インドで孤児院を経営するヤコブ (マッツ・ミケルセン) は、経営難を乗り切るため、出身地のデンマークに帰り、富豪ヨーゲン (ロルフ・ラッスゴル) から打診のあった寄付をとりつけようとする。成り行きでちょうど結婚するヨーゲンの娘アナ (スタイン・クリステンセン) の結婚式にも出席したヤコブは、そこでかつての恋人ヘレン (サイズ・クヌッセン) がヨーゲンの妻となっているのを見て驚愕する。この寄付の提案は仕組まれたものだったのか、そしてもしかしたらアナは自分の娘だったのか、悶々とするヤコブだったが‥‥


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「アフター・ザ・ウェディング」は、デンマーク代表として今年のアカデミー賞の外国語映画賞にもノミネートされている。今のデンマーク映画というとラース・フォン・トリアーくらいしか知らず、監督のスザンネ・ビエールの名も初耳だった。予告編を見たこともなかったのだが、ちょっと気になったので調べてみたら、案の定というかトリアーの提唱するドグマ95の一派だった。ところでこのドグマ95って主張は今も生きているのだろうか。


いずれにしてもなんとなく興味を惹かれたし、トリアー自身がアメリカを主題に英語で映画を撮っている現在、デンマーク映画って他に見る機会もなさそうだと思えたので、劇場に足を運ぶ。ニューヨークにいてもさすがにデンマーク語ってあまり耳にする機会はないし、どんな響きだろうと想像するのは楽しい。やはりトリアーもアメリカに来ないでアメリカ映画撮るくらいならアメリカにトラウマを持たずに自国語で映画撮って欲しいような気もするが、そういうわけにもいかんのだろうか。


「アフター・ザ・ウェディング」はドグマ一派らしく、自然光主体のライティング、手持ちカメラでの撮影であるので、一見しての印象は実際にかなりトリアー作品に近いものを持っているが、トリアーほどカメラが揺れるわけではなく、その点では酔うことなく安心して見れる。自然光主体とはいえ、ライティングもそれなりに行っているような印象を受けた。やはりどんなに自然光主体といっても、暗過ぎると見えんからな。結局トリアー自身、最初は否定していた、撮影する場所で流れている音楽自体は使わないなんてドグマの掟を破ってミュージカルなんて撮っているわけだし。


作品はインドの貧民街でヴォランティアに明け暮れるヤコブを映すシーンから始まる。しかしヤコブ主宰の施設は経営難で四苦八苦していた。そんな時、故国デンマークの大手企業の基金から連絡が入る。ほとんど一縷の望みにすがって帰国してインタヴュウを受けたヤコブは、その企業の社長ヨーゲンの娘アナの結婚式が間近に迫っていることを告げられ、ついでにと招待される。何もすることがなく、ほとんど相手の心証を害しないために招待を受けたヤコブだったが、その結婚式でアナの母親がかつての自分の恋人ヘレンであったことを知って愕然とする。ヤコブがインドに行った理由の多くは、過ちでヘレンの友人と寝てしまったことをヘレンが許さなかったことにあった。そしてアナの本当の父親は自分かもしれないと知ったヤコブは愕然とする。すべては仕組まれたことだったのか。そしてヨーゲンは寄付をする条件としてヤコブがデンマークに留まることを要求し、事態は思わぬ方向に回り始める‥‥


いかにも個人意識の発達している北欧 (デンマークも北欧だったっけ?) らしいと思わせられたのが、アナはヘレンの本当の娘ではないことを幼い時から既に告げられており、それだけならともかく、そのことをアナが結婚式の会場で公にしてしまうことで、別にわざわざ公衆の面前でこういう家族の内部の事情を発表することもないだろうにと思ってしまった。アメリカでも養子をとる者は多く、それが異人種間の養子縁組だとどこから見ても養子だとわかるのでそのことを口にするまでもないが、他人の目にはまずわからない場合にそれをわざわざ自分から言い出すこともないだろう。いずれにしてもそうやって最初の方でアナがヨーゲンの娘ではないことをはっきりさせているから、ヤコブがアナが自分の娘ではないかといぶかることに説得力がある。たぶんアナはヤコブとヘレンの娘なんだろうと観客を素直に納得させる。


その後も、さて、これで話はいったいどういう風に進んでいくのかと観客の興味を惹きつける。ハリウッドのアクション映画に浸っている観客だと、展開が少しスロウと思うかもしれないが、私は充分楽しんだ。主人公はヤコブなのだが、焦点がアナになったりヘレンに移ったりヨーゲンに寄ったりし、果たしてこの話がいったいどこに着地するのか見極め難い。その点であれほど極端ではないが、なんとなくペドロ・アルモドヴァルに近いものを感じさせられたりもした。


主演のヤコブに扮するマッツ・ミケルセンは、はて、どこかで見たことがあるようなと思っていたら、「007 カジノ・ロワイヤル」で007ことダニエル・クレイグの大敵ル・シフルに扮していた彼だった。あの人非人がここではこの上ないヒューマニストを演じて違和感ない。うーん、人って変われば変わる。ヘレンを演じるサイズ・クヌッセンとアナを演じるスタイン・クリステンセンは両方とも初めて見たが、クヌッセンはローラ・リニーを、クリステンセンはエミリー・モーティマーを強烈に連想させる。特にクリステンセンは、「マッチ・ポイント」のモーティマーと性格づけまでそっくりだ。


ビエールは既にハリウッドからも目をつけられており、既にドリームワークスに招かれてハリー・ベリー、ベニシオ・デル・トロ、デイヴィッド・デュカヴニー、アリソン・ローマンといったメイジャーどころを起用して撮った「シングス・ウイ・ロスト・イン・ザ・ファイア (Things We Lost in the Fire)」が今秋公開予定だ。ハリウッドって、ちゃんと見ているやつは見ていて世界中にアンテナ張っているよなあと、感心することしきりなのであった。







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アフター・ザ・ウェディング  (2007年4月)

 
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