プレミア放送日: 9/21/2001 (Fri) 21:00-23:00
製作総指揮: ジョエル・ガレン
内容: テロリスト・アタックより帰らぬ人となった5,000人を超える一般市民、NYPD (ニューヨーク警察)、FDNY (ニューヨーク消防署) のためのチャリティ・コンサート特番。
パフォーマンス: ブルース・スプリングスティーン、U2、トム・ペティ、スティーヴィ・ワンダー、フェイス・ヒル、マライア・キャリー、エンリケ・イグレシアス、リンプ・ビツケ、ディキシー・ティックス、ニール・ヤング、ビリー・ジョエル、セリーヌ・ディオン、ウィクレフ・ジーン、スティング、ボン・ジョヴィ、ポール・サイモン、シェリル・クロウ、ウィリー・ネルソン、他
電話番: シンディ・クロウフォード、ジョン・キューザック、デニー・デヴィート、ゴールディ・ホーン、サルマ・ハイエック、ジャック・ニコルソン、アル・パチーノ、ブラッド・ピット、クリス・ロック、メグ・ライアン、アダム・サンドラー、シルヴェスタ・スタローン、他
寄付の呼びかけ: モハメド・アリ、エイミー・ブレネマン、ジョージ・クルーニー、トム・クルーズ、キャメロン・ディアス、ロバート・デニーロ、クリント・イーストウッド、カリスタ・フロックハート、デニス・フランツ、ケルシー・グラマー、トム・ハンクス、ジェイン・カツマレク、コナン・オブライエン、ジュリア・ロバーツ、レイ・ロマノ、ウィル・スミス、ジミー・スミッツ、セーラ・ワード、ロビン・ウィリアムス、他
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別に日本でもNHKが同時中継する番組にいちいちコメントを挟むのもなんだとは思ったが、この夜のアメリカのTV界は、ほとんどのチャンネルがコマーシャル・フリーでこのイヴェントを中継し、他に見るものもなくなってしまった。一つのイヴェントして見ると、これほどの規模の番組は、多分、もう二度と現れることはないだろうと思うので、事件に関するネットワークの報道で感じたことと一緒に、気がついたことを幾つか書き留めておこうと思う。
とにかく9月11日火曜の朝9時、テロリストによってツイン・タワーが倒壊した後、アメリカのTV局はネットワークを筆頭に、24時間ニュース報道体制を敷いた。それは延々とその週いっぱい続いた。ほぼ5日間にわたり、四六時中ニュース、ニュース、ニュースである。重大事件だから当然といえば当然なのだが、その間、コマーシャルも一切なしである。コマーシャルを挟まなかったことで、アメリカのTV界は平均して一日約500万ドルずつを失った計算になるそうだ。
私は事件のあった週は、これまでの人生の中で最もTVを見ていたのだが、異様に疲れる。それがなぜかというと、事件の性質と規模のせいもあるが、それよりもコマーシャルがないために、ふっと力を抜いたり、目を休めたりする時間がないからだということに気がついた。人間の集中力というものは限界があるのだ。コマーシャルというのが、一服タイムやトイレ・タイムなど、うまい具合に役に立っているということに改めて気がついた次第。それで、いったいいつからネットワークはまたコマーシャルを入れ始めるのかということが、猛烈に気になり始めた。このままでは向こうもおまんまの食い上げだし、私の健康にもかかわる。
一つのチャンネルだけでは手に入らない情報もあるので、私はほとんど全ネットワーク、およびCNNやMSNBC、FNC等のニュース専門チャンネルを定期的にチャンネルを替えながら見ていた。だからもしかして見逃していた可能性もあるから確信があるわけではないのだが、ネットワークでニュース報道体制から最も早く切り替わってコマーシャルを挟んだのは、ABCである。ABCは土曜の夕方には、自動車のアウディのコマーシャルを放映していた。それも途中でニュース中継に戻ってコマーシャルが途切れるという、スポンサーにとってはまことに有り難くない放映の仕方だった。車に詳しくないものは、あれはどこの車のコマーシャルだったか、まるでわからなかっただろう。
事件の一週間後の月曜には、どこのネットワークもコマーシャルを挟むようになったが、それでも報道番組が大半を占め、レギュラー番組は完全に脇に回された。その週から徐々に登場予定だった秋の新番組もことごとく次週以降に回され、9月16日に予定されていた今年のエミー賞授賞式も10月まで延期になった。それでも延期はまだいい方で、グラミー賞の弟分と言える「ラテン・グラミー賞」などは、可哀想にキャンセルになってしまった。ジェニファー・ロペスやマーク・アンソニー、エンリケ・イグレシアス等、結構な名前がパフォーマンス予定だったんだが。その上、いったん延期が発表され、新しく発表になった編成予定も、どんどん状況次第で再延期になったり再々延期になったりして、まったく状況がつかめない。
