後者のプロデューサーにシルヴェスタ・スタローン、シュガー・レイ・レナードなんて大物を揃えておきながら、TV番組としては視聴者を獲得できず、尻すぼみに終わった。結局、スポーツを題材に勝ち抜きリアリティを製作しようとするとこうなる。そのスポーツで一流のアスリートはいないことがわかりきっているスポーツ・リアリティを、わざわざ貴重な時間を割いてまで見ようとする奇特な視聴者はほとんどいないのだ。


とまあ、そうはいっても一応興味本位で少なくとも最初の数回くらいは目を通してみたりするのが私の悪い癖なのであった。スポーツとしては面白味のない番組であることは最初から百も承知であるわけだが、リアリティ・ショウとしては、何か新しい機軸を考え出していたりしたら、もしかして見るべきものがあるかもしれないと思ったりもするわけだ。


さて、その「ネクスト・スター」、ホストはクリスティ・ヤマグチ、ジャッジにはエルヴィス・ストイコ、オクサーナ・グリシュク、ルディ・ガリンドなんて、やはり一応は「セレブリティーズ」並みのメンツを揃えている。ヤマグチはオリンピック金メダリストだし、グリシュクにいたってはオリンピック2連覇のアイス・ダンサーだ。ストイコもオリンピック銀メダリスト、ガリンドだってオリンピックのメダルこそないが国内は制覇している。正直言って、メンツの箔としてはまったく悪くない。


ただし、だからといって彼らがオリンピック級に喋れるかどうかは別だ。実際の話、この種のイヴェントがあると何度もスコット・ハミルトンを目にすることになるのは、彼が最も口が立つからに他ならない。たぶん、同様にブライアン・ボイタノもかなり喋れると思うんだが、彼の場合、ナルシシズムや仕切りたがりというキャラクターが勝ちすぎて、避けられているんじゃないかという気がする。なんか、彼にマイクを渡したが最後、他の人に喋るチャンスを与えないと思わせるところがあるのだ。


また、グリシュクはいったいいつの間にアメリカ人になってしまったんだ。一番最初にロシア人アイス・ダンサーとして登場した頃は、確かほとんど英語なぞ話せなかったはずだが。当時、同じファースト・ネイムを持ちながら注目を独占していたオクサーナ・バイユールにやたらとライヴァル意識を持っていたようで、彼女と混同されるのを毛嫌いした上、芸能界入りすら考えていたグリシュクは、名前をオクサーナからバーシャと改名したはずだが、またいつの間にやら元に戻っている。しかもこれだけ英語を話せるようになっているところを見ると、たぶん本気で西側での女優デビューを考えて特訓したんだろうと思わせる。昔から気の強そうなところはひしひしと伝わってきたが、一応なんらかの目的があると、そのための努力は惜しまない根性は人一倍あることだけは確かなようだ。なんか、今見るとミラ・ソルヴィノを思い起こさせるようなところがある。


それから、たぶん最も早くからゲイとしてカミング・アウトしたスケーターの一人であるガリンドがいる。今ではほとんどゲイじゃない男性スケーターを探す方が難しいフィギュア・スケート界であるわけだが、ほんの10年ほど前までは、やはりゲイというと後ろ指を指されやすい存在だった。それなのに、仕草からして誰が見ても一発でゲイとわかってしまうガリンドの場合、カミング・アウトしようとも黙っていようとも結果としては同じだったようで、いつぞやのインタヴュウで、ぼくはゲイだからいじめられると言っていたのを思い出す。今ではたぶん、少なくとも日本ではゲイだから人気が増すんではとすら思えるのだが。


ストイコの場合は、いったいどういう伝手でジャッジになったのか。グリシュクとかガリンドとかの場合、実はかなり目立ちたがりという印象があり、彼らがこういう番組でジャッジを引き受けたのはわからないではない。しかし、どちらかというとストイックな感じのするストイコがこういう番組でジャッジねえ、うーん、わからないもんだ。それから、忘れちゃならないホストのヤマグチだが、やはりオリンピック・ゴールド・メダリストという箔はかなり強いようで、彼女は毎年この時期になると、必ずと言っていいほどスケート番組の特番でフィーチャーされていたりする。要するにその辺の経験が買われているんだろうが、やはり喋りの滑らかさという点ではハミルトンに一歩譲る。


