Elena
エレナの惑い (2021年3月)
近年、CGを多用する作品が苦手になってきて、特にマーヴェルやDCコミックスを筆頭とするスーパーヒーローものに食指が動かなくなってきた。パンデミックで家籠もりするようになって、その傾向がどんどん強くなってきたと思う。たぶん、こんな時期だからこそ私みたいに地に足をつけたリアルなものを指向する者と、あるいはSFやファンタジーのようなエンタテインメントの世界を求めたい者と、二分する気がする。
パンデミックになってから、基本的に家でストリーミング視聴するようになったため、過去の見逃した作品を探し出しても見るようになったのだが、その時、監督名で作品を探してて、何気にアスガー・ファルハディ、ダルデンヌ兄弟、アンドレイ・ズビャギンツェフ、クリスチャン・ムンジウ、是枝裕和、ミハエル・ハネケなんてググっていて、自分でも、ああ、オレの好みって今、こういうものなんだなあと自分自身で納得したりした。
ズビャギンツェフでは、見てない「裁かれるは善人のみ (Leviathan)」や「ヴェラの祈り (The Banishment)」にも興味はあったのだが、「エレナの惑い」にしたのは、先週見た、一人で生きる女性を描く「ノマドランド (Nomadland)」の影響もあるんじゃないかと思う。
愛情というよりも、かなり打算や現状の要求によって一緒にいる共に再婚の夫婦がいる。夫は金を持っているが、妻の方はそうでもなく、それなのに金を無心してくる前夫との間にできたできの悪い息子夫婦、それに輪をかけて行状のよくない孫息子がいる。しかし夫は妻の家族には無関心であり、自分の死後、彼らに金を残すつもりはないと妻に告げる。妻のとった行動は‥‥というもので、感触や展開としては、かなりいわゆる嫌ミスっぽい。それがズビャギンツェフが演出すると、嫌ミスというより重厚なドラマに見える。考えたら「ラブレス (Loveless)」もそういう話だった。
世の中には愛情よりも現実の要請によって一緒にいる夫婦というのは結構いると思うが、「エレナの惑い」におけるエレナとウラジミールもそうだ。あまりにも堂々とそうであるため、そうか、結婚というのは愛情ではなく、契約という意味も大きいのだなと、改めて気づかされる。というか、結婚、夫婦というものは基本的にそういうもので、一つの単位として家庭や子作りを円滑に行うために、人間が長い時間をかけて築き上げてきた制度、システムだ。まず安定した生活がないと、何も始まらない。
一方で血縁というのは、そういう金や現実より優先するものだったりする。エレナにとってはどんなにできが悪くとも、息子や孫は可愛くて仕方がない。ウラジミールだって、どんなに家に寄りつかなくとも、やはり娘カッチャが気になる。しかしエレナにとってカッチャは、ウラジミールの遺産を総取りされる目の上のたんこぶでしかなく、ウラジミールにとってエレナの子供たちは、穀潰しでしかない。
一方で「ラブレス」においては、別れる予定の夫婦において、息子はお荷物でしかない。父も母もどちらも子を引き取りたくなく、子供は絶望する。ここでは血縁はなんのよすがにもならない。結局、一つの家庭という単位の中で一緒に生活していても、愛情、打算、血縁等の何が優先するかは、その時の当事者しかわからない。ちょっと環境や事情が異なっていたら、違う行動をとる可能性は大きい。しかし「ラブレス」においては親は子供を見捨て、「エレナの惑い」においては親は子を優先する。考えたら「父、帰る (The Return)」も父と息子の話だった。「裁かれるは善人のみ」と「ヴェラの祈り」がどういう話なのか、そっちも気になる。
元看護師のエレナ (ナジェジダ・マルキナ) は、資産家のウラジミール (アンドレイ・スミルノフ) の後妻として暮らしていた。エレナにはできの悪い息子のセルゲイ、その嫁、孫のイゴールがいたが、セルゲイは定職に就いているわけではなく、イゴールも日がなTVゲームをしているか悪い仲間とつるむだけで、生活はエレナの稼ぎに頼っていた。ウラジミールには持病があり、ジムで心臓発作を起こしたのを契機に、遺言を認めようとする。ウラジミールはエレナの働かない息子たちに好意を持ってなく、彼らには金を残すつもりはないとエレナに告げる。ウラジミールにはあまり寄り付かない一人娘のカッチャ (エレナ・リャドワ) がおり、たまに会うと罵り合ってばかりとはいえ、そこは肉親、目に見えない愛情も確としてあり、ウラジミールは遺産をほぼ全部カッチャに残すつもりでいた。もし充分な遺産がもらえないと、自分の子供たちが生活に困窮することは明白なエレナは、ある決心をする‥‥
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