The Post


ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書  (2018年1月)

新聞社を題材にするものというと、近年ではまず「スポットライト (Spotlight)」が真っ先に思い浮かぶ。「消されたヘッドライン (State of Play)」というのもあった。とはいえ今回の時代や題材から本当に連想するのは、「大統領の陰謀 (All the President's Men)」だ。


「大統領の陰謀」は1972年のウォーターゲイト事件を追うワシントン・ポストの記者を描く話で、「ペンタゴン・ペーパーズ」はヴェトナム戦争にメスを入れるワシントン・ポストと政界の関係を描き、ウォーターゲイトで幕を閉じる。要するに「ペンタゴン・ ペーパーズ」と「大統領の陰謀」は、直接繋がっている。


そう考えると、「ペンタゴン・ ペーパーズ」でトム・ハンクスが演じたベン・ブラッドリーは、「大統領の陰謀」でジェイソン・ロバーズが演じたデスクということになろうかと思って調べてみたら、本当に「大統領の陰謀」でのロバーズはブラッドリー役だった。「ペンタゴン・ ペーパーズ」も「大統領の陰謀」も共に同時代のワシントン・ポストを舞台とする作品だから、同一人物が出てきても特におかしくはないが、本当にそうだったか。


アメリカ人というのは無礼で横柄という印象を世界中の人々に与える最大の要因は、映画やTVで描かれるマスコミ、特に新聞社の人間にあるというのが、私の持論だ。なぜだか新聞記者、特に記者を束ねるデスク、主幹は、ほぼ必ず足を机の机の上に乗せてふんぞり返っている。そうやって威張ってないといけないという規定があるみたいに、ほぼ例外なくこのスタイルだ。どうやらその姿勢で新聞を読んで様になるということがデスクの最も重要な資質であって、記事を書く力とかネットワーク力というのは二の次らしい。


そしてその印象が特に強烈なのが、誰あろうロバーズとハンクスが演じたベン・ブラッドリーにある。現実のブラッドリーがそういうキャラクターだったのか、それともロバーズがそういう印象を植え付けたのか。いずれにしてもハンクスもなんとなく無理してまで足を机の上に乗っけようとしていると感じたのは、要するに「大統領の陰謀」におけるロバーズを研究したからだなと合点が行った。芸幅の広いハンクスだが、しかし敏腕デスクという印象は、どうしてもロバーズの方に軍配が上がる。それにしてもブラッドリーって、ヴェトナムの軍事機密を暴いた後ウォーターゲイトの真相も明らかにしたのか。


いずれにしても、これは面白いと思ってまだ両作品に登場しているキャラクターはないかと調べてみたのだが、どうもブラッドリーくらいしかいないようだ。「ペンタゴン・ ペーパーズ」におけるボブ・オデンカーク扮するベン・バグディキアンが「大統領の陰謀」にいたらどうなっていたか。それよりも、「大統領の陰謀」の主人公であるダスティン・ホフマン演じるカール・バーンスタインとロバート・レッドフォード演じるボブ・ウッドワードは、「ペンタゴン・ ペーパーズ」では、ワシントン・ポストのオフィスのいったいどの辺に座っていたのか。絶対その階のどこかにいたはずなのだ。でなければウォーターゲイトを暴けない。


この時のワシントン・ポストのオーナー、キャサリン (ケイ)・グレアムに扮するのがメリル・ストリープで、共にアメリカを代表する俳優であるストリープとハンクスが共演するのは、実はこれが初めてだそうだ。ケイはワシントン・ポスト創刊以来初めての女性オーナーで、アメリカでもまだ軽く見られる風潮のあった女性経営者が、社を一族経営からさらに大きく発展させようと奮闘するという状況が、近年のMeeTooムーヴメントと軌を一にしている。こういう人がいたから今のアメリカがあるのか、それともこういう人がいてもまだまだ男性社会でしかないと考えるべきなのか。


タイトルの「ペンタゴン・ペーパーズ」は、オリジナルでは「The Post」だ。製作者が本当に注目して描いているのはペンタゴン・ペーパーズをすっぱ抜くワシントン・ポストの記者経営者なのだが、邦題ではその対象となった国家機密の文書が前面に出てくる。人を見ているかシステムを重視するかの違いがあって面白い。現在、トランプ大統領がFBIの機密文書を反対を押し切って公けにしたことで注目が集まっているが、いざ明らかになったその文書を読んだジャーナリストからは、こんなの、機密文書でもなんでもないとする意見をよく耳にする。いずれにしても人は、部外秘とか機密文書といった隠し事に興味をそそられるのだった。


個人的に一つ残念だったのは、「消されたヘッドライン」と「スポットライト」に出ていたレイチェル・マクアダムズが、「ペンタゴン・ペーパーズ」にはいなかったこと。徐々に記者としてキャリアを積んできたマクアダムズは、出てればこの辺でヴェテラン記者に昇格できた可能性高かった。ほぼ紅一点的な記者だったキャリー・クーン演じたメグ・グリーンフィールド役ができそうだったのに。










< previous                                      HOME

1966年、米軍が本格的に参戦したものの、終わりの見えないヴェトナム戦争は混迷を極めていた。軍に同道してヴェトナムを訪れた軍事アナリストのエルズバーグ (マシュウ・リス) は、進展がない状況に失望する。ペンタゴンに忍び込んで機密書類をコピーしたエルズバーグは、そのまま姿をくらます。一方、夫が自殺した後、女性として初めて大新聞社ワシントン・ポストの経営者という地位に就いたケイ・グレアム (メリル・ストリープ) は、女性経営者としての実力を疑問視されながら、事業を存続させるべく、右腕の編集者ベン・ブラッドリー (トム・ハンクス) 共々、日々苦闘していた。ケイはマクナマラ国防長官 (ブルース・グリーンウッド) と旧知の間柄だったが、政府首脳が戦争を勝てないものと知りながら、徒らに金と兵士をヴェトナムに送り続けているという情報がもたらされる。情報の真偽を追いながら、もしそれが事実だった場合、個人的な友情を捨てても告発すべきか、ケイは決断を迫られる‥‥


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system