放送局: FOX

プレミア放送日: 1/18/2006 (Wed) 21:00-22:00

製作: A. スミス&Co.

製作総指揮: アーサー・スミス、ケント・ウィード

ホスト: スコット・ハミルトン、サマー・サンダース


内容: 元オリンピック級のフィギュア・スケーターとセレブリティとのペアによる、勝ち抜きアイス・スケート・リアリティ・ショウ。


出場ペア:

デビー・ギブソン/カート・ブラウニング

ブルース・ジェンナー/タイ・バビロニア

デイヴィッド・クーリエ/ナンシー・ケリガン

トッド・ブリッジス/ジェニ・ミノ

クリスティ・スワンソン/ロイド・アイスラー

ジリアン・バーバリー/ジョン・ジンマーマン


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この番組のそもそものアイディアが、ABCの「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ (Dancing with the Stars)」にあったのはほぼ間違いなかろうと思う。素人セレブリティとプロとを組み合わせて、勝ち抜きでボールルーム・ダンスを踊らせるという無謀にも見える試みの「ダンシング」は、案に反して昨年のアメリカTV界のリアリティ・ショウとしては、FOXの「アメリカン・アイドル」とCBSの「サバイバー」に次ぐヒット番組となった。


「ダンシング」はABCのオリジナル番組ではなく、英BBCの「ストリクトリー・カム・ダンシング (Strictly Come Dancing)」のリメイクである。他国で流行った番組に多少は手を入れてリメイクを製作するのは、人気の出たリアリティ・ショウがたどる常道であるが、もちろんそれはここでも例外ではなかった。基本的に「サバイバー」も「アメリカン・アイドル」も、やはり他国で流行った番組をアメリカでリメイクしている番組である。


とはいえ、私は「ダンシング」がヒットするなんてまったく予想していなかった。同様になんらかの芸を見せて勝ち抜いていくタイプのリアリティ・ショウである「アメリカン・アイドル」や「ソー・ユー・シンク・ユー・キャン・ダンス」が面白いのは、素人参加番組でありながら、その素人が玄人はだしの実力を見せてくれるという点が最も大きい。そこらへんにいるプロのシンガーやダンサーよりもよほどうまい素人が存在するという事実が、番組を面白くしている。一方、「ダンシング」は片方にプロを揃えているとはいえ、もう片方はまるっきしの素人である。たとえ何週間か特訓するとはいえ、素人に毛が生えたもの以上になれるとは到底思えない。


さらに、こういう番組に出るセレブリティは、セレブリティとはいってもせいぜいが2線級、ともすればこの番組がなければ誰も顔を覚えてくれないだろうという3流がいいところで、看板に大いに偽りありとしか思えない者ばかりだ。第1シーズンのセレブリティのメンツを見ると、元ボクシング・へヴィ級世界チャンピオンのエヴァンダー・ホリフィールドが最も知名度が高いと思われるが、それだって私が男だからで、スポーツに興味のない女性では、ホリフィールドを知らないという者がいても不思議ではない。元人気ボーイズ・ポップ・グループのニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックの一員だったジョーイ・マッキンタイアに至っては、こういう番組に出ているのを見るのは、単に痛々しい以外の何ものでもなかった。


私としては、そういう番組を見るくらいならプロのダンスを見る、もう、考えるまでもないこととしか思えなかったのだが、これが大ブレイクした。考えてみるに、ボールルーム・ダンスは、一応ずぶの素人でも、短期間でかなり上達できる。もちろん上を見るときりがないが、それでもまったく踊れない人間でも、練習次第ではなんとか見られるようになるまでは持っていくことはできる。そういうスポ根ものとしての面白さがまず一つあった。さらに、それを一応は顔くらいは知っているセレブリティが足やら腰やらに青タン作って努力するというところが、特に女性視聴者層に受けた。


実際、こういう番組を見るくらいならプロのダンスを見た方がましと思って、たまにPBSなんかで放送されるプロや全米大会のボールルーム・ダンス中継を見ると、実はこういう大会に出てくる者たちは、見かけの点ではまるっきり興味を惹かなかったりする。特にアメリカ大会だからそうなのかは知らないが、特に女性の方の容姿が、はっきり言って体重過多にしか見えない者が多く、それなのに身体のラインを強調したドレスに強烈ラメ入り化粧、なんて、思わずこちらが引いてしまう外見の者が圧倒的に多いのだ。栄養を取りすぎた孔雀の求愛ダンスを見ているような気分にさせられる。


