Extraction


タイラー・レイク -命の奪還-  (2020年8月)

徐々に都市機能が、映画館が再開し始めている。一時期は死の街の代表であったニューヨーク/ニュージャージーは、今では全米で最もコロナウイルスの感染が抑えられている優良都市だ。しかしこの傾向を守り通したいアンドリュウ・クオモ NY知事とフィル・マーフィNJ知事は、お互いカジノや映画館等の、人が集まる密閉施設の再開には消極的で、先頃やっと再開予定の日程が発表になった。 

 

実際、私も、映画館が再開するのは、学校やレストラン、モールが無事再開した後の、最後になるだろうと思っていた。なんといっても三密要素が最も高いのは、映画館なのだ。密閉空間で、ほとんど隣りの人間と肩がくっつき合うほどの距離で、時に大いに笑ったり声を上げたりする。正直言って、コロナが完全に沈静化するまでは、私も避けた方がいいかなと思っている。 

 

一方で、もう半年も自宅待機/リモート・オフィスが続いているため、人々の忍耐力も続かなくなっている。まったく屋外派ではないうちの女房ですら、こないだ、どうしても必要があって約半年ぶりにマンハッタンのオフィスに行って必要な書類をピックアップしたり片付けをしたり等して、同様に通勤してきた同僚と顔を合わせて、楽しかったと言っていた。 

 

久しぶりに外出して身体を動かしたことがきっかけとなったか、あるいは、最近の世情不穏でガン・ヴァイオレンスが頻繁に起きているせいかどうかは知らないが、こないだ女房は、夜、ベッドから落ちた。なんでも夢の中で銃撃戦に巻き込まれ、撃たれないように身体を捻って銃弾を避けようとして、その拍子にベッドから落ちたのだそうだ。隣りでがたんと大きな音がしたので私もびっくりして飛び起きると、隣りに女房の姿は見えず、その向こう側の死角からうんうん唸り声が聞こえる。 

 

ベッドから落ちるなんて、何十年も前に一度あったきりだ。というか、普通の人は一生に一度も落ちない人の方が多いだろうに。それなのに女房は床に膝打ちつけて膝小僧に青タン作っただけでなく、落ちる時にベッドサイド・テーブルに頭ぶつけていた。テーブルの角に目ぶつけなくてよかった。 

 

いずれにしても、そんなに銃撃アクションに身を浸したいなら、と、今回はアクションの評価は高い「タイラー・レイク」を一緒に見ることにする。内容を誉める人の話は聞いたことはないが、アクションはいい、特に作品中の1シーン1ショットのアクションは一見の価値ありという意見を、何度も目にしていた。 

 

実際、ほぼ全編手に汗握るアクションの連続で、よくこれだけ撮ったな、というか、アクションを見せたいがための作品で、これはこれで実際滅法面白い。女房なんか緊張して手足に汗かきまくりで、途中でストリーミング止めてといって、ベッドルームに行って靴下履いて戻ってきた。足の裏に汗かいて、床がぺたぺたして気持ち悪いのだという。 

 

そのアクションの中でも、白眉はやはり中頃の、オヴィJr.奪回後のアクションで、カー・アクションからその後の戦闘アクションまでが1ショットで撮られる。むろん現代の1シーン1ショットは、CGの力も借りて実際には途中でカットが挟まっていることが多い。とはいえ、うまく撮ればやはり1シーン1ショットの緊張感を持続できる。 

 

「タイラー・レイク」では、最初、クルマの中のタイラーとオヴィJr.をとらえたカー・アクションの最中、並走するカメラがいつの間にやらクルマの中に入り、タイラーたちの目線から見た映像になる。このシークエンスで思い出したのは、「リズム・セクション (The Rhythm Section)」でのカー・アクションで、クルマの中から目線の1シーン1ショットのカー・アクションってなかなか興奮させると思わせられたが、「タイラー・レイク」は、さらにその上を行く。 

 

実はこのショットはこれから始まるアクションの序章に過ぎないのであって、1シーン1ショットのアクションは、タイラーたちがクルマを降りて、これからが本番になる。この後は「リズム・セクション」から、今度は「アトミック・ブロンド (Atomic Blonde)」における、シャーリーズ・セロンの、一つのビルを舞台とした1シーン1ショット・アクションを彷彿とさせるアクションが展開する。このシークエンスが、クルマの中からずっと1ショットで撮られているのだ。これはすごい。 

 

話自体の展開の信憑性はというと、こんなの、本当にありかという、眉唾というか話をアクションに追従させた展開がままある。というかほとんどそうなのだが、このアクションが撮れたからいいじゃないかとでもいう宣言というか開き直りが聞こえてきそうで、実際、このアクションが見れたからいいかと、ここは素直に同意しておこう。 演出は俳優兼スタントマンのサム・ハーグレイヴで、実は彼は「アトミック・ブロンド」に出演しているのだった。道理で。











< previous                                      HOME

インド有数のドラッグ・カルテルのボス、オヴィの息子オヴィJr. (ルドラクシュ・ジャイスワル) が、敵対するギャングのボス、アシフによって誘拐され、ダッカに連行される。オーストラリア人傭兵のタイラー (クリス・ヘムズワース) が雇われるが、オヴィは配下のサジュ (ランディープ・フーダー) を差し向け、タイラーたちがオヴィJr.を保護したら彼を奪回して報酬を払わないつもりだった。待ち伏せに遭ったタイラーら一行はほぼ全滅、タイラーもオヴィを守りながら必至に反撃するが‥‥ 


___________________________________________________________

 
inserted by FC2 system