WBは当初、この事件の規模にもかかわらず、逆に人々にはニュース以外のエンタテインメントも必要と、予定通り秋の新シーズンを始めると言っていたのに、結局内外の圧力に屈した? のか、やはり一週間延期を発表、そしたら、金曜の新番組がこの「トリビュート」と重なってしまったために、再延期、結局、新シーズンは10月第2週まで再々延期を発表している。頼むから、紛らわしいことはしないでくれ。ただでさえ今月各局ともスケジュールが滅茶苦茶で、そのフォローで忙しいのに。
ところで、キャスターが違うから一斉に同じ事件を報道しているとはいっても、チャンネル毎にそれぞれの個性が出る。そのため、視聴率に結構ばらつきが出るというのも面白い。特に今回の報道の最大の特徴として、年々視聴率を落とし続けていたネットワークに人々が戻ってきたということがある。もちろん、ニュース報道の老舗、CNNにチャンネルを合わせた視聴者も多かったのだが、何といってもニューヨークは、全ネットワークがスタジオを置いている地元である。ほとんどの視聴者は、ABC、CBS、NBCを筆頭とするネットワークにチャンネルを合わせた。
そしてそこからがまた面白いのだが、実は、CBSを除き、他のネットワークは中継アンテナがツイン・タワーの屋上にあった。CBSもツイン・タワーを使っていたことは使っていたのだが、代替アンテナをエンパイア・ステート・ビルの屋上にも持っており、すぐスイッチすることができた。ところが、他のネットワークはそうは行かない。近くに点在する小出力のトランスミッタを使わざるを得なくなり、結局、ほとんどの地域で満足に受信することができず、ニューヨークでは、人々はちゃんと映るCBSばかりを見ていたことが、はっきりと数字に出ている。ただし全米規模では、NBCがわずかにABCとCBSを押さえて最も高い視聴率を獲得している。
私の家はケーブルなので、CBSだけでなく、他のネットワークも問題なくちゃんと見れた。私見では、CBSの情報が一番包括的で、画面下に最新文字情報を入れるなどの対応も一番早かったと思う。各ネットワークは、普段は夜か週末、特番しか登場しないメイン・アンカーを昼頃から早々と投入したが、CBSは、ダン・ラザーだけでなく、ニューヨークの地域ニュースのアンカーであるアーニー・アナストスが、実にうまく内容をまとめていた。私はラザーや、他のネットワークのメイン・アンカーより、よほどアナストスの方が巧いと思ったくらいだ。関係ないが、そのアナストスの相方を務めたデイナ・タイラーは、現在、アメリカで最も美しい女性ニュース・キャスターだと思う。最近ちょっとガングロ (死語?) っぽくなった朝のNBCの人気キャスター、ケイティ・コーリックより、私は断然タイラーを買う。
ラザーと言えば、彼は翌週、やっとネットワークのスケジュールが徐々に通常に戻りかけた時に、前週はニュース放送のためずっと放送されていなかったデイヴィッド・レターマンがホストのCBSの深夜トーク・ショウ、「レイト・ショウ」にゲストとして出て、なんと泣き出したのには驚いた。実はラザーはアンカーとしてニュースをまとめている時にも、つい感極まって声を詰まらせたとかで、それがいいか悪いかはともかく、彼自身がニュースネタになっていた。
ところでその時の「レイト・ショウ」だが、お笑い番組であるのにもかかわらず、その回の番組はまったく笑える内容ではなく、最後までしかつめらしい雰囲気のまま進み、結局、会場の客も私も、ほとんど笑えなかった。オープニングのレターマンのスピーチはそれなりに感動的で、結構私も心動かされたものだが、その翌日から始まったNBCのジェイ・レノの「トゥナイト」やコナン・オブライエンの「レイト・ナイト」、ABCのビル・マーがホストの「ポリティカリィ・インコレクト」まで全部似たような進行になってしまい、お笑い番組がすべて笑えない番組になってしまうと、結構見る方もつらい。もっとも、一週間番組がキャンセルされた後、さも何事もなかったようにいきなりいつものギャグ番組に戻るわけにも行かなかったことはよおくわかる。
「ポリティカリィ・インコレクト」では、マーが、湾岸で米軍が長距離ミサイルで自分たちは安全なところからイラクを攻撃したのに対し、今回のテロリストは自爆で命を賭けてテロリズムを決行したことに言及して、彼らは卑怯者ではないと発言したことから、あちこちから叩かれるという舌禍事件に発展してしまった。可哀想にマーは、おかげで、そういう意味で言ったわけではない、気分を害したなら謝る、と、こちらでもあちらでも頭を下げなければならなかった。マーが間違ったことを言ってしまったかどうかはともかく、やはりこういうセンシティヴな問題に対しては、コメントしたりジョークにしたりすることは難しい。確かにあの発言は、少なくとも事件の犠牲者の家族にとってはジョークには聞こえなかっただろう。