これではどんなにダンスがうまくても、ちょっと見てみようという気が失せる。将来的には、ボールルーム・ダンスでもフィギュア・スケートのペアみたいに、派手なリフトやスロウのトリプル (これは無理か) を義務化するべきだ、そうなったらオーヴァーウエイトの女性を持ち上げることはどうしてもできないため、いやでも体重を減らさざるを得なくなるだろう、と本気で思う。いくら「シャル・ウィ・ダンス」が世界的にヒットしようとも、本物がこんなにけばい化け物もどきのダンサーばかりでは、ボールルーム・ダンスの裾野は広がるまい。


その点、「ダンシング」は、いくら3流のセレブリティもどきばかりといえども、そこは多少ともセレブリティと呼ばれる者の意地によって、少なくともオーヴァーウエイトの者はいない。というか、そういう人間にはそもそも最初から出馬を要請していない。男も女も一応外見は並以上だ。そのため、少なくとも踊り出す前のポーズから言うと、プロのダンサーよりもこちらの方が見かけがいいのは確かだったりする。そんなわけで、「ダンシング」は特に中高齢以上の女性層に受けまくった挙げ句、今では「サバイバー」と肩を並べるほどの人気を博している。


そしてボールルームの代わりに、素人セレブリティとプロとでフィギュア・スケートを滑らさせてみようというのが、今回のFOXの「スケーティング・ウィズ・セレブリティーズ」だ。「トレイディング・スパウスズ」「ナニー911」等、恥も外聞もなく他人のアイディアを盗用することに関して悪名高いFOXのこととて、これほど話題になったリアリティ・ショウの物真似番組を製作することに二の足を踏むわけがなかった。


一方FOXは、まったく悪趣味なゲテモノ・リアリティ・ショウの製作でも定評がある。毎年年頭のこの時期になると編成されるその種の悪趣味リアリティ・ショウからは、昨年の「フーズ・ユア・ダディ?」、一昨年の「ザ・リトルスト・グルーム」、3年前の「マン vs ビースト」、それ以前の「セレブリティ・ボクシング」「ザ・グラットン・ボウル」「誘惑の島」等、批評家からは徹底的に罵倒されるが、人の心の奥底に潜む不謹慎な覗き見趣味的な気持ちをくすぐる、視聴率至上主義の人道的には最低最悪の番組をいくつも編成してきた。実は私はこの時期になると、今年はFOXはいったいどんな番組で我々視聴者の度肝を抜いてくれるのかと、内心期待しながら待っていたりする。


実際「スケーティング」は、「ダンシング」同様の手順を踏む番組とはいえ、その肌触りはかなり異なる。なんといってもスケートは、ボールルームと違って一朝一夕に長じることはできないスポーツだ。本当に初心者なら、まずまっすぐに滑ることから始めなければならず、数週間の特訓くらいでものになるとは到底思えない。もちろんそこを徹底的にしごくため生傷青タンが絶えないだろうと予測でき、要するにそこがたぶん面白いのだろうなと思っていた。そこに焦点を当てることで、似非セレブリティを罵倒して嘲笑する、FOX得意の悪趣味系リアリティ・ショウになるものだとばかり思っていたのだ。


その私の期待は、プロの側のスケーターのメンツに、ナンシー・ケリガンの名前を見た時にさらに高まった。あの、リレハンメル五輪の時に、トニヤ・ハーディングと共に三面記事の話題を独占したケリガンが出ている。ということは、もしかしてハーディングも!? と思ったのだが、さすがにそれは無理だったようだ。ハーディングは昔「セレブリティ・ボクシング」にも出ていたくらいだから、FOXは当然声をかけたと推測するが、今は完全にスケート界から足を洗い、というか邪魔者扱いされているハーディングを連れてきたら、他のスケーターから反感を買いこそすれ、メリットはほとんどなかったものと思われる。


その他のスケーターなんだが、これが実際になかなかのメンツで、え、カート・ブラウニング? 彼が本当にこんな番組に出んの? ジェニ・ミノだってアメリカのペアでは一時無敵だったじゃないかと、その本心を疑ってしまう。しかもジャッジの一人はアメリカ有数のアイコン、元祖アイドルとも言えるドロシー・ハミルだ。マジかよ。


