Dark Waters


ダーク・ウォーターズ  (2019年12月)

巷では「スキャンダル (Bombshell)」のニコール・キッドマン、シャーリーズ・セロン、マーゴット・ロビーの共演が話題なのだが、元FOXニューズの創設者ロジャー・エイルズの実際のセクハラ事件を元にしたこの話は、既に今夏、ショウタイムが「ザ・ラウデスト・ヴォイス (The Loudest Voice)」としてミニシリーズ化している。腹の出たデブデブの身体でエイルズに扮したのは、ラッセル・クロウだ。 

 

一方、「ラウデスト・ヴォイス」がエイルズに焦点を当てた、いわばエイルズが主人公であるのに対し、「スキャンダル」は、そのエイルズに苦汁を飲まされた女性ニューズ・パーソナリティの側の視点から描くドラマだ。中でもセロンが扮したメギン・ケリーは、FOXニューズ後、NBCに移籍して思い切り現場をかき乱してこちらも飛ぶ鳥跡を濁して去ったなど、この辺の経緯は、このサイトでも「メギン・ケリー・トゥデイ (Megyn Kelly Today)」等で何度か書いている。 

 

いずれにしても、この話を当時リアルタイムで追っていた身としては、今さら「ラウデスト・ヴォイス」も「スキャンダル」も、特に惹かれなかったというのが本当のところだ。クロウのいかにも腹黒そうな人物造形や、実物はまったく似てないくせに役の上では意外にケリーに似せていたセロンなど、見どころはなくもなさそうだったが、実際に当時、事件が立て続けに起こり、結局当事者のエイルズは自分で育て上げたFOXニューズから追放され、挙げ句自宅で転んで頭を打って頓死したという事件にリアルタイムに接していた時の臨場感というのは望むべくもなく、正直言ってそれらをまた追体験したいという気にはあまりならない。 

 

結局今回劇場まで足を運んで見たのは、同じ事実を基にしたドキュドラマでも、エイルズのセクハラ・スキャンダルではなく、かつてデュポンが起こした公害事件を再構成した、「ダーク・ウォーターズ」なのだった。 

 

今では各家庭に一個はほぼ確実にあるだろうと思えるテフロン加工のパンが、普及し始めたのはいつ頃だったか。その後そのテフロンが有害だと囁かれるようになり、製造工程で関係する化合物のPFOA/C8の発がん性が広く知られるようになったのは、2000年以降のことだ。「ダーク・ウォーターズ」は、その事実を明らかにしたシンシナティの弁護士を描くドキュドラマだ。 

 

主人公ロバート・ビロットに扮するのはマーク・ラファロで、今回の市井の正義派という印象から連想するのは、もちろん「アベンジャーズ (Avengers)」のハルクではなく、「スポットライト (Spotlight)」の新聞記者だ。今回は「スポットライト」にように周りに意志を同じくする同僚がいるわけではなく、一応ものわかりのいい上司 (ティム・ロビンス) と自分のキャリアを捨てて家を守る妻 (アン・ハサウェイ) がいることはいるが、ほぼ孤軍奮闘で巨悪に挑戦する。 

 

先々週、「ジョーカー (Joker)」でアーサーを追う冴えない刑事に扮していたビル・キャンプが、ここではさらに田舎者然とした酪農家の農夫に扮している。名バイ・プレイヤーとして色んな所で目にするキャンプだが、今回は本領発揮という感じで印象に残る。 

 

それにしても、ビロットのような人物がもし存在せず、デュポンがPFOAを垂れ流し続けていたらと考えると、ぞっとする。当時ですら既に病気になった者、気が狂った家畜は見過ごせないほどになっていた。あと数年告発が遅れていたら、影響は国家レヴェルに及んでいたに違いない。 

 

それなのに、そのデュポンの経営者は、利益を民間に還元する善意の人と見られている。実際、地元に寄付して落とす金は大きく、デュポンの恩恵なしに生活できる者は少ない。そのため、デュポンを告発しようとするビロットや農夫は、悪意の目にさらされる。デュポン側を代表するドネリーに扮するヴィクター・ガーバーが、また人のよさそうな人間に見える。 

 

実は今、家で使っているテフロン加工のフライパンのテフロンが剥げかけて、買い替え時を迎えている。そういや、これ買った時、確かPFOA (だったと思う) が入ってないとうたっていたのを覚えている。その時は実はPFOAが何かなんてよくわからず (実際今だってよくわかってないが)、身体によくなさそうな不純物が入ってないのか、そりゃいいくらいにしか思ってなかった。 

 

今フライパンを買い換えるとして、新しく買うものはたぶんまたテフロン加工になるだろう。しかし、なんか乗り気でなくなってきた。現在では技術も進歩しているだろうし、デュポンは現在のテフロンには、あったとしても計測不能な程度の超微量のPFOAしか含有しないと言っているようだが、一度嘘ついていた奴らの発言は、やはり鵜呑みにできない。 

 

実は我が家には安価で便利なテフロンのフライパン以外に、バーゲンで買ったとはいえ高級仕様の5層 (だったと思う) ステンレス製各種パンのセットがある。煮込み料理時とかには今でも活躍しているが、炒めもの、焼きものを作る時はどうしても焦げつきやすく鍋底に張りついて落としにくいので、テフロン製品を使う時が多い。しかし、今このタイミングで買い替え時が来たということは、もうテフロンは使うなという天のお告げかもしれない、さてどうしよう、しかしステンレス鍋って、いったん焦げつくとメンテが楽じゃないんだよな、と今でも迷いに迷っている。 

 











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1998年。シンシナティで企業専門弁護士として働くロバート・ビロット (マーク・ラファロ) は、昇進も決まって前途が開くのを感じていた。そこへビロットを名指しで面会を求めてきた者たちがいた。ウィルバー・テナント (ビル・キャンプ) はウエスト・ヴァージニアの酪農家で、飼っている牛がどんどん狂い始めており、近くのデュポンの工場と何らかの関係があるに違いないという。企業専門弁護士でむしろデュポン側に立つビロットだったが、祖母の伝手で来ていることもあって断れず、とにかく一度は現場に足を向ける。そこで実際に気が狂ったようになって死んでいく牛を見てビロットは驚愕する‥‥ 


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