Hereditary


ヘレディタリー  (2018年6月)

「 ヘレディタリー」はトニ・コレット演じる主人公のアニーの母が死去して、その弔いをするというシーンから始まる。癖の強かった母をアニーはあまり好きではなく、死んだことに対して悲しみの気持ちを持てなかった。ミニチュア造形作家のアニーは個展を間近に控えており、余計な雑念の元がなくなって、たぶんほっとしていると言ってもいいくらいだろう。


それなのに、やっと安定したはずの生活が乱れ始める。母の墓が何者かによって暴かれる。誰が、いったい、なんのために? その後チャーリーの子守りを条件に送り出したピーターのパーティで、チャーリーはアレルギーの発作を起こす。慌ててチャーリーを病院に連れて行こうとする途中、道路に動物の死骸を見たピーターは運転を誤り、クルマは道をそれ、外の空気を吸おうと窓から顔を出していたチャーリーは、電信柱に激突して首から上を持っていかれる。


強烈なシーンで、似たような描写はリドリー・スコットの「悪の法則 (The Counselor)」でも、オートバイに乗っていた男の首をピアノ線で切り落とすというシーンがあった。しかしあれはヘルメットを被ったままだったからな、生首を、ピアノ線で切り落とされたのではなく、電柱にぶつかって力任せに首が胴体から引きちぎられたこちらの方が、断然もっと視覚的に強烈で痛い。


しかも事故にショックを受けた兄のピーターは、衝撃のあまり何もできず、首から上がなくなって後部座席に座ったままのチャーリーをそのままにして家に帰って自分のベッドに入って寝る。翌朝、クルマを覗いたアニーの絶叫がそこら中に響き渡る。その頃、置き去りにされたチャーリーの首にはアリがたかっていた‥‥


コレット主演のホラーというと、どうしてもM. ナイト・シャマランの出世作「シックス・センス (The Sixth Sense)」を思い出さずにはいられない。しかもあれもショッカーやCGに頼らず、演技と演出によって恐怖や興味を高めていった。同様に「ヘレディタリー」も、しっかりとした演技、演出、ストーリーによって、じわじわと恐怖感を高めていく。「シックス・センス」だって死者が見える少年がいたり、「ヘレディタリー」でも悪魔の転生のような、常識ではあり得ないという展開がある。


思い返すと、事故を起こしたピーターが、どんなに気が動転していようと、後部座席に首のない妹の死体を乗せたまま、家に帰ってベッドに入って寝るか、少なくとも親は起こして報告するだろうと思う。しかし演出が地に足がついているので、見ている時はほとんどそんな疑義を挟むことなく、話に熱中させられる。


他に「ヘレディタリー」を微妙に印象的なものにしているのに、その立地、撮影場所だ。わりと大きめの一軒家なのだが、こういう感じの外見や間取り等、これまでに見たことがない。長女のチャーリーが入り浸るツリー・ハウスも、こんなの見たことない。植生もなんか違う。


私は最初、主演がオーストラリア人のトニ・コレットということもあり、たぶんこれはオーストラリアだと思っていた。家に帰って調べて初めて、これがユタ州近郊を舞台としていることを知った。そうかああいう自然や家の作りはあの辺のものだったのか。


コレットは「シックス・センス」では死者の見える息子を持ち、「ヘレディタリー」でもなにやら何かに憑かれているような息子を持つ。 「ヘレディタリー」 におけるコレットの母は何やら新興宗教の教祖様的な存在だったみたいで、ということは当然コレット自身もそういう資質自体は持っているものと思われる。しかし隔世遺伝的にそういう資質はコレットの母と息子において顕現したようだ。それにしても親や子がそういうものを持っていて、振り回される役が似合うってのも結構来てる。そういやコレット自身も、ショウタイムの「ユナイテッド・ステイツ・オブ・タラ (United States of Tara)」では6重人格だった。やっぱりそういう資質はあるものと見える。


演出はこれが長編としてはデビュー作となるアリ・アスターだが、より納得なのが、プロデュースが「ザ・ウィッチ (The Witch)」のラース・クヌードセンであることだ。地道にストーリーを積み立て盛り上げていく描き方といい悪魔憑きという内容といい、同じプロデューサーの作品であることに大いに納得する。


と、ここまで書いたところで、麻原彰晃の死刑が執行されたというニューズが入ってきた。オウムの残党や家族は、遺体もしくは遺灰の返還を要求しているという。これはまさしく遺体を墓場から盗み出した、アニーの母が関係していたカルトと同じ思想、発想ではないか。たぶんオウムもまだ終わってないんだろうな。










< previous                                      HOME

とある家を長年仕切ってきた一家の老齢の女性主人が死ぬ。ミニチュア作品の造形作家である娘のアニー (トニ・コレット) は、癖のある母が死んだことに、大して悲しみを持てなかった。アニーには夫のスティーヴ (ゲイブリエル・バーン)、ティーンエイジャーの長男ピーター (アレックス・ウルフ)、長女チャーリー (ミリー・シャピロ) がおり、チャーリーには知的障害があった。ある夜、パーティに行くために車を貸してほしいというピーターに対し、アニーはチャーリーも一緒に連れて行くならと了承する。パーティ会場でアナフィラキシー・ショックを起こしたチャーリーを慌てて病院に連れて行こうとする途中、ピーターは運転を誤り、その結果、チャーリーは事故死する。責任を感じて精神のバランスを崩しそうなアニーに、自助グループで出会ったジョーン (アン・ドウド) は、こっくりさんのようなもので、霊界にいる娘と連絡がとれると勧める。一方、ピーターも学校で異様なものを見るようになり、段々言動がおかしくなって行く‥‥


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system