Knife Fight   ナイフ・ファイト

放送局: エスクワイア

プレミア放送日: 9/24/2013 (Tue) 21:00-21:30

製作: フラワー・フィルムズ、オーセンティック・エンタテインメント

製作総指揮: ドリュウ・バリモア

ホスト: イラン・ホール


内容: 一対一で腕の優劣を競うクッキング・コンペティション。


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Knife Fight


ナイフ・ファイト  ★★1/2

アメリカTV界におけるクッキング・コンペティション・リアリティは、今でも日に日に進化を遂げている。元はと言えばフジの「料理の鉄人」こと「アイアン・シェフ (Iron Chef)」が先鞭をつけたジャンルで、今では本家よりもアメリカにおいて一つのムーヴメントが確立している。


現在アメリカで誰でも知っているこのジャンルを代表する番組はというと、今でも根強い人気を誇るフード・ネットワークの「アイアン・シェフ」を筆頭に、ブラヴォー (Bravo) の「トップ・シェフ (Top Chef)」、およびFOXの「ヘルズ・キッチン (Hell’s Kitchen)」が3大人気番組としてまず挙げられる。


これらの番組は、例えば「アイアン・シェフ」に、プロのシェフを集めて勝ち抜きで次のアイアン・シェフを決める「ザ・ネクスト・アイアン・シェフ (The Next Iron Chef)」があるのと同様、「トップ・シェフ」にも「トップ・シェフ・マスターズ (Top Chef Masters)」があるなど、似たようなスピンオフ番組を生み出した。「ヘルズ・キッチン」はスピンオフこそないが、ホストのゴードン・ラムジーが素人シェフを勝ち抜きで勝負させる「マスターシェフ (MasterChef)」でもホストを担当、こちらは子供シェフを対決させる「マスターシェフ・ジュニア (MasterChef Junior)」というスピンオフがあるなど、このジャンルは拡大拡散を続けている。


実際に多種多様のクッキング・コンペティションがこれでもかというくらい続々と編成されており、はっきり言ってもうなにがなんだかわからないくらいこの手の番組は多い。一応は参考のためにとそれらの番組のリストアップを始めてみたのだが、あっという間に十指に余る数になり、さらにまだ全然先が見えないくらいの数の番組があったので、中途半端にリストを作るくらいなら作らない方がましかと諦めた。


その中で「ナイフ・ファイト」は、プロデューサーが女優のドリュウ・バリモアということでまず目を惹いた。番組ホストは「トップ・シェフ」第2シーズン優勝者のイアン・ホールで、番組は彼が経営するLAのレストラン ザ・ゴーバルス (The Gorbals) において、店を閉めた後に行われる「ファイト・クラブ (Fight Club)」的乗りのアンダーグラウンドのクッキング・バトルをとらえたものだ。セレブリティも集まって全員酒を飲みながら盛大に野次ったり応援したりする。印象としてはクッキングというよりも確かにバトル、格闘技で、様々なテーマ、企画があるクッキング・コンペティション・リアリティの中で、「ナイフ・ファイト」は一際異彩を放っていた。


「ナイフ・ファイト」は当初、今夏に放送が予定されていた。元々は若者オタク向けチャンネルだったG4が模様替えし、ランクを上げて若者というよりも金のある若いエグゼクティヴ向けに、雑誌エスクワイア (Esquire) と手を組んだエスクワイア・チャンネルを立ち上げ、「ナイフ・ファイト」はその時に編成される新番組のうちの一つだった。ところがその移行が思うように進まず、エスクワイア立ち上げは今秋にずれ込み、ようやくこのほど放送が始まったものだ。


番組の体裁はシンプルで、毎回二人のシェフを呼び、テーマとなる食材を発表し、制限時間1時間で料理を仕上げ、そのできをジャッジが判定する。ジャッジはホール以外は毎回異なり、イーライジャ・ウッドやエリカ・クリステンセンといったセレブや、著名シェフが担当することもある。勝ったからといって賞金は出ない。要するに構造としては「料理の鉄人」とまったく同じだが、印象がこれだけ異なるのもお国柄のせいか。


