放送局: NBC

放送日: 11/21/2005 (Mon) 22:00-23:00

プレミア放送日: 1/3/2005 (Mon) 22:00-23:00

製作: ピクチャーメイカー・プロダクションズ、グラムネット・プロダクションズ、パラマウントTV

製作総指揮: グレン・ゴードン・キャロン、ケルシー・グラマー、スティーヴ・スターク、ロナルド・シュワリー

クリエイター/監督/脚本: グレン・ゴードン・キャロン

撮影: ケン・ケルシュ

編集: ティム・スカイレス

美術: グレッグ・メルトン

出演: パトリシア・アークエット (アリソン・デュボワ)、ジェイク・ウェバー (ジョー・デュボワ)、ミゲル・サンドバル (マニュエル・デバロス)


物語: 「スティル・ライフ (Still Life)」

アリソンは死者の霊を見ることのできる特殊能力を活かして警察の犯罪捜査に協力している。ある時殺人現場を検証していたアリソンは、彼女だけに見える文字に導かれるままにギャラリーに足を踏み入れる。そこで後ろ向きに描かれた女性は実は消息を絶って久しいと思われる人物だったが、画家のジェイソンはそういう女性は知らないと突っぱねる‥‥


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今年度のエミー賞において最も意外だったことの一つが、ドラマ部門主演女優賞にノミネートされただけでなく、実際に受賞してしまった「ミディアム」のパトリシア・アークエットの存在である。いくつか意外な受賞、番狂わせのあった今年のエミー賞で、これほど意外だったものはなかった。ノミネートされたことすら私にとっては予想外だったくらいである。


「ミディアム」は、家庭の主婦兼霊媒として犯罪捜査に協力する女性とその家族を描くドラマだ。もちろんアークエットが演じるのは主人公の霊媒アリソン・デュボワである。この番組、事実を基にしており、アリソン・デュボワというのは現実に存在する人物だ。この番組のおかげでかなり彼女本人にも焦点が当たっており、色んなところで本人の写真やインタヴュウを目にする機会があったりする。同様に霊媒として知られるジェイムズ・ヴァン・プラーグと共に、現在ではアメリカを代表する2大霊媒と言ってもいいんではなかろうか。


番組は今年1月から始まっており、私がこの番組やアークエットがエミー賞に絡んできたのが意外に思った最大の理由はここにある。毎年6月から翌年5月までに放送された番組が対象のエミー賞においては、年が明けてから始まったシーズン途中の差し替え番組は、絶対的に不利である。番組が定着して認識されるまでの露出時間が短すぎるのだ。


例えば、今現在エミー賞が開催されるとするならば、ドラマ部門で主要な賞に絡むのは確実のABCの「グレイズ・アナトミー (Grey's Anatomy)」が今年ノミネートされなかったのは、番組が始まったのが3月後半というシーズンも終了間際だったために、大半のエミー会員がこの番組のことを知らなかったからということが最も大きい。映画でアカデミー賞に絡む作品の大半が年の瀬も押し詰まってから公開されるのとは逆で、TVのシリーズ番組の場合は露出期間が長ければ長いほど有利になる。


だから「グレイズ・アナトミー」ほどではないとはいえ、「ミディアム」だって決して有利とは言えない立場だった。もとい、はっきり言って不利だった。それに、私個人のテイストから言うと、同様の犯罪ものドラマでは、ほぼ同時期に始まったCBSの刑事ドラマ「ナンバーズ (Numb3rs)」の方が好みに合った。


「ナンバーズ」はこの世に起きる犯罪や事件は数式で表すことができ、つまり、ある一定の公式や当てはまる数字がわかれば、犯罪を解決できるだけでなく、未然に防ぐことも可能という仮定に則って進むドラマである。当然主人公の一人は天才数学者 (デイヴィッド・クラムホルツ) で、その兄のFBI捜査官にロブ・モロウが扮している。番組クリエイターはリドリー・スコットとトニー・スコットのスコット兄弟で、彼らが実際に演出しているわけではないとはいえ、人を食った設定と合わせ、なかなか楽しませてくれる。数学者兼ミステリ作家の天城一がTVドラマを書いたとしたらこんな感じになるかもしれない。


とまあそういうこともあって、「グレイズ・アナトミー」助演でノミネートされたサンドラ・オー以外、番組としてはほとんど言及されていない「グレイズ・アナトミー」や「ナンバーズ」がほぼエミー賞からシャット・アウトされているのに、まさか「ミディアム」からアークエットが主演でノミネートされ、しかも受賞してしまおうとは私は夢にも思わなかったのだ。だったら「グレイズ・アナトミー」主演のエレン・ポンピオはどこにいると言いたくなる。


