Get Out


ゲット・アウト  (2017年3月)

ドナルド・トランプが新大統領となり、これまで燻ぶっていた人種問題に一気に火が点いた形で、ここんとこ白人-黒人間、ならびに対メキシコやイスラム等、アメリカの保守派白人と他人種間の対立が浮き彫りになっている。ニューヨークにいるとまだいい方だろうと思うのだが、それでもブロンクスやブルックリンの東側等の低所得者層の多い地域では、黒人やラテン系は虐げられているという印象は拭えない。ちょっと川を越えてお隣りニュージャージーに足を踏み入れると、黒人比率の高いニューワークという全米でも屈指の犯罪率上位を争う地域があり、本当に毎日のようにニューワークでの銃撃や殺人事件の話を聞く。おかげで最近、人が死ぬというニューズに対して不感症になりつつある。 

 

そういう状況下で公開されたのが、「ゲット・アウト」だ。ホラーなのだが、堂々と人種間の軋轢をテーマにしているところがミソだ。演出はこれが初監督作となるジョーダン・ピールで、コメディ・セントラルが放送していたコメディ、「キー・アンド・ピール (Key and Peele)」で、キーガン-マイケル・キーとコメディ・ユニットを組んでいた。察しの通り二人とも黒人で、人種ギャグが得意ネタだったのは言うまでもない。 

 

「キー・アンド・ピール」は結構評価も高く、エミー賞の常連でもあった。以前、確かデイヴィッド・レターマンがホストをしていた時代のCBSの「レイト・ショウ (Late Show)」に二人がゲストとして出た時、ネタを書くのはもっぱらピールの方だと言っていたから、ピールが才人であるのは確かだろう。 

 

「ゲット・アウト」では、白人女性ローズと黒人男性クリスが恋仲となって、ローズの実家に週末旅行に行くというシチュエイションで始まる。ローズは実家の両親に恋人が黒人ということをまだ話していなかった。心配するクリスだったが、歓待を受ける。屋敷と言える大きな家では黒人の女中と男性使用人もいた。しかし彼らの言動は何かと不審で、違和感を煽る。さらに一族の集まりでやってきた中には黒人もいるのだが、彼の言動も怪しかった。居心地の悪い思いをしたクリスはローズを説得してその場を去ろうとするが‥‥という展開。 

 

予告編ではクリスが椅子に縛りつけられているのを見せるため、彼がその後捕らわれの身になるのは明らかだが、しかし、なぜ、何のために? その理由が明らかになる後半は、俄然白人 vs 黒人の人種対立の構図が浮き彫りになる。それにしてもこのタイミングでこの映画が公開されるか。というか、こうなるべくしてこのような時期に公開されたとも言える。 

 

うまいと思うのがこのテーマをホラー仕立てにしていることで、しかもクリスの親友ロッドがコミック・リリーフとして登場することで笑いも提供し、特に人種問題だけに気をとられることなく、エンタテインメントとしても非常に楽しめる。 

 

主人公クリスに扮しているのは、「ボーダーライン (Sicario)」のダニエル・カルーヤ。「ゲット・アウト」は人種間の軋轢がモチーフになっているが、アメリカにおける人種問題を示唆しているはずなのに、英国人のカルーヤを起用することについて異議を唱える意見を幾つも目にした。ピールとしてはアメリカの人種問題ではなく、人間としての人種問題を提起しているというスタンスだったんじゃなかろうか。 

 

クリスの恋人ローズに扮するのが、HBOの「ガールズ (Girls)」のアリソン・ウィリアムズ。NBCでスキャンダルを起こして「ナイトリー・ニューズ (Nightly News)」を降ろされたニューズ・アンカー、ブライアン・ウィリアムズの娘だ。一昨年のNBCのライヴ・ミュージカル「ピーター・パン (Peter Pan)」で、主人公ピーター・パンを演じた。確かに美形の男顔だが、しかしさすがに少年に扮するには無理がないかという印象が強く、私の中でその印象がウィリアムズのイメージを決定していたのだが、今回ははまっている。美しい薔薇には棘がある。特筆すべきは女中のジョージーナに扮するベティ・ゲイブリエルで、彼女の不気味さ加減が非常にいい。彼女一人でホラー度を20%がたアップさせている。 

 

この映画、ニュージャージー北部の小さな町の映画館で見た。特に黒人比率が多い町ではないが、それでも観客の半分以上は黒人で、クライマックスでクリスが反撃に転じるとやんやの大喝采で、「Beat up that white bitch! (こんな白人のクソ女なんかシメてしまえ!)」と、叫ぶ叫ぶ。こんなのりのりのホラーだとはさすがに予想してなかった。今さらながら、これ、ニューワークの映画館で見たらさらに盛り上がっていたに違いない、ちょっと惜しいことをしたか、と思った。それともアジア系も出て行けなんて迫害される可能性もあったか。 

 











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黒人の青年クリス・ワシントン (ダニエル・カルーヤ) は、白人女性の恋人ローズ・アーミタージュ (アリソン・ウィリアムズ) の郊外の実家に招待されていた。アーミタージュ家の長ディーン (ブラッドリー・ホイットフィールド)、その妻のミッシー (キャサリン・キーナー)、長男のジェレミー (ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ) は全員暖かくクリスを迎えてくれるが、しかし使用人のジョージーナ (ベティ・ゲイブリエル) とウォルター (マーカス・ヘンダーソン) は黒人で、しかもその態度にクリスは尋常じゃないものを感じる。たまたまその週末はローズたち一家の親族の集まりとも重なっていて、一族が集まり出す。その中にも黒人はいるのだが、やはりその態度にクリスは違和感を覚えるのだった‥‥


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