死んだ人間が復活するとなると、誰でもゾンビを連想すると思うが、「ザ・リターンド」はそうではない。死んだ人間が皮膚が腐り落ち、半ば骸骨という状態で生き返るのではない。生きていた時とまったく同じように、変わらない姿でまた人々の前に再び現れるのが、「リターンド」だ。
「リターンド」は、昨年サンダンス・チャンネルが放送して好評を博したフランス製ホラー (原題「Les Revenants」) のリメイクだ。実はこの設定はなにも「リターンド」だけが試みているわけではない。一昨年のBBCアメリカ・ドラマ「イン・ザ・フレッシュ (In the Flesh)」も、死んだ人間が生き返って、以前と同じようにまた家族と生活するという話だった。こちらは生き返った姿がちょっと青白く、身体が腐っているわけではないがまったく以前と変わらない見かけでもないという、微妙な違いがポイントだった。それで果たして半生半死の人間/ゾンビが昔と同じ生活ができるのか。
一方、昨年ABCが編成した「リザレクション (Resurrection)」はタイプとしては「リターンド」と同じで、何年何十年も前に死亡もしくは行方不明になった人間が、当時と同じ格好のまま再 び姿を現すというものだった。これなんかはゾンビものというよりは、かつてUSAが放送した「4400 未知からの生還者 (The 4400)」に近い。ホラーというよりはSFだ。
「リターンド」は、少なくとも第一話を見る限り、ほぼオリジナルに忠実なリメイクをしているように見えるが、その背景はまったく異なる。オリジナルでは山間の道を走っているバスが崖下に転落し、乗っていたティーンエイジャー の女の子カミーユが死亡する。4年後、カミーユは崖下からひょっこり姿を現し、なにも起こらなかったかのように自宅に帰る、という印象的な出だしで始まっていた。今回のリメイクもまったく同じ展開で始まる。
オリジナルでは季節は冬で、所々雪の残るアルプスだかピレネーだかの山間部の道をバスが走っており、それがほとんど淡々と、という感じで崖下に落ちる。一方リメイクでは、こちらはロッキーかアパラチアかという設定だろう。撮影場所は実際にはカナダのブリティッシュ・コロンビアだそうだから、感じとしてはロッキーだ。そこでもカミーユという同じ名前のティーンエイジャーの女の子の乗ったバスが、崖下に落ちる。
というと設定としてはまったく同じだが、視覚的に大きく異なるのは、こちらは冬ではなく、木々が鬱蒼と生い茂る夏山だからだ。季節感が違うと受ける印象が異なるのは、もちろん背景にあまり色のない冬、木々の緑が目に眩しい夏という視覚的な差ということもそうだが、最近の頻発する大規模災害のせいで、冬はすぐ人は凍死してしまう、夏は凍死こそしないが、今度は死んだらすぐに腐敗してしまう、といった情報が頭の中にインプットされており、崖下に落ちたバスの中で人がどうなるかという予想をほとんど無 意識にシミュレイトしてしまうからだろう。つまり、まったく同じ設定で始まる番組だが、受ける印象は大きく異なる。
近年のリメイクでこういう視覚的差異を最も有効に使った例として、FXの「ザ・ブリッジ (The Bridge)」がある。こちらは寒い北欧のデンマーク-スウェーデン国境の橋で起きた事件の話を暑いアメリカ-メキシコ国境に場所を置き換えてリメイクし、たぶんオリジナルにはない味を醸成させていた。オリジナルを見ていなくても、かなり印象が異なっているのは容易にわかったが、「リターンド」もそれに近いと言える。ただし、話に手を入れる自由度は「ブリッジ」の方が高いようだ。いずれにしても、「リターンド」も一見して視覚的におっと思わせることには 成功している。オリジナルを知っていればよけい興味を惹かれるだろう。
サンダンスでオリジナルが放送された時、ちょっと 全部見るのは時間的にきついかなと思って第一話しか見なかったため、実はその後、話がどう展開してどう終わるかは知らない。そのためその点での比較はできないが、これだけ背景が違うと、まあいいかなと思ってしまう。それにオリジナルはフランス語だから、その点でも受ける印象は違う。俳優まで一緒でほとんど 視覚的に大きな差異が感じられないBBCの「ブロードチャーチ (Broadchurch)」をFOXが「グレイスポイント (Gracepoint)」としてリメイクしたのはほとんど首を傾げざるを得なかったが、その点「リターンド」はポイントとなるハードルはクリアしている。やっぱりアメリカでリメイクするなら、英語圏以外のものをリメイクするに限る。