と、思わず愚痴めいたことを口走ってしまったが、だからといって「ミディアム」においてアークエットが頑張っていないわけではない。それなりに見るべき点があるのは確かである。要するに、私個人の嗜好で、霊だとかなにやらうさん臭いものが絡むととたんに興味を失ってしまうだけだ。これが映画みたいに一回こっきりで終わるものだとか、「シックス・センス」みたいにそれこそ大上段に振りかぶって思い切りほらを吹いてくれるようなものだと逆に楽しめるのだが、霊媒の助けを借りて犯罪事件を解決するというドラマを毎週毎週見ようという気にはあまりならない。


話はそれるが、今シーズンCBSで始まったもう一つの霊媒ドラマに、ジェニファー・ラヴ・ヒューイット主演の「ゴースト・ウィスパラー (Ghost Whisperer)」という番組がある。こちらは犯罪ものではなく、昔の「タッチド・バイ・アン・エンジェル (Touched by an Angel)」を彷彿とさせる、霊の力を借りてずれてしまった人間関係を修復するというお涙頂戴ものだ。これまた私はバカにしていて、いくらヒューイットが出ていてもこんな番組じゃ見る気がしないよと思いながら見ていて、つい乗せられてぼろぼろ泣いてしまうという恥ずかしい経験をしてしまった。だからこんな霊が出てくるような番組は嫌いなんだ。


そういう愛憎半ばする霊ものドラマ「ミディアム」が今回提供したのが、この3Dエピソード「スティル・ライフ」である。3Dといえば、現在人々が即座に思い浮かべるのはアイマックスだと思う。ディズニー・ランドやユニバーサル・スタジオに頻繁に足を運ぶという者なら、今でもきっと何かしら上映しているに違いない3D作品を見たこともあるだろう。あるいは、子供にせがまれて一昨年の「スパイキッズ3D」を見ている大人もいるかもしれない。私なんか子供もいないのに騙されて映画見ちゃった口だ。


とはいえ、こういう特殊な施設、いや、施設は必要ないかもしれないが、どうしても3Dメガネは必要となる3D作品を、わざわざTV番組で製作するなんて話は聞いたことがない。そもそもTVで3D番組を製作するなんてことが可能なんだろうか。第一、視聴者はどこでどうやって3Dメガネを手に入れたらいいんだ。それとも技術革新のおかげで3Dメガネをかけなくとも3D効果を得ることのできる新技術が開発されていたなんてことがあるんだろうか。


なんてことを思っていたのだが、3Dメガネの必要のない3D効果なんてあるわけがなく、当然視聴者はその3Dメガネを手に入れる必要があった。で、最初私は、どうやってアメリカ全国津々浦々の視聴者に3Dメガネを行き渡らせるつもりなのか不思議だった。入場者に3Dメガネを一人一人手渡せばいい映画館やディズニー・ワールドとはわけが違う。ダイレクト・メイルの乗りで郵便かなんかで送りつけるつもりか、全米1億超の世帯に? しかも一世帯にきっと何人もTVを見るやつはいるぞ。どこに何個送りつけるなんてどこで誰が判断する?


なんて思っていたら、視聴者は各自3Dメガネを手に入れないといけないのだった。なんだ、それ。ニューヨークとLAのNBCのスタジオに行けば無料で3Dメガネは配布しているということだが、そんなことができる暇と金のある人間は限られている。田舎に住んでいる人間はいったいどうやって3Dメガネを手に入れたらいいんだ。


実はそこで登場するのが、アメリカ最大のTV情報誌、「TVガイド」である。TVガイドは全米で最も普及している、というかほぼ唯一のTV情報誌だ。ごく一般的な視聴者は、わざわざこの種のガイドは買わず、たいていは新聞の日曜版の付録についてくる週刊のTV情報誌で間に合わせるのだが、TVガイドのお世話になっているという者もかなり多い。アメリカではこの種の雑誌は定期購読するとかなり安くなるので、ほとんど懐も痛まない。郵便で送られてくるために、田舎に住んでいる者がわざわざ雑誌を手に入れるために町に出る必要もない。


で、NBCはそのTVガイドと提携して、「ミディアム」の3Dエピソードを放送する週のTVガイドに、安物のぺらぺらの3Dメガネを付録としてつけたのだ。普段は1ドル99セントのTVガイドがこの時に限って半額の99セントとなり、定期購読していない者でも手に入れやすいよう配慮もされた。というわけで、私のようにTVガイドを購読していない者は、その号のTVガイドを買わざるを得なかった。もちろんニューヨーク在住の私の場合は、その気になればロックフェラー・センター内のNBCスタジオまで足を運んだってよかったのだが、要するにその手間隙をかけるより、普段の生活圏内にあるニューズ・スタンドでTVガイドを購入する方が楽だったのだ。


