放送局: フード・ネットワーク

プレミア放送日: 1/16/2005 (Sun) 21:00-22:00

製作: トリアージュ・エンタテインメント、フード・ネットワーク

料理の鉄人 (アイアン・シェフ):

森本正治 (和食)、ボビー・フレイ (サウス・アメリカン)、マリオ・バタリ (イタリアン)


内容: アメリカでシリーズ化された、アメリカ版「料理の鉄人」。


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「アイアン・シェフ」こと「料理の鉄人」は、アメリカでは今でも人気があり、ケーブルのフード・ネットワークで再放送、再々放送、再々々放送が飽くこともなく続いている。実際、日本ではだいぶ前に放送を終えた番組が、異国で根強い人気を得て延々と放送が続いているという事態には、改めて驚かされもする (因みに、同様に放送済みの番組でこちらで人気があるのが、「風雲! たけし城」こと「MXC」だ。)


この人気に便乗するべく、ネットワークのUPNは、既に4年前に最初のリメイクである「アイアン・シェフUSA」を製作、放送している。しかし「USA」は、「料理の鉄人」をよりアメリカ向けにしようと内容に手を入れ過ぎたためにオリジナルとは似て非なるものになってしまい、視聴率は稼げず番組ファンからもぼろくそに言われ、すぐに姿を消した。


そして昨年4月、フード・チャンネルが今度は「アイアン・シェフ・アメリカ」を製作して、アメリカ代表アイアン・シェフと本家鉄人を戦わせた。「USA」で懲りたか、「アメリカ」の場合はあくまでも本家「料理の鉄人」のフォーマットを遵守し、基本的に番組の体裁はオリジナルそのままというところに特色があった。


ただしこの時も、番組進行はほとんどオリジナル通りだとはいえ、それでもジャッジの人選等、首を捻らざるを得ないところもあり、結局、勝負はアメリカ人アイアン・シェフが本家鉄人を大差で破るという一方的なものとなってしまった。これって、なんだか、うちらが本家本元のメイジャー・リーグだといって自慢していたら、外国チームにこてんぱんに負けてしまうようなものだろう。いずれにしても、番組として頑張っていることを認めるのには吝かではないが、やはり番組が持つ真剣勝負の面白さとしては、オリジナルの「鉄人」には及ばないと思わざるを得なかった。


そしたらフード・ネットワークは、その時限りの特番としてではなく、本家同様のシリーズとしてこの番組を企画しており、本家鉄人対アメリカ人アイアン・シェフの対決は、その打ち上げ花火的な意味合いがあったのだった。新「アイアン・シェフ・アメリカ」では、テックス・メックスやグリル料理を得意とするボビー・フレイ、イタリアン料理で著名なマリオ・バタリ、そして和の森本正治の3人がアイアン・シェフとして選ばれ、今年1月から放送が始まった。一応フード・ネットワークは10本製作しており、人気が出れば、当然続編も製作するつもりだろう。


新「アメリカ」においては、昨年の日米対決で最も苦情の多かったジャッジの人選に最も注意が払われたのは言うまでもない。結局、そこで失敗してしまっては話にならないことは、フード・ネットワークも身に染みてわかったはずだ。今回は、料理評論家や前回はいなかったアジア系のジャッジなど、明らかに前回の失敗から学んだと思われるジャッジが顔を揃えており、なんだ、ほらみろ、やればできるじゃないかと少し安心する。


というか、きっと前回はお祭りのようなものだったので、フード・ネットワークもジャッジの人選までそれほど気にせず、お祭りとして大々的に盛り上げたかっただけというのがほんとのところだろう。とにかく料理評論家というよりも、TV好きなら顔をよく知っているに違いない有名どころがジャッジとして顔を揃えていた。それが結果として一方的な勝負となったもんだから、フード・ネットワークも焦ったに違いない。まあ、そのおかげで今回は和風の微妙な味付けにも言及することのできる面々がジャッジとして雁首揃えているわけで、うまく災いを福に転じさせていると言える。


さて、今回選ばれた3人のアイアン・シェフの中で、最も出たがりは誰が見てもフレイだろう。まだ「料理の鉄人」がアメリカにおいて海のものとも山のものとも知れていなかった時代に既に二度も出演し、そして昨年、さらに今回の「アイアン・シェフ・アメリカ」と、目立ちたがり度ではアメリカ人ということを考慮しても群を抜いている。彼はフード・ネットワークで他にも「ボーイ・ミーツ・グリル (Boy Meets Grill)」や「フードネイション (FoodNation)」等の自分の料理番組を既に持っているのだ。こんなにTVにばっか出ていたら、日本ならもっと自分の店の方を考えろと絶対陰口叩かれそうだ (実際叩かれているみたいだが。)


