No Sudden Move


クライム・ゲーム  (2021年11月)

やっぱり、なんとなくこのまま無事に2021年が終わるような気がしないと思っていたら、オミクロン変異株だ。これで9割がた年末の帰省はふいになった。こちらは帰省する時は成田からどうしても乗り継ぎ便に乗り換える必要があるが、それは認められず、14日間ホテルかどこかで待機して初めて移動が可能になる。無理だ、そんなの。東京近郊に住んでいたら、公共交通機関を使わずそのまま自宅待機ということですぐに家に帰れるんだが、地方出身者にはきつい。 

 

さて「クライム・ゲーム」だが、それにしてもスティーヴン・ソダーバーグは節操がない。かつて一時休養宣言だか引退宣言だかを出した直後にTVで「ニック (The Knick)」を撮った時もそう思ったが、その後さらに色んなジャンルに手を出すようになった。 

 

「ニック」を書いた時に、既にソダーバーグの手の広げようについて、もう少しでクリント・イーストウッド並みと書いたのだが、その後ソダーバーグは、必ずしもスポーツがテーマとは言えないかもしれないが、NSACARが舞台の「ローガン・ラッキー (Logan Lucky)」やNBAテーマの「ハイ・フライング・バード (High Flying Bird)」も撮っているので、ますます間口が広くなったという印象を受ける。 

 

「マジック・マイク (Magic Mike)」を音楽テーマ作品の一種として見なし、さらにアプリ併用でインタラクティヴ提供したHBOの「モザイク (Mosaic)」も含めると、その幅は基本的にTVには関係しないイーストウッドを既に凌駕しているとすら言える。 

 

さらにイーストウッドも及ばない点として、ソダーバーグの場合、撮影、編集も自分で行うということがある。演出家が自分で撮影もするというメリットは、実はカメラマンとの意思疎通にかかる時間を排除できる、時間の節約という点以外に思いつかないのだが、元々リーンなイメージにこだわるソダーバーグの場合、どうしても自分でやりたいのだろう。 

 

ソダーバーグは元々広角系のレンズをよく使っていたが、実はそういう発見は、映画館で作品に没頭している時より、TVで気楽に見ている時の方が気づく。こないだNetflixで「ハイ・フライング・バード」を見ていて、内容よりもソダーバーグってこんなに広角レンズばかり使ったっけという、イメージの方が気になった。あと少し広角になったら、絵の端っこの方が歪んでしまうという、そちらのはらはら感が、スポーツのエキサイトメント並みにあった。広角でカメラが移動したりパンする独特のリズムが、至るところにある。 

 

そしてこの広角レンズ使用は、「クライム・ゲーム」でもオープニングの移動撮影からして健在だ。その妙味を最も堪能できるのが、そんなに広いわけでもないだろうワーツ家に家族や悪党どもが加わっての室内撮影だ。セットを組んだのではなく、実際の一軒家を借りて撮影したのだろう、広角レンズでぎりぎり入る狭い空間でのアクション、テンションは、いかにもソダーバーグという感じだ。ああいう狭い空間では、確かに監督やらカメラマンなんかがうじゃうじゃいるより、少数精鋭でとっとと撮影したいと思うだろう。 

 

そして「クライム・ゲーム」の場合、出ている俳優のメンツがすごい。主人公に扮するドン・チードルを筆頭に、ベニシオ・デル・トロ、ブレンダン・フレイザー、ジョン・ハム、キーラン・カルキン、レイ・リオッタ、マット・デイモンという面々で、ソダーバーグ作品ということを考えると、これはもう、即座に「オーシャンズ11 (Ocean's Eleven)」か「トラフィック (Traffic)」を思い起こすのは必至だ。「ローガン・ラッキー」もなかなかの面子のケイパーものであったわけだが、特に「トラフィック」を連想させるのは、「クライム・ゲーム」がケイパーものというよりもシリアスめのクライム・ドラマであること、および「トラフィック」にも出ていたドン・チードルとベニシオ・デル・トロがここにもいることにある。 

 

一方で「オーシャンズ11」のマット・デイモンが今回は出世したというのが、印象的なことの一つと言える。「オーシャンズ11」では、というか「オーシャンズ11」以来、こういうガラ・ギャング的な作品では、デイモンはだいたいにおいて下っ端か引っ掛けられる方だった。これが他の作品に出ると、ジェイソン・ボーンみたいなスーパーヒーローになるのが信じられない。 

 

それがいつの間にやら多少は貫禄のついたデイモンは、今回はギャング側ではなく、GMの重役として出てくるのだが、わりとそれが様になっている。ある意味チードルやデル・トロよりも、役柄が大きく変化したデイモンに時間の流れ、歳月を感じるのだった。 


 











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1954年デトロイト。刑務所帰りのカート・ゴイネス (ドン・チードル) にダグ・ジョーンズ (ブレンダン・フレイザー) が接触し、簡単で金になる仕事の話を持ちかける。GMで働く会計士マット・ワーツ (デイヴィッド・ハーバー) の家にお邪魔し、ちょっと強面をして、あるものを受け取ってくるだけの話だという。胡散くさい話だったが、取り敢えず金が必要なカートは話に乗る。実はこの仕事には、同様に脛に傷を持つロナルド・ルッソ (ベニシオ・デル・トロ) とチャーリー (キーラン・カルキン) も面子として加わっていた。しかしGMの金庫には目的のものはなく、一家を皆殺しにしようとしたチャーリーをカートは撃ち殺してしまう。通報でかけつけたジョー・フィニー刑事 (ジョン・ハム) は、ワーツ家の証言がちぐはぐなことに疑惑を抱く‥‥ 


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