ア・コンサート・フォー・ハリケーン・リリーフ

放送局: NBC

放送日: 9/2/2005 (Fri) 20:00-21:00


シェルター・フロム・ザ・ストーム: ア・コンサート・フォー・ザ・ガルフ・コースト

放送局: 各ネットワーク

放送日: 9/10/2005 (Sat) 20:00-21:00


リアクトナウ

放送局: MTV/VH1/CMT

放送日: 9/10/2005 (Sat) 20:00-23:00


ハイヤー・グラウンド: ハリケーン・リリーフ・ベネフィット

放送局: PBS

放送日: 9/17/2005 (Sat) 20:00-1:00


内容: ハリケーン・カトリーナ被災者救済のためのベネフィット・コンサート/パフォーマンス番組各種。


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今年8月28日月曜夜からルイジアナ州ニュー・オーリーンズを中心にアメリカのカリブ海に面した湾岸部に上陸したハリケーン・カトリーナは、甚大な被害の傷跡を残して去っていった。アメリカではハリケーンの規模を表すのに整数を用い、だいたい中規模のハリケーンは3、超特大だと5という級数が与えられる。カトリーナの場合、当初の級数は2で、正直言って、ほとんど誰も気にしていなかった。普通よりちょっと強い程度の雨風くらいにしか思っていなかっただろう。


それが上陸直前には級数は3に上がっており、それでも、まだ本気で心配している者は少なかった。これはまずいと人々が思い始めたのは、どうやらカトリーナが勢いが衰えるどころか、勢力を増しながらニュー・オーリーンズを直撃することが不可避であることが誰の目にも明らかになってからだった。しかも湿地帯のニュー・オーリーンズは、海抜ゼロメートル地帯が多いくせに、後回しにされていた護岸工事や堤防の修理がまだ何か所もあった。そういうところを暴風雨が直撃したのだからたまらない。堤防は決壊、町は水の中に没した。当初何千人と予想された死者が実際には千人弱で食い止められていたのは、不幸中の幸いだったとしか言い様がない。


つまるところこの被害は、天災を何層倍にもした人災という趣がなきにしもあらずだった。その社会的責任の所在はともかく、昨年の東南アジアの津波やヨーロッパの猛暑等、世界的にこういった天災は増加の傾向にある。そしてそういう状況に対応すべく、被害に遇った人たちに援助の手を差し伸べる者や団体も増えてきた。呉越同舟というわけではないが、結局こういうことは対岸の火事ではなく、明日は我が身、あるいは、情けは人のためならずとでもいうような意識変化が確実に人々の心に起こっているように感じる。


アメリカに目を向けた場合、そういう援助活動を率先して行っているのは、ハリウッドを代表とするセレブリティやミュージシャンであろう。もちろん彼等が実際に現地に赴いて肉体的/物理的な救助活動を行っているわけではないが、彼等が呼びかけることで、救援物資や援助の手が集まりやすいということは確かにある。そうやって集まった物資やお金を、赤十字等の実際に援助活動を行っている団体等に寄付するわけだ。9/11の時の「アメリカ: トリビュート・トゥ・ヒーローズ」以来、このような一大事があると、ハリウッド・スターやシンガーたちが慈善コンサートを行ったり、TVで呼びかけたりするなどして寄付を募るというのは、今では大きな災害等があった場合のお約束になったような気すらする。


特に今回のカトリーナの場合、お膝元で9/11以来の大きな被害をもたらした事件ということで、全米各地で様々な慈善コンサートが開かれ、TVでは特別番組が編成された。TV局で真っ先に反応したのがNBCで、カトリーナが上陸して被害をもたらしたその週末には、「ア・コンサート・フォー・ハリケーン・リリーフ」と題した1時間の特別番組を編成している。


翌週末には再度NBCを含む、今度は全ネットワークが共同で、「シェルター・フロム・ストーム」という特番が編成された。規模としてはこの番組が、「トリビュート・トゥ・ヒーローズ」に匹敵する最も大がかりな番組だったと言える。また、同日の裏番組としては、CBS系列のMTV/VH1が、「リアクトナウ」を編成した。さらにその翌週には公共放送のPBSが独自に「ハイヤー・グラウンド」を放送するなど、9/11時には全ネットワーク、ケーブル・チャンネルが一斉に同番組を中継した「トリビュート・トゥ・ヒーローズ」とは異なり、現在では各々のチャンネルが独自にこのような番組を企画、放送するようになってきている。


最も早く編成されたNBC独自の「コンサート・フォー・ハリケーン・リリーフ」の場合、体裁としては「トリビュート・トゥ・ヒーローズ」に最も似ているのは当然だろう。基本的にハリウッド・セレブリティによる募金の呼び掛け、およびミュージシャンたちによるスタジオ内でのパフォーマンス、それにNBCニューズの映像が交互に挟まるという構成である。