さて、本題の「トリビュート・トゥ・ヒーローズ」であるが、会場にはハリウッドのスーパースターがなんと電話番となって、視聴者からかかってくる寄付の電話をとるという体裁をとっており、同様に視聴者の寄付を募るスターの呼びかけの合間に、ニューヨーク、ロサンジェルス、ロンドンの各スタジオから、有名アーティストがパフォーマンスを行った。番組が始まったのが東海岸時間の午後9時ということは、ロンドンでは夜中の午前3時で、U2やスティングは咽喉の調子を維持するのに大変だっただろう (そこだけ録画だったということはないと思う)。うちの女房は画面に電話をとるスターが映る度に、ハイ、アル (パチーノ)、ハイ、トム (クルーズ)、ハイ、ブラッド (ピット)、などと彼らに電話をかける真似をして楽しんでいた。あんたいったいいくつなんだ。
事件の後、各ネットワークはそれぞれ独自の思惑で映画スター、ロック・スター等を起用した特別番組の製作を考えた。通常ならお互いに競って潰しあいをするところだが、今回に限ってはビッグ4 (ABC、CBS、NBC、FOX) が協力しあったということが前代未聞である。ちょっとした隙を見つけてはライヴァル番組を潰そうとする仁義なき戦いの様を見てきたものにとって、今回の展開は本当に意外だった。4大ネットワークのお墨付きを得た製作総指揮のジョエル・ガレンは、16日に仕事を依頼されたのにもかかわらず、18日にはパフォーマンスを行うすべてのシンガーの快諾を得た。
自分の方から出てもいいと言ってきた映画スターも多かったらしい。しかし、時間は限られている。それでコメントを挟まないスターを電話番に回したらどうかというのは、実はジョージ・クルーニーのアイディアだそうだ。ブラッド・ピットやメグ・ライアンが実際に電話をとったのだそうだが、もちろん彼らがいちいちクレジット・カードのナンバーまで控えたわけではなく、その段になると、別室のオペレータが後を引き継いだとのことだ。まあ、たとえ2、3分でも、視聴者は実際に憧れのスターと会話を交わせたのだからよかったのでは。
私は番組の途中で、果たしていったいアメリカのTV局のどれくらいがこの番組を放送しているかちょっとチェックを入れてみようと思って、2チャンネルのCBSからどんどんチャンネルを替えながら見ていった。うちはRCAケーブルと契約しており、現在視聴できるチャンネルは、全部で約200チャンネル程度。音楽専門チャンネル (画面には何も映らない) やPPVチャンネルを除けば、約150チャンネルというところである。HBOやショウタイムのペイTVはそのうち約40チャンネルであり、ESPN等のスポーツ専門チャンネルや、C-SPAN等の政府公報系チャンネルもいくらなんでも中継しないだろうから、つまり、だいたい100チャンネル弱が、やろうと思えばこのイヴェントを中継できた。
で、結局、そのうち何チャンネルがこの番組を中継していたかというと、7大ネットワークを含む32チャンネルが、このイヴェントを放送した。大統領演説中継のような、ほとんど義務となっている番組を除けば、同一番組を異なるネットワークが揃って放送するということは過去例がなく、今回が例外中の例外である。ネットワークと、ケーブルの主要総合チャンネルだけでなく、MTVやVH1のような音楽チャンネル、SF番組オンリーのSci-Fi、女性番組専門のライフタイムのようなニッチェ・チャンネル、さらには公共放送のPBSまでこの番組を中継していた。
実はその後のニュースで知ったのだが、私はてっきりこれらのチャンネルが中継することはないだろうと思っていたHBOやショウタイムも、実は中継していたそうだ。また、この番組を中継したがった他の中小ニッチェ・チャンネルも多かったが、基本的に東海岸と西海岸の同時中継を建て前としていたので、両方に送信施設を持っているわけではない中小チャンネルでは、番組製作者側から中継を断られたということだ。もし、この番組を放送したがったチャンネル全部に中継権が与えられたとしたら、最終的にはだいたい50チャンネル程度がこの番組を放送したことになる。
パフォーマンスの面でもビッグ・スターが大挙して出演しているが、それでも、本当ならここにいてもおかしくないスターがいなかったことにも気づく。オープニングで歌ったスプリングスティーンがいるなら、同様に、アメリカン・ロックを代表するアイコンであるボブ・ディランがいてもいいのではないかと思う。しかし、若者の反逆精神を代表するスプリングスティーンがいるのは構わないが、いつでも体制への反抗を表明していたディランが出演するのはまずいという配慮が働いたらしい。ポール・マッカートニーへの出演依頼は、彼が自分で他の活動を考えていたために、断られたそうだ。