一方、バタリの方は、巨漢で、勝負になるとかなり厳しい表情を見せはするが、それでも3人の中では最も温厚という印象が強い。彼がフード・ネットワークでホストを担当している料理番組の「モルト・マリオ (Molto Mario)」は、すぐ前のテーブルに座った客を前に、日常会話のような気さくな会話を楽しみながらバタリが料理するという趣向で、彼の人柄がよく出た番組の作りとなっている。あのソーセージのような太い指が、指に隠れてしまいそうなにんにくの一片を押さえ、すいすいとナイフで切っていくのを見るのはなかなか楽しい。


そしてむろん森本がいる。この3人が「アイアン・シェフ・アメリカ」のアイアン・シェフとして、アメリカ各地からやってきた挑戦者を迎え撃つわけだ。また、後半になると、4人目のアイアン・シェフとして、地中海料理のキャット・コーラが最初の女性アイアン・シェフとして登場してくるらしい。


そして栄えある本当の番組第1回に出場する挑戦者は、シカゴの「フロンテラ・グリル (Frontera Grill)」、「トポロバンポ (Topolobampo)」等のオーナー、リック・ベイレスで、メキシカンやグリル料理が得意とくれば、もう、これは対戦相手は最初からフレイというのはわかりきっている。とにかくフレイは目立つから、いつの間にやらアイアン・シェフの顔みたいな感じになっている。番組では、実際に最も多く勝負をこなしているのは4戦したバタリなのだが、それでもなぜだかフレイが最も目立ってしまうところが、いかにもこの男らしい。押しの強い奴にはかなわないよ。


そして勝負は始まったのだが、やはり、どんなにオリジナルを克明になぞって番組を製作しようとも、やっぱりアメリカの番組になってしまうんだなあ、これが。ちょっとした細部の差異の集積が全体として見た場合にここまで異なる印象を与えてしまうのは、むしろ不思議な気がするくらいだ。「アイアン・シェフ」の場合、ご当地のテイストを考えてマイナー・チェンジを施すことをできるだけ避け、オリジナルに忠実であることを心がけていることがわかるだけになおさらである。


特に異なるのがアイアン・シェフに勝負を挑む挑戦者の態度で、これが「料理の鉄人」なら、挑戦者には、負けたらどの面下げて帰ればいいんだ、みたいな職人としての意地や、悲壮感すら漂っていたりしたものだが、「アメリカ」では、もう、当然のことのようにそういう気概は挑戦者にはない。もちろん皆真面目に料理して全力を尽くしているんだが、実況 (これがまた能天気な奴だ) にマイクを向けられると、料理の途中であるにもかかわらず、にこにこと食材やディッシュの説明をしたりしている。そのため、どうしても真剣勝負としての緊張感には欠ける。よくも悪くもこれがアメリカなんだなと思わざるを得ない。


とはいえ、別に番組が面白くないわけではない。ただ、「料理の鉄人」だと思って見ると、たぶん違和感を覚えるだろうと言っているのだ。むしろ料理番組として見た場合、シェフが料理を作りながら説明を加えてくれるこちらの方が断然参考になるだろう。前回に較べ、味見をして批評を加えるジャッジのコメントも的を得ているという感が強く、別に積極的に貶す要素があるわけではない。


それでも、勝負として見た場合のこの緊張感の欠如は、うーん、番組としてはちょっと難しいかもしれない。最初からこういう番組だったら別に言うことはないんだが、オリジナルの「料理の鉄人」が持っているあのキッチュでシリアスな真剣勝負の醍醐味を知っている者から見ると、やはりどこか物足りないと思ってしまうのは事実だ。せめてオリジナルで道場にやたらとライヴァル意識を持っていた神田川みたいな挑戦者が一人いれば、勝負はぐっと盛り上がるだろうになあと思うが、いたし方あるまい。


ところで、番組第1回のこの勝負はフレイが余裕でベイレスを下したのだが、なんか、フレイ、昨年からほとんど負けなしじゃん、グリル料理ってそんなに奥が深いのかとこちらを思い始めさせておいて、実はその後、ボストンの「ブルー・ジンジャー (Blue Ginger)」、カリフォルニアの「サンタカフェ (Santacafe)」等のエイジアン/アメリカンを融合させた料理で知られるミン・ツァイと対戦した時には、結構あっさりと負けている。しかし、いずれにしても元々勝負としての勝ち負けには誰もあまりこだわっている節が見えないため (フレイを除いてだが)、結局、誰が勝とうが負けようが、あまり気にならない展開になってしまっている。うーん、やっぱりなあ、勝ち負けを決める番組として見ると、ちょっと弱いよなあ。