ホストはマット・ロウアー、セレブリティはリチャード・ギア、ヒラリー・スワンク、リンジー・ローハン、グレン・クローズ、レオナルド・ディカプリオら、一方のパフォーマンスを行う方は、ウィントン・マルサリス、ハリー・コニックJr.、フェイス・ヒル、ティム・マグロウ、アーロン・ネヴィル等の面々。パフォーマンスはジャズ発祥の地ニュー・オーリーンズらしく、ジャズやカントリーが主体。オープニングのコニックJr.とマルサリスの共演なんて滅多に見れるものではなく、クロージングの全員一緒になっての「聖者が町にやってくる」等、こういう機会ならではというパフォーマンスもあったりしたが、やはり急ぎ足で製作したという印象は否めないものだった。


「シェルター・フロム・ストーム」はその点、時間的にも余裕があったこと、全ネットワークが総出でバックアップしたこともあり、番組に参加したメンツとパフォーマンスのまとまりという点では、「ハリケーン・リリーフ」よりも遥かに見映えがするものとなった。番組進行自体は、「ハリケーン・リリーフ」のロウアーのような総合ホストがこちらにはいないことを除けばほとんど差異はないが、登場する面々の知名度の差から来る総合的な印象の違いは歴然としている。なにも「ハリケーン・リリーフ」に出ていたディカプリオやスワンクの知名度が他のセレブリティに劣るとは思わないが、それでも、「シェルター」におけるジュリア・ロバーツ、ジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマンといった名の羅列には、誰でもたじたじとなるだろう。他にもかなり名の知られたセレブリティが、ただ何列にも連なった席上で視聴者からの電話を受けているだけだったりするのだ。


さらにパフォーマンス陣を見渡すと、オープニングのランディ・ニューマンから始まって、U2、アリシア・キーズ、ニール・ヤング、マライア・キャリー、ポール・サイモン、ロッド・スチュワート、シェリル・クロウ、カニエ・ウエスト等が歌ったこちらの方が、やはり充実していたと言わざるを得ない。一目でほとんど音合わせなしで一発勝負で本番に挑んだのがありありだった「ハリケーン・リリーフ」に較べ、「シェルター」ではちゃんと何度かは練習している安定感があった。


とはいえ、久しぶりで人前で歌うのだろう、サイモンのように声がひっくり返りそうな一幕もあったが。いつも酔っ払っているように見える、不良中年を絵に描いたようなニューマンはやはり味があるし (これはヤングにも言える)、アカペラで黒人グループとハモってみせたスチュワートは、特に好きなシンガーというわけでもないが、やはりさすがである。ウエストの歌の時に何度か声が聞こえなくなったのは、こんな時でも放送コードにひっかかる歌詞を歌っていたのだろうか。実はウエストは「ハリケーン・リリーフ」にも出ていて、その時「ジョージ・ブッシュは黒人のことなんてどうでもいいんだ」と発言して物議を醸していた。それで番組プロデューサーが過剰反応したのかもしれない。


「シェルター」放送の日は、CBSでは直後にちょうどニューヨークで開催中のファッション・ウィークに合わせた「ファッション・ロックス・コンサート (Fashion Rocks Concert)」を放送したのだが、ホストのマーク・マグラス (シュガー・レイは活動してんのか?) は冒頭で当然のようにカトリーナに言及するなど、たとえイヴェントそのものは今度の災害とは無関係でも、なんにせよ影響を与えないではいられないカトリーナの被害の大きさを物語っていた。


一方、MTV/VH1主体の「リアクトナウ」の場合、こちらも基本的には「シェルター」や「ハリケーン・リリーフ」と体裁は同じだが、1時間番組だった両番組とは異なり、「リアクトナウ」は録画パフォーマンスも含めた3時間番組となっている。キーズ、ウエスト、クロウ等、「ハリケーン・リリーフ」とオーヴァーラップしているシンガーもいる他、こちら独自のミュージシャンとしては、ローリング・ストーンズ、ポール・マッカートニー等の大御所の他、ケリー・クラークソン、モトリー・クルー、グー・グー・ドールズ、グッド・シャーロット、グリーン・デイ、アッシャー、デイヴ・マシューズ・バンド、リンキン・パーク、ロブ・トーマス、マルーン5等、どちらかというと若者にファンの多いアーティストが揃っていたのはいかにも当然か。


こういった主旨のパフォーマンスでは、たとえロッカーといえどもうるさい曲よりはバラードっぽい曲の方を選ぼうとするし、アンプを通したり大人数のバンド編成ではなく、それこそMTVの「アンプラグド」のようなアコースティックなアレンジで歌ったりする。そのためこういう歌い方は、ふだんは電子楽器を使う最近のロック・バンドの方がその差が出て面白い。たとえば最近ほとんど目にした記憶のなかったフィオナ・アップルが出てきてギター一本の伴奏だけで歌うと、やっぱり彼女って他のアイドルとはまったく違うと思わせてくれる。もうすぐ新しいアルバムを出すそうだから実はその宣伝も兼ねているかと勘ぐりたくもなるが、たぶん、このパフォーマンスを見てしまったからには、やっぱり買ってしまうだろう。


