Nope


ノープ  (2022年11月)

2017年の「ゲット・アウト (Get Out)」と2019年の「アス (Us)」の2本で人種ホラーという新ジャンルを一人で確立し、最も注目されるホラー・フィルムメイカーの一人となったジョーダン・ピールの新作。痛いスプラッタやショッカー系より演出や雰囲気重視の私の場合、やはり現在のホラー・フィルムメイカーでは、ピールとM.・ナイト・シャマラン、それにロバート・エガースとアリ・アスターを加えた4人が、現在の個人的なホラー四天王だ。 

 

ピールはキーガン-マイケル・キーとコンビを組んだコメディ・セントラルのスケッチ・コメディ・ショウ「キー・アンド・ピール (Key and Peele)」で頭角を現した。元々コメディアンであり、「ゲット・アウト」ではブラックな笑いも含めて印象的な作品に仕上がっていた。 

 

「アス」では黒人と白人の対立というよりも、もっと根源的なアイデンティティが崩れる怖さの方が勝っていたが、それでも主人公は黒人一家であり、やはり人種ホラーという趣きがあった。 

 

「ノープ」でも主人公は黒人の兄妹であり、その意味では人種ホラーと言えなくもない。その一方で、今回のホラーで恐怖を与える源となるのは、人種間の対立でもアイデンティティの崩壊でもない。エイリアンだ。これはびっくりした。人種ホラーの開祖であり立役者であるピールが、3作目にして既に転向してしまった。 

 

というのも、たぶん正しくないだろう。たぶん「ゲット・アウト」で人種間の軋轢をホラーとして提供したのは、黒人のピールにとって題材が身近であっただけだからという気がする。彼が作りたかったのはまずホラーで、たまたまデビュー作の素材が人種間の問題になり、2作目はアイデンティティの問題になっただけかもしれない。第3作がエイリアンになったのは、どんどん怖さの対象が広がってきただけという気がしないでもない。また、現実には白人警官による黒人殺害事件が後を絶たず、現実の方が充分怖くて、今や人種ホラーはわざわざフィクションで描く必要がないからという見方もできる。 

 

一方、「ノープ」では、今度は主人公の黒人兄妹のみならず、重要なサブキャラとして、コリアン2世で昔TVシットコムの子役で人気を得て、現在は西部劇テーマのアミューズメント施設を経営しているという、それこそどこにアイデンティティの源泉があるのかというキャラクターのジュープ (スティーヴン・ユアン) が登場する。一応、やはり白人以外のマイノリティだ。 

 

しかもジュープの子役時代の話がかなり描かれ、彼が出ていたシットコムに出演していたペットのチンパンジーが、番組収録中に突然凶暴になって出演者を殴り殺し、ジュープはたまたま難を逃れたというエピソードが挿入される。 

 

このシーンはとても怖いのだが、では、それが今の話と何の関係があるのかというと、実はあまり、というか、ほとんど関係がない。とはいえ、本筋のエイリアン、ここでのチンパンジーと、両方ともコミュニケイションがとれない相手から被害を受けるという点では、筋が通っていると言えないこともない。 

 

個人的には、人種間の対立、アイデンティティの崩壊に対してエイリアンの侵略は、その間に一線が引かれているように感じる。とはいえエイリアンは、リドリー・スコットの「エイリアン (Alien)」やクリスチャン・ネイビー/ジョン・カーペンターの「遊星よりの (からの) 物体X (The Thing)」等、できのいいホラーもある。考えたらドン・シーゲル/フィリップ・カウフマンの「ボディ・スナッチャー (Invasion of the Body Snatchers)」なんて、もろピール向きの題材と言える。 

 

今回はピールの狙いは、SFホラー・アクションというところだったんだろうと思うが、いずれにしても、そこにブラックな笑いも絡めて提出してくるのはさすがと言え、才人だなこの人という印象を禁じ得ない。果たして、人種、アイデンティティ、エイリアンと対象が進化拡大してきたピール印のホラーが、次は何を題材にするのかは本人のみ知るところだが、この人からはやはり目が離せない。 


 




 









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ヘイウッド家はカリフォルニアで、主に映像関係者への貸し出し用のウマを育てていたが、この時勢、あまり羽振りがいいとは言えなかった。偶然にも、たぶん上空を飛行している飛行機から落ちたものと思われる金属によって、一家の長のオーティスが大怪我を負い、帰らぬ人となる。息子のOJ (ダニエル・カルーヤ) と娘のエメラルド (キキ・パーマー) はなんとか牧場を維持しようとするが、そのウマをUFOが攫っていくのを目撃する。父が死んだのもUFOのせいに違いなかった。二人は動かぬ証拠としてUFOをヴィデオに収めようと計画する‥‥ 


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