My Son


マイ・サン  (2021年10月)

「マイ・サン」を提供しているピーコックは、NBC系列のストリーミング・サーヴィスだ。アメリカの地上波ネットワークのストリーミングは、CBS/パラマウント系のパラマウント+は有料、ABC/ディズニーのディズニー+は基本的にABC番組とは無関係であるなど、ネットワークによって経営・編成方針が異なる。 

 

ピーコックは無料サーヴィスで、NBCで放送される番組が無料で見れる。それだけでなく、「マイ・サン」のようなオリジナル作品も見れる。とはいえNBCの一時代を築いた「フレンズ (Friends)」や「サインフェルド (Seinfeld)」のようなかつての人気番組が見れないなど、残念な点もある。その辺が無料サーヴィスになった理由の一つでもあるだろう。有料オプションにアップグレイドすると、コマーシャルがない等の違いがある。 

 

そのピーコックのオリジナル作品が「マイ・サン」で、ジェイムズ・マカヴォイとクレア・フォイ主演で舞台がスコットランドが舞台というと、ピーコックのオリジナルというよりは、英国での企画が先にあって、ピーコックがそれに乗ったということだろう。 

 

「マイ・サン」に最初に興味を惹かれたのは、マカヴォイが全編すべて即興で、その場でセリフをつけて演技していると宣伝していたためだ。製作陣はマカヴォイに撮影現場に連れて行き、たぶん簡単な状況設定を説明した後、後はマカヴォイにすべてを委ねたものと思われる。 

 

もちろん、何から何まですべて即興というのはあり得まい。中には撮り直したシーンもあったはずで、それも即興ではあるかもしれないが、即興の醍醐味が一発勝負にある時、それってなんか違うような気もする。 

 

だいたい、即興ということがメインの方法論であるならば、基本的に一発勝負のノー・カットの1テイク・ショットになるはずだ。マカヴォイがどう反応するかわからないなら、当然カメラやライトや機材やスタッフの設置・移動は限られ、一台のカメラで追わざるを得ない。それが途中にカットが挟まるのは、アクションも多いからとはいえ、ある程度はやはり動きは事前に決めていないとできない。しかしまあ、即興で行うアクションが果たして面白いかどうかということもある。色々思わせてくれる。 

 

たぶん即興の意味が最も出たのは、やはりマカヴォイの全編に渡るテンションの高さにあると思われる。彼がてんぱっているのだけは確かで、これは役の上で息子が失踪しているからということだけではないだろう。状況に集中しているからに違いない。見ているこちらも釣られて緊張する。その点では、マカヴォイの即興演技は確かに効果があると言える。 

 

といった点以外でふと思ってしまうのは、近年ではマカヴォイとフォイで最も印象に残っているのは、マカヴォイが「スプリット (Split)」のビーストや「X-メン (X-Men)」のゼイヴィア、フォイが「蜘蛛の巣を払う女 (The Girl in the Spider's Web)」のリスベットということで、共に変身したり超能力持っていたりスーパーIT女だったりと、超人的活躍をする役ばかりだ。それなのに「マイ・サン」では一人息子が失踪しているというのに、うだうだくだ巻いて待つだけか、他人に八つ当たりすることしかできない。ゼイヴィアなら失踪現場に到着した2分後には息子を見つけられるだろうし、リスベットならやはりヴィデオ情報からすぐに真相究明するに違いない。 

 

等々と思いながら「マイ・サン」の情報を調べていて、この作品、実は2017年の仏作品「凍える追跡 (Mon Garcon)」のリメイクということを知った。オリジナルでも主人公を演じるギョーム・カネは全編即興演技しているそうで、今回はそれも含めてのリメイクだ。なんか、そういうワン・アンド・オンリーみたいな作品をわざわざリメイクしなくても、という思いが一瞬頭をかすめるが、もし今回のリメイクがなかったら永遠に知らないままだったろうから、リメイクの意義はあるとも言える。 


演出はオリジナルも今回もクリスチャン・カリオンで、たぶんオリジナルを撮った時、ああしたらよかったとか、あれもできたこれもできたなんて思いがあったに違いない。今回の話をチャンスだと思ったんだろうが、さて今回は思うように撮れたのだろうか。

 

ところでカネというと思い出すのは2006年のサスペンス・スリラー「唇を閉ざせ (Tell No One)」で、よくできたフランス製のスリラーにカネが出ている確率は高い。ただし「唇を閉ざせ」は原作はアメリカのハーラン・コーベンで、今度はフランスのカネの作品をハリウッド・リメイクだ。と、先日、TVでABCのトーク・ヴァラエティ「レイチェル・レイ (Rachael Ray)」を見ていたら、そのコーベンがゲストとして出て来て、レイと話をしていた。なんでも家族ぐるみの付き合いらしい。がたいよくて、禿げ頭だがなにやら柔和な顔立ちで、これでハードボイルドを書くというのに何やら納得した。

 











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妻のジョーン (クレア・フォイ) と別居中のエドモンド (ジェイムズ・マカヴォイ) に、ジョーンとキャンプしていた一人息子のイーサンが行方不明になったと連絡が入る。事故か誘拐かわからず、警察の捜査も当てにならず、エドモンドは一人で捜査を始める。ジョーンの現在のパートナーのフランクに会ったエドモンドは不審を抱き、フランクをぼこぼこにしてしまう。逮捕されるも釈放されたエドモンドは、くすねたフランクのスマートフォンに入っていたヴィデオから失踪直前までのイーサンの動きを追い、背景に写っている不審なクルマを発見する‥‥ 


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