しかしやっぱりその3Dメガネ、要するにただ厚紙の間に赤と緑のセロファンを挟み込み、切り取り線に沿って切り取って組み立てるというだけの安物である。予想はしていたが、本当にちゃちい。「スパイキッズ」を見た時に配られていた3Dメガネは、私のように普段からメガネをかけている者がそのメガネの上から装着できるようまだ工夫されていたが、今回のこの3Dメガネには、そのような考慮は見られない。おかげで3Dメガネを切り取って組み立てても、私が今かけているメガネの上からかぶせることができない。結局、3Dメガネは自分で手に持ってずっと固定しているほかはない。バカみたい。これだったら赤と緑のセロファンを自分のメガネに貼りつけていた方がまだましだ。こんなんでどうやって番組に集中すればいいんだ。


なんてぶつくさ言いながら見始めた3Dエピソードの「ミディアム」、冒頭でいきなり白黒映像で「ザ・トワイライト・ゾーン」のロッド・サーリングが現れ、前口上を述べ始める。これはこれなりに工夫していて楽しめる。ちゃんとサーリングが実際にしゃべっているように見えるのだが、もちろんサーリングは既にずっと前に他界している。映像もせりふもこしらえてあるわけだが、しかしよくできてるなあ。本当に本人がしゃべっているようだ。


そのサーリング曰く、今回の「ミディアム」は3D仕立てで、そういうシーンになると画面左上に3Dマークが現れるから、そうしたら3Dメガネをかけて番組を楽しんでくれとのこと。やはり最初から最後まですべて3Dというわけではなかったようだ。そういや「スパイキッズ」も確かに3Dの場面になったら3Dマークが点灯して観客は3Dメガネをかけるという手はずになっていた。ところで、「トワイライト・ゾーン」って実はCBSの番組なのだが、サーリングはちゃんと許可をもらってからNBCの番組なんかに出ているのだろうか。


このエピソードで3Dシーンの占める割合は全体の4分の1から5分の1程度、もしかしたらそれよりも少ないかもしれない。当然、立体感を出した方が面白い舞台設定にわざわざしてある。例えば、ある女性が忍び込んできた男に台所で襲われるのだが、テーブルの上で揉み合いながら女性は腕を上に伸ばし、相手を撃退するための武器を手探りで探す。もちろん、これは状況といい構図といい、ヒッチコックの3D作品「ダイヤルMを廻せ!」におけるグレイス・ケリーが襲われるシーンの再現に他ならない。ここでケリーのようにハサミをつかんだらいくらなんでも芸がなさすぎ、と思いながら見てたら、やはりそこまでパクるような真似はせず (というか、これはヒッチコックに対するオマージュなのだろう)、ここでのヒロインはスプレー缶をつかむと、犯人に対してしゅっと吹きかける。


とまあ、それはいいんだが、愕然としたことに、3Dでカメラめがけてスプレーを吹きかけているはずのそのシーンが、まったく3Dにならない。え、なんだ、これ、どうしたことだ? と思いながら見ていたら、その直後、さらに効果を狙った、カメラをめがけて包丁を投げつける、というシーンでも、私が見ている画面では、3Dメガネをかけていても単なる赤と緑がぼやけた平面にしか見えないのだ。これはどうしたことだ、TVに近すぎて効果が現れないのかと、見る位置をずらしてもやっぱり2Dでしかない。


がーん、録画したテープを見ているからか、でも、録画したら効果がなくなるなんて話聞かなかったぞ、と思ったのだが、どうもそれくらいしか理由が思いつかない。あるいは、ちょっとした色相や位相のずれによって3D効果を得にくいTVとの相性のようなものがあることも当然考えられる。いずれにしても私の場合は、3Dエピソードを見るために費やした労力はすべて無に帰したのであった。因みにTVガイドの中の「ミディアム」特集の3D写真を3Dメガネをかけてみるとちゃんと立体に見えたから、理由はやはり映像そのものにあるとしか考えられない。


とにかく、これじゃあ話の中でわざわざ登場人物が無理やりカメラに向かって包丁を投げつけるという苦しい設定が苦しいままで終わってしまい、まるで意味がない。それでも番組製作者のために一言申し添えておくと、このエピソードでは女性を殺した人物が誰で殺された理由が何であったかという謎が一捻りされていて、なかなかよくできていた。3Dという言葉に騙されたとしか思えなかった「スパイキッズ」に較べれば、今回の「ミディアム」は別に3Dじゃなくても話として面白かったことは強調しておいてもいいだろう。


とはいえ、このエピソードの最大の興味の焦点を経験し損ねたという遺恨は残る。番組プロデューサーは、もしこの3Dエピソードが大成功した暁には、4年後には今度はホログラム・エピソードを期待して待っててくれという半分冗談の談話を発表していたが、それはひとまずやめといてくれと私も意見を表明しておこう。






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ミディアム 3-D   ★★★

 
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