番組は12人のフィギュア経験者の参加者を勝ち抜きで絞っていくわけだが、ここで恐るべき番組の真実がある。実はこの番組で最後まで残って優勝したからといって、賞金はたかだか2万5,000ドルでしかない。そりゃあ下積みにとっては決してはした金ではないだろうが、それでも「サバイバー」の優勝賞金100万ドルには遠くおよばない。同じベイシックのケーブル・チャンネルのブラヴォーですら、勝ち抜きリアリティの「プロジェクト・ランウェイ」の優勝者には賞金10万ドルと、副賞として新車がついてきたぞ。いくら金のない弱小ケーブル・チャンネルの一つに過ぎないWeの番組だからといったって、かなりせこいという感じは否めない。


実際の話、「ネクスト・スター」の製作規模は、私がこれまでに見たどんなリアリティ・ショウよりも安上がりとしか言いようがない。番組第1回ではいきなりジャッジの前で参加者に音楽なしで滑らせるのだが、スケーター用の音楽はないのに、後ろにBGMとして微かに低いヴォリュームでホテルのロビーのような安っぽい音楽が流れている。そこにジャッジがぼそぼそと意見を交換する声が被さるのだが、そのジャッジの声がマイクのせいかいきなり大きくなったり小さくなったりする。要するに、番組全体を覆う最大の印象は、安っぽい、の一言に尽きる。


さらに、実際にジャッジの発するコメントがこれまた素人くさい。彼らに較べると、オリンピックで下手くそとしてさんざんコケにされたハミルトンがどんなにうまいかがよくわかる。ディック・バトン辺りと較べると本当に月とすっぽんだ。ガリンドなんて、いきなり参加者に面と向かって、スケーティングのことではなくて、ちょっと太っているねと体格について発言してしまう。例えば「アメリカン・アイドル」での辛口ジャッジとして知られるサイモン・コーウェルの場合、歌を批評した上で、この世界で生きていくためには見かけも大事として痩せるよう努力しろと言ったりもする。しかし、ガリンドのように、本質であるスケーティングを棚に上げといて、いきなり太っているねとは言うまい。これじゃセクハラと言われてもしょうがない。実際の話、あれくらい今のアメリカではオーヴァーウエイトの部類には入るまい。本人も周りのみんなも言われてびっくりという感じだった。


グリシュクも女子スケーターを前に、スケーティングのことではなく、いきなり、この子化粧が濃くない? と、これまた場違いもはなはだしい発言を平気でしている。なんでもアイス・ダンスという競技が始まった初期の頃は、容姿も採点の一部として計算されるということだったらしいから、それを考えるとガリンドやグリシュクの発言にもうなずけないこともないが、しかしなあ、やはりポイントずれているという気がする。


また、ジャッジだって慣れないことで緊張しているんだろう、参加者が滑っている途中だというのに、いきなりなんらかのきっかけでちょっとした笑いがこぼれてしまうと、それを契機に笑いが止まらなくなる。要するにこちらもテンションが高くなっているから、いったん弾けた感情の起伏を抑えるのが難しいんだろうが、いくらなんでもその真ん前で滑っているスケーターに失礼なことこの上ない。そんなこんなでやはりこの番組、成功しているとは言い難い。たった一点だけ「セレブリティーズ」に勝っているのは、一応参加者全員がそれなりにスケートはできるという最も基本的な部分のみであり、まあ、それこそが確かに最も重要な点ではあるのだが、しかしなあという気持ちがするのはいかんともしがたい。ジェイン・トーヴィルやクリストファー・ディーンがこの番組のジャッジじゃなくて本当によかった。    






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スケーティングス・ネクスト・スター   ★★

 
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