ジ・アクト (The Act) 

提供: hulu 

プレミア提供日: 3/20/2019 (Wed) 

製作: イート・ザ・キャット、リット・ラージ 

製作総指揮: ニック・アントスカ、ミシェル・ディーン 

出演: パトリシア・アークエット (ディー・ディー・ブランチャード)、ジョーイ・キング (ジプシー・ブランチャード)、クロイ・セヴィニー (メル)、アナソフィア・ロブ (レイシー)、カラム・ワーシー (ニック) 

 

物語: ディー・ディーとジプシーのブランチャード母娘がミズーリ州スプリングフィールドの一軒家に越してくる。ジプシーは幼い頃から難病に冒されており、つきっきりのケアが必要で、ディー・ディーが献身的に世話していた。ジプシーは近所に住んでいるレイシーと仲良くなり、母のメルもブランチャード家に出入りするようになる。ある日近所の人たちを家に呼んで庭でパーティを開いていたディー・ディーは、糖にアレルギーを持っているジプシーがカップ・ケーキを食べているのを見て、慌ててジプシー共々病院に駆け込む‥‥ 


_______________________________________________________________

The Act


ジ・アクト  ★★★

代理ミュンヒハウゼン症候群という言葉、病名がある。最初この名称を聞いた時は、皆目、さっぱり、なんのことやらまったくわからなかった、というのが正直なところだ。ミュンヒハウゼンシンドロームバイプロキシ‥‥舌嚙みそうだ、それって何? って感じで、何かを予想することすらできなかった。 

 

この言葉を最初に聞いたのがかれこれ数年前で、ミズーリ州の田舎で、まだ若い女の子がボーイフレンドと共謀して母親を殺害したという事件で、メディアの注目を集めた。この母親が代理ミュンヒハウゼン症候群だった。「ジ・アクト」は、この事件を再構成するドキュドラマだ。 

 

ある種の人々は、他の人々の注目や関心を引くために、わざわざ自分で自分を傷つけたり嘘をついたりする。それがミュンヒハウゼン症候群だ。これだけでも充分厄介な症例だが、それを自傷ではなく、自分の子供といった身近な人物に転嫁、つまり代理の者に行う場合がある。これを代理ミュンヒハウゼン症候群と呼ぶ。 

 

ミュンヒハウゼン症候群だけでも厄介なのに、健康な自分の子供をわざわざ薬漬けにして健康を害させ、自分は甲斐甲斐しくその世話をすることで、周囲からは献身的な母親として見られ、同情と称賛を受ける。本当は裏返しの虐待に過ぎないが、単純な虐待の事例と違って、代理ミュンヒハウゼン症候群の場合、一見してその本質を見抜くことは難しい。 

 

「ジ・アクト」のディー・ディーもその代理ミュンヒハウゼン症候群だった。彼女は娘のジプシー・ローズをありもしない病気に仕立て上げ、甲斐甲斐しくその世話をする献身的な母親という虚像を作り上げる。地元のTV局が取材に来るほどだった。 

 

ある日、パーティでカップ・ケーキを口にしたジプシーは、アナフィラキシー・ショックを起こしてしまうと慌てたディー・ディーによって病院に連れて行かれる。しかしジプシーは、医師がディー・ディーに対し、ジプシーは糖にアレルギーなんか持っていないと説明しているのを漏れ聞いてしまう。 

 

その夜ジプシーは、キッチンでホイップ・クリーム缶から一と掬いを手の平に噴出させると、それを口にする。アナフィラキシー・ショックどころか、まったくなんの反応も起きなかった。しかし彼女は糖にアレルギーなんか持ってないのに、なぜディー・ディーはそう言い張ってわざわざジプシーを薬漬けにするのか。ジプシーの心の中に疑惑の芽が芽生える‥‥ 

 

番組は冒頭、その5年後にブランチャード家で何か事件が起きたことを察知した隣家のレイシーとメルが、警察を呼んでブランチャード家に侵入するシーンから始まる。第1話はそのシーンと、ディー・ディーとジプシーが越してきた5年前を交互に描く。 

 

現実の事件としては、ディー・ディーによって意図的に薬漬けにされたジプシーが、ボーイフレンドと共謀してディー・ディーを殺害し、逮捕されるというのを我々は事実として知っている。実行犯のボーイフレンドの方は終身刑をくらって生きて刑務所から出られる可能性はないが、ジプシーは懲役10年の実刑で服役中で、もうしばらくすると保釈の可能性がある。いったい育児放棄と虐待と代理ミュンヒハウゼン症候群ではどちらが罪が重いかとつい訝ってしまうが、いずれにしてもなんとも後味のよくない事件だ。 

 

ディー・ディーを演じているのがパトリシア・アークエットで、昨年末も、これまた同様に現実に起きた事件をドキュドラマ化した、ショウタイムのミニシリーズ「エスケイプ・アット・ダネモラ (Escape at Dannemora)」にも出ており、ドキュドラマづいている。また、「エスケイプ・アット・ダネモラ」でも「アクト」でも、アークエットが演じる主人公の女性は、実は犯罪者だ。 

 

「エスケイプ・アット・ダネモラ」でアークエットが扮したのは、刑務所の刑吏で、収監されている受刑者と懇ろになって男が刑務所から脱走する手助けをするという、TVか映画みたいな実際に起きた事件の主犯だ。一方の脱走する受刑者に扮するのがベニシオ・デル・トロとポール・ダノという、これまた癖のある俳優の代表格の二人で、デル・トロがあの深海魚顔で、わざわざ生活疲れした田舎のおばさん的役柄のアークエットを誘惑するという、なんとも怖いもの見たさを刺激する番組だった。 

 

一方のジプシー・ローズに扮しているのが、ジョーイ・キング。 「ホワイトハウス・ダウン (White House Down)」「死霊館 (The Conjuring)」と、印象的な作品に続け様に出ていた時から既に6年も経っているのに驚く。「ホワイトハウス・ダウン」のあの才気溌剌とした子が薬漬けにされたりしたら、たとえ実の親でも殺意が芽生えるのも致し方あるまい。 


 









< previous                                    HOME

 
 
inserted by FC2 system