Caprica  カプリカ

放送局:  SyFy

プレミア放送日: 1/22/2010 (Fri) 21:00-23:00

製作: ユニヴァーサル・ケーブル・プロダクションズ

製作総指揮: ロナルド・ムーア、デイヴィッド、エイック、ジェイン・エスペンソン、ケヴィン・マーフィ

監督: ジェフリー・ライナー

脚本: レミ・オーバコン、ロナルド・ムーア

撮影: ジョエル・ランソム

美術: リチャード・ハドリン

編集: ロン・ローセン

音楽: ベア・マクリーリー

出演: エリック・ストルツ (ダニエル・グレイストーン)、イーサイ・モラレス (ジョゼフ・アダマ)、ポーラ・マルコムソン (アマンダ・グレイストーン)、ポリー・ウォーカー (クラリス・ウィロウ)、アレッサンドラ・トレサニ (ゾーイ・グレイストーン)、マグダ・アパノウィッツ (レイシー・ランド)、サッシャ・ロイス (サム・アダマ)、ロジャー・クロス (トマス・ヴァージス)、シナ・ナジャフィ (ウィリアム・アダマ)


物語: 遠い星カプリカで天才科学者としてほとんど人間に比すロボットの開発をしていたダニエル・グレイストーンは、あとちょっとのところで研究に行き詰っていた。妻アマンダとの間にできた一人娘ゾーイを愛してはいたが、研究にかまけてその行状は不行き届きで、学校の仲間たちと共にアンダーグラウンドのヴァーチャル・リアリティの世界に入り浸っていることに気づいていなかった。