そして日本人としては最も気になる森本の初勝負は、カナダ版フード・ネットワークで色々と活躍しているらしい、「リュミエール (Lumiere)」のロブ・フィーニーとの間で行われた。フィーニーはフレンチを基本に、世界中の食材を利用することで知られているらしい。森本だってフレンチの食材を大胆に使うから、相手に不足はあるまい。因みにこの時のテーマはカニで、こういう生きた食材が出てくる時は、通常、シェフは生きているカニや魚やロブスターを、情け無用で頭から切り落としたり手足をもいだり煮えたぎった油の中に放り投げたりする。前回の特番ではこういうのを残酷と見てわざと映さなかったりしていたが、今回はそういうのも番組の醍醐味の一つとちゃんと気づいたか、しっかり映していたところはえらい。ちゃんと番組として進歩しているし、主旨を理解している。


しかしオリジナルの「鉄人」ファンにとっては残念なことに、この勝負、森本は負けてしまった。因みにこの時のジャッジは、著名な料理雑誌「ボナペティ (Bon Appetit)」の編集長バーバラ・フェアチャイルド、料理記者のヴィクトリア・リカルディ、日本人料理記者のアキコ・カタヤマで、この人選の採点で負けたとなれば、森本ファンも文句をつけるわけにも行くまい。コメントはフェアかつ適切という印象を私も受けたし、実際のところ、私の目から見ても森本の料理よりフィーニーの料理の方がおいしそうに見えた。


森本はアイディア・マンとして知られているが、今回フィーニーの作った料理は、カニを手巻き寿司やトム・ヤム・クン、ラヴィオリに使用して、実に美味そうだった。森本の料理もいつものようにオリジナリティを発揮していたが、やはり欧米人にはまだ完全に浸透しているとは言えない味噌を前面に押し出すように使ったりしたところも敗因の一つのように見受けられた。ところで森本は自分の料理を説明する段になると日本語になり、英語のヴォイス・オーヴァーが被さった。英語も勉強しないとならず、大変だろう。


しかし森本は、次のホタテ勝負でイタリアン「ガリレオ (Galileo)」のロベルト・ドナと対戦、雪辱を果たしている。ドナは完全に時間配分を間違えてしまい、品数が少なくなってしまったこともあって、結構大差がついた。しかし、両者とも真面目に料理しているとはいえ、時々ドナはドウを練っていて冗談で小麦粉をぶちまけるなど、やはりどうしてもこっちのキッチン・スタジアムだと、こういう遊び半分なところが見られる。もう、これはこれでこういうものだと納得するしかなさそうだ。


「アイアン・シェフ・アメリカ」は、つまるところ料理番組として見ると、シェフが料理しながらもちゃんと質問に答えたりするなど、むしろオリジナルの「料理の鉄人」より親切と言えるが、エンタテインメント番組として見ると、「料理の鉄人」には及ばない。これはよくも悪くも「鉄人」が最初から勝ち負けにこだわっていたからだろう。その点、最も勝ちたい意欲が顔に出るフレイにアメリカ版アイアン・シェフとして何度もスポット・ライトが当たるのは、当然その方が番組として面白くなることを作り手もわかっているからだ。同じ番組なのに今度は温厚そうなバタリが登場すると、動きも気持ちゆっくりとしているように見えるためか、ほとんど別の料理番組になってしまうような気がする。


とはいえ「アメリカ」は、昨年の前哨戦に較べて面白くなったと言えるんじゃないだろうか。リアリティ・ショウでご当地版を製作する時には、どうしてもそのお国柄というものが出てくるのは避けられない。こういう些細な相違点をどうさばくかが製作者の腕の見せ所であり、「鉄人」の場合、ご当地に合わせたマイナー・チェンジを施すことなく、できるだけ手を加えないでオリジナルの持つテイストを殺さない方向に向かっている。元々「鉄人」のテイストはなかなか置き換えの利くものではなさそうだったから、それはそれでいいと私も思う。あとは数をこなすことで、自然にアメリカ版の「アイアン・シェフ」ができ上がっていくんじゃないだろうか。フード・ネットワークもこれだけで終わらずにどんどん次のシーズンも製作してもらいたい。





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Iron Chef America: The Series

アイアン・シェフ・アメリカ: ザ・シリーズ   ★★1/2

 
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