さらにホストはやはり金メダリストのスコット・ハミルトンと、夏季五輪のアイドル的スイマーとして注目されたサマー・サンダースというように、スポーツ好きなら知らない者はないという間違いなく大物を揃えている。本当にブラウニングやハミルトンやハミルがこんな番組に出るわけ? これってもしかしてシリアスもの? と、今度は逆に不安になってくる。もしかしたらこの番組はセレブリティが転ぶのを見て嘲笑うFOX得意のゲテモノ系ではなくて、本当に「ダンシング」を真似たシリアスなスポーツ・リアリティだったのか。


しかし、だったら、いくらなんでも今度こそ成功しないのは、これは火を見るより明らかだとしか私には思えない。アイス・スケートで、素人が数週間で人前で演技できるほど上達することはありえないし、こればかりは、だったらどんなにセレブリティが青タン作って頑張ろうとも、プロやその他の選手権を見ている方が断然面白い。それにそのセレブリティだって、やはり「ダンシング」同様2流がいいとこの似非セレブリティばかりで、私が実際に知っていたのは、元アイドルで私も昔アルバムを買ったことがあるデビー・ギブソンと、デカスロンの金メダリストのブルース・ジェンナーくらいだ。それだって、知らない人の方が多いだろう。


その他のセレブリティは、「フル・ハウス」に出ていたデイヴィッド・クーリエ (まったく忘れていた)、「アーノルド坊やは人気者 (Diff'rent Strokes)」のトッド・ブリッジス (知らなかった)、「バッフィ 恋する十字架」のクリスティ・スワンソン (見た記憶がないぞ)、TVパーソナリティのジリアン・バーバリー (まったく初耳) という、やはり3流もいいとこの人選で、そりゃ、普通なら恥さらしまくりになるだろとしか思えないこんな番組には出たくないよなと思う。やはり、どうせなら最初からゲテモノ系を狙った方がよかったんじゃないか。


こういう私の不安は、番組第1回を見たとたんに、不安的中という形となって現れた。スタジオの中にせいぜい20m四方くらいの特設リンクを設け、観客の前で演技を披露するわけだが、やはり、誰がなんと言おうとも、これじゃいくらなんでもつまらない。どんなに大真面目にやろうとも、フィギュア・スケートというスポーツとして見ると、セレブリティ側はほとんど初心者と大差ない。「ダンシング」の面白さは、一応スポ根ものとして素人がそれなりに見れるようになるレヴェルまで上達するところにポイントがあったわけだが、「スケーティング」ではそれは無理だ。


どんなに運動神経がいい者でも、初心者なら人前で滑れるようになるまでは最低でも半年から1年はかかると思われるものを、ただの人でしかない忘れ去られたセレブリティが、たった数週間の特訓でそこまでのレヴェルに達するわけがなかった。せめて思い切り転んで爆笑を誘ってくれるなり怪我して血まみれになってくれるなりしたら多少は楽しめるのに、まったく顔を知らないセレブリティがよたよた滑っているのを見ても楽しめるわけがない。プロ並みに滑ってみろとまでは言わないが、それでも、ジャンプなら最低2回転はして欲しいし、どんなにスピードが遅くても、その場で3回以上回転するならばスピンというなんて考えはやめて欲しい。番組が始まってから30分もしないうちに、私は完全に飽きた。


「スケーティング」は、当然の如くフィギュア・スケートが最も注目される冬季五輪と時期を合わせて放送が始まった。私はもう「スケーティング」には興味を失っていたので、その後フィギュア・スケートは、NBCが中継しているトリノ五輪の方だけを見ていた。そしたらなんと、NBCのスケートの解説の一人として、スコット・ハミルトンがいるではないか。なんだなんだ、あんた、今、FOXの「スケーティング」でホストを担当しているんじゃなかったのか。


ハミルトンは前回のソルト・レイク・シティでも解説を担当していたのだが、番狂わせになった女子シングルで、いくら完璧に滑ったといえども、それまで確か4位にしかいなかったサラ・ヒューズが、いったいどういうシステムだから優勝できたのかということを説明しそびれた。ただ視聴者や観客と一緒になって、実況席から、わあ、だの、すごい、だのと感嘆符を連発していただけで、私も、だからなんでヒューズが逆転できたのか、そこんところの解説をこそお願いしたいのに、一緒になって唖然としてんじゃねえ、こいつ、使えねえやつ、と思っていた。翌日のニューヨーク・タイムズでも解説として役立たずとして大いに叩かれていたが、当然だ。