MTVはこないだ「ライヴ8」を生中継した時、よけいなお喋りやコマーシャルを大量に挿入して顰蹙を買った。それでちゃんと学習はしていたようで、今回は3時間の番組をコマーシャルなしで放送、やればできることを示した。もちろんこの姿勢がいつまで持つかは誰も保証の限りではない。


さて、この種のコンサート中継としては最後発で最も異色だったのが、PBSが生中継した「ハイヤー・グラウンド: ハリケーン・リリーフ・ベネフィット・コンサート」である。これは上記3番組が、観客がいるわけではないスタジオ内でのパフォーマンスの中継であるのに対し、「ハイヤー・グラウンド」は、PBSが定期的に放送している「ライヴ・フロム・リンカーン・センター」の一環として特別に編成された、観客を前にして行う公演の生中継である。トランペット奏者として著名なウィントン・マルサリスはこのリンカーン・センターの音楽監督であり、そしてもちろん、ニュー・オーリーンズと関係のないジャズ・メンはほとんどいないと言っていい。その縁からの企画となったものだろう。マルサリスは、NBCの「ハリケーン・リリーフ」にも出ていた。


そのため、「ハイヤー・グラウンド」では、演奏するのはほとんどがジャズ・ミュージシャンである。マルサリスのような著名なジャズ・マンなら私だって知っており、他にもハービー・ハンコック、ノラ・ジョーンズ、ダイアナ・クロール等の有名どころもいる。ポール・サイモン、ベット・ミドラー、ジェイムズ・テイラー等の必ずしもジャズ系とは言えない著名なミュージシャンも参加している。一方、ニュー・オーリーンズ縁りのミュージシャンということだけで呼ばれたと思えるメンツになると、正直言って初耳であり、どこの誰やらさっぱり見当もつかない。私はジャズ・ピアノはよく聴く方であり、オープニングの「エイン・ノー (Ain' No)」なんてかなり面白かったんだが、根っからのジャズ好き、それもビッグ・バンドのファンじゃないと、番組/公演に最後までつきあうのはかなり苦しかっただろう。


また、舞台の生中継であり、奏者によって舞台装置換えも必要になってくるため、当然、その間を持たすためにホストのような役どころを受け持たせられた者がおり、それをやはりニュー・オーリーンズ出身のローレンス・フィッシュバーンが務めている。他にも作家のトニ・モリソンが出てきて自作を朗読したり、メリル・ストリープが詩を読み上げたり、ロビン・ウィリアムスやビル・コスビーも出てきて漫談をしていた。


そしてPBS番組に慣れている者ならよくわかると思うが、番組の流れを断ち切ってまで行われる寄付の依頼。まあ、今回ばかりはそれもしょうがないとは思うが、普段はだいたい録画しておいて、後でこういうところは早回しで飛ばして見るという見方が定着しているPBS番組をこうやってちゃんとリアルタイムに見ると、これは疲れる。実際に生でこれを見ている観客にとっては有効にトイレ・タイムとかが挟まっていることになるのだと思うが、リヴィングのTVで生で見る番組じゃなかった。


実際、この悠揚迫らぬペースで舞台が進行するため、当初午後9時から2時間の生中継の予定で始まった番組が、あっという間にその枠を超過してしまう。11時半過ぎになると、今日中に終わらないだろうなというのを既に確信する。結局番組中継が終わったのは夜中の午前2時前であり、なんと全部で5時間、予定の2倍半の時間をかけたことになる。出演者も疲れたろうが、場内の観客も疲れたろう。サブウェイを利用して見に来ていた者も多かったろうと思うが,ニューヨークのサブウェイが24時間走っていてよかったと思ったに違いない。


これらのセレブリティやミュージシャンを起用したベネフィット・コンサート/パフォーマンスは、ちゃんとそれなりの成果をあげている。因みにこの種の催しとして最も規模の大きかった「シェルター・フロム・ストーム」の場合、視聴者は約2,400万人、番組が集めた寄付は3,000万ドルに達したそうだ。悪くない金額であるが、9/11の時の「トリビュート・トゥ・ヒーローズ」の視聴者9,000万人、集まった寄付金1億5,000万ドルという数字と比較すると、霞んでしまう。


もっとも、人々の注目を独占した「ヒーローズ」に較べ、今回は「シェルター・フロム・ストーム」以外にも上記の他番組、さらに他にも大小の番組、イヴェント、ベネフィットがあった。要するに、TV番組だけがその種のイヴェントのすべてであったわけではなく、人々は最も適していると思われる慈善団体や基金に率先して寄付していたのであり、番組の視聴率が以前ほどではないからといって、関係者や市民が知らぬ存ぜぬを決め込んでいたわけではない。私ですらこれらの番組が放送される前に、既に寄付は済ませていた。たぶん大半の市民もそうだったろうと思う。人々はこの種の災害には迅速に反応するようになってきている。もちろんこういったベネフィット・パフォーマンス特番はこの種のイヴェントの要となるものであり、今後もこういう災害があると間違いなくまた企画されるだろう。それでいいのだと思う。 






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