近年、この手のクッキング・コンペティション・リアリティが増えたせいで、食材、特に肉魚をさばくことに対する視聴者の意識も変わった。それまでは魚を料理する時にまだぴちぴちはねている魚に包丁を降ろしたり、生きているロブスターを熱湯に放り込むなんてシーンは、残酷という意識があったからだろう、その直前にカメラが切り替わって視聴者に見せなかったりしたものだが、最近ではまったくそんなことはない。どういう風にさばくのか、包丁を入れるのか下ごしらえをするかという技術は、視聴者が最も見たいものの一つだからだ。


一方毎回のテーマとなる食材は、ザリガニ、コールラビ、ブタの頭、ナマズの肝、 牛のタン、羊の胃袋 (ハギス)、ジャックフルーツ等、どっちかっつうと食材というよりもゲテモノに近い、シェフがこれまでにその食材を使ったことがあるかどうかも疑わしい、癖のあるものがかなりの頻度で入る。


さつまいも、いくら、まいたけ、といった和食特有の食材が出てくる機会が結構あるのも、近年の和食のアメリカへの浸透ぶりがわかる。それらの食材はまだまだ一般家庭にまで浸透しているわけではないが、それでも、勉強しているシェフならわかる。和のシェフじゃなくても、だしくらいとれたりするのだ。「うまみ」は既に英語になっている。


これまでに私が見たバトルの中で最も印象に残ったのが、ジェイムズ・トゥリーズとクリスチャン・ペイジの対戦で、この時のテーマとなる食材は、丸々ヤギ一頭だった。むろん生きているヤギではなく、既に皮や内臓等は取り除かれている。とはいってもまだ頭は付いており、目も見えるし口の中には歯もある。シェフにとってはどうってことないだろうが、自分でたぶんこれまでに生まれてから一度も魚をさばいたこともないだろうと思われる一般的なアメリカ人にとっては、なかなか強烈な視覚体験に違いない。


私は沖縄の出身だが、そこではヤギはご馳走で、大きな宴会や集まりがあると、丸々一頭さばいたりする。独特の癖と臭いがあるが、香草香辛料をたっぷり入れたヤギ汁は、食べ慣れるとなかなか美味だ。強壮剤としても知られ、ヤギ汁をお代わりすると、夜寝られなくなるくらい目が冴える。コーヒー紅茶レッドブルの比ではない。


私の女房が幼い頃、親族の集まりに行った時に、庭の木にヤギが一頭繋がれていたことがあったそうだ。物珍しいのでその辺の草を摘んで餌として与えたりして遊んでいた。そのヤギがその晩ヤギ汁となって食卓に並んで以来、ヤギが食えなくなったそうだ。番組で大きなトレイの上に置かれたヤギを見て、その話を思い出した。小さい頃のトラウマはなかなか癒えない。


さて番組では、そのヤギをペイジとトゥリーズが瞬く間にさばいていく。6、7分でほぼ解体を済ませ、両者とも必要な部位をとって下拵えする。制限時間は1時間だから、無駄にしている時間はない。大きな牛刀でがんがん肉をたたっ切っていく。ギャラリーから歓声が上がり、いかにもバトルしているという雰囲気が伝わってくる。


勝負の方はトゥリーズがトスタダスと、リブをヨーグルトとざくろでブレイズしたものを作れば、ペイジはベーコンで巻いたソーセージと、ゴート・ネックのカルニータスを作る。あのチーズは当然ゴート・チーズなんだろうな。時間制限があるということで、ペイジは使ったことがないというプレッシャー・クッカーを使おうとして苦労していた。プレッシャー・クッカーがなくても時間をかけてゆっくりと作ればいいことというセリフには納得する。 どちらもうまそうだったが、どちらかと言うと本命ペイジ挑戦者トゥリーズのように見えたトゥリーズの方が勝った。


単に勝負するだけでは面白くないということで、勝負の前にトゥリーズが負けた方はヒゲを剃るというバツ・ゲームを提案 (二人共ヒゲを生やしている)、ペイジはそれをのんだのだが、結局ペイジは7年間剃ってないというヒゲをギャラリーの前で剃り落とすことになった。ちゃんと床屋に置かれている椅子と職人も用意してあった。










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