また、いつぞやのアフリカ救済チャリティでは中心となっていたマイケル・ジャクソンはどうした? 彼はこないだ、マディソン・スクエア・ガーデンで大がかりな復活コンサートを成功させたばかりだぞ。旬の男ではないか。そしたら、実はジャクソンの方から出てもいいというオファーがあったが、彼が出ると番組の趣旨から外れて、彼のコンサートになってしまうことを懸念したプロデューサーの方が断ったらしい。ジャクソンはジャクソンで、別の機会に彼が主催するチャリティを開いたり、CDを録音したりするそうだ。 他には、イン・シンクやブリトニー・スピアーズ辺りの、今、若者に絶大なる人気を誇るシンガーでは、まだしっとり歌い上げるタイプの芸が身についているとは言い難いので、出ないのもまあしょうがないかとも思うが、マドンナには出演を依頼しなかったのか、と、気になる。
実際にパフォーマンスをした者の中では、ポール・サイモンによる「明日に架ける橋」が、やはりアート・ガーファンクルと一緒に歌ってもらいたかった。数年前に一緒にセントラル・パークで大がかりな復活コンサートをやっていたではないか。どうして今回はだめなんだ。番組の最後から2曲目の「ゴッド・ブレス・アメリカ」を歌ったのも、これが「タイタニック」以前であったら、当然カナダ人のセリーヌ・ディオンではなく、アメリカ人のホイットニー・ヒューストンであったと思われる。そう言えば、彼女はなぜ出ていないんだ? もしかしたら、既に断れない他の予定が入っていたのかも知れない。
実際、当日はアメリカ中の至る所で、メイジャー・リーグ・ベイスボールの試合前の国歌斉唱に著名シンガーを起用していた。ニューヨークのメッツの試合では、ダイアナ・ロスが試合前に歌い、本当なら全員で「私をボール・ゲームに連れていって」を歌うはずの、7回表が終わった時点でのセヴンス・イニング・ストレッチで、なんとライザ・ミネリが出てきて「ニューヨーク・ニューヨーク」を歌っており、結構感動的だった。そういうこともあるから、番組には出ていない他のスターも、どこか他のところで国歌や「ゴッド・ブレス・アメリカ」を歌っていたのかも知れない。
そうそう、トリの曲を何にするかについてはプロデューサーも悩んだとは思うが、私はてっきりウィリー・ネルソンの「アメリカ・ザ・ビューティフル」ではなく、それこそレイ・チャールズのそれか、「ゴッド・ブレス・アメリカ」だと思ったんだけどなあ。もしかしたら全員での国歌斉唱という可能性もあるかもとすら思っていた。まあ、チャールズは、ちゃんと翌日、ニュージャージーからマンハッタンを見渡せる場所で行われた追悼集会の様なもので、ちゃんと「アメリカ・ザ・ビューティフル」を歌ってはいたが。
私は民族意識や愛国精神に乏しいのか、スポーツ競技などでアメリカ応援団が見せるUSA! USA! のシュプレヒコールは、日本応援団のニッポン、チャチャチャと同じくらい嫌いなのだが、今回、なんかあった時に、皆で一緒に歌って悲しみを半減させたり、勇気を奮い起こさせたりすることのできる歌があるのはいいなあと思った。アメリカの国歌というのは確かにそういう作用があるし、上記の曲など、そういう趣旨の曲には事欠かない。これが日本で東京タワーが崩れ落ちても、人々は「君が代」を歌おうという気には到底ならないだろうし、だからといって他に何を歌えばいいんだと訊かれても答えに窮するだけである。私は金輪際演歌系の曲など聞くのも嫌だし、新しめの曲なぞ全然知らない。もしかしたら60-70年代のグループ・サウンズやフォーク世代の曲に、探せばそれらしき曲が見つかるかもと思うだけである。もしかしたら日本人はやはり何も歌わず、ただ黙して喪に服するだけかも知れない。
この番組、全米の約2億人の総人口のうち、約9,000万人が少なくとも番組の一部を見た計算になるそうだ。この数字はアカデミー賞授賞式中継の約2倍だが、果たして戦争になるかどうかに耳目が集まった前日のブッシュ大統領の所信演説には届かなかったということである。また、放送4日後の発表によると、既に1億5,000万ドルの寄付を集めたそうだ。最後に、色々と意見は分かれるだろうが、私見ではこの日のパフォーマンスのベストは、ボン・ジョヴィによる4人のアンサンブルによる「Living on a Prayer」だったと思う。生ギター2台にパーカッション、ヴァイオリンというシンプルな構成ながら、アレンジの妙が光った。