それなのに、一応元オリンピック金メダリストとしての知名度は捨て難く、ハミルトンはまた解説を要請され、しかもそれを受けてのこのことトリノまで出かけてしまった。もちろんNBCは、今回はハミルトンは主として客引きとして利用し、恥を忍んでABCからフィギュア・スケートの解説ならこの人と定評の高いディック・バトンを借り受けてきた (私がファンのペギー・フレミングも連れてきてくれたらなおよかったのに。) いずれにしても、それならいったい途中でホストがいなくなった「スケーティング」はどうなるのか。途中でホストに逃げられてしまう「スケーティング」は、そもそも最初からそれくらいの価値しか認められていなかったというわけか。


ハミルトンも五輪の時期なんて何年も前からわかっていたわけだし、番組のホストを受けておいて途中で投げ出すなんて真似なんかするんじゃねえよ。なんて思っていたら、実は「スケーティング」は、本当なら2月20日に放送されるはずだった最終回が放送されず、その週は月曜は放送なし、なぜだか木曜に再放送でごまかした。要するに2月27日に、トリノからとんぼ返りしたハミルトンを迎えて最終回を放送するんだろう。やはり番組の顔と言えるホストなしで番組を進めていくわけにはいかなったようだ。


と、ここまで書いて、はっと重要な事実に気がついた。「スケーティング」は「ダンシング」や「アメリカン・アイドル」と異なり、視聴者投票ではなく、3人のジャッジの独断でその回の落選者が決まる。つまり、この番組は生放送であるべき理由がない。既に優勝者は決まっており、ただ関係者に緘口令が敷かれているだけの話なのかもしれないのだ。しかもFOXの「スケーティング」のHPを覗くと、2月13日の第5回放送分のページで、来週は最終回、と宣言している。ということは、その回の収録は既に終わっていた可能性が高い。


それにしても、この番組を五輪開催に合わせて放送したことは、むしろ番組のためには逆効果になったとしか思えない。裏番組に五輪のフィギュアが重なれば、スケート・ファンなら誰だってそちらの方を見るに違いないのだ。現実にホストからして番組を捨ててトリノに行っているわけだし。思うに、今回の最終回放送の延期は、遅まきながらそのことに気づいたFOX関係者の苦し紛れの窮余の一策だったんだろう。


一応それだけ重宝されているハミルトンの面目のために一言申し添えておくと、彼のオリンピックでの解説の技術は、前回に較べて格段に向上した。たぶんバトンのしゃべりを聞いて研究したんだろう。まだまだ向上の余地はあると思うが、それでも前回からこのくらいやれたら、今回NBCもわざわざバトンを招かなくても済んだだろうに。実際今回の五輪では、NBCの実況解説席に常時5人くらいいるので、今度はかなりかまびすしい印象を受けた。


NBCも、前回、素人にはよくわからないフィギュアの採点システムを説明し損ねて叩かれたことで、今回はことある毎に何度も新採点法の説明に余念がなかった。注目の女子シングルでは、あれは誰が見ても荒川静香の勝利は動かなかったので、サッシャ・コーエンとイリーナ・スルツカヤの銀争いに注目し、どこでどんなポイントを得たからコーエンがスルツカヤを抑えて僅差で銀をものにしたかということを、トレイシー・ウィルソンがつぶさに説明していた。


さて、「スケーティング」で現在まで残っているのは、スワンソン/アイスラー、バーバリー/ジンマーマンの二組だが、ここまで両ペアが勝ち残ってきたのは、プロ側が両方とも男性の方で、しかも二人ともペア・スケーティングを滑っていたということが大きいだろう。要するに支える男がプロの方が、うまく女性をサポートして上手に滑っているように見せられるのだ。その点、同じくペア・スケートを滑っていたといえども、女性のミノが、パートナーのブリッジスがうまく滑っているように見せかけるのは限界があったし、元々シングル・スケーターのブラウニングやケリガンでは、最初から無理があった。


そして優勝するのは、私はバーバリー/ジンマーマンかなと思っている。かつて美女と野獣を絵に描いたような、イザベル・ブラッスアーとのスケーティングで楽しませてくれたアイスラーだが、今回は相手のスワンソンが重そうだ。一方、かつて日系のキョウコ・イナとペアを組んで滑っていたジンマーマンの、今回のパートナーであるバーバリーも決して軽くはなさそうだが、それでもこちらの方が無理なく滑っているという感じがする。ま、ほんとのところを言うと、別にどちらが勝っても誰も特に得るものはないという気がするのは否めないが。 





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スケーティング・ウィズ・セレブリティーズ   ★1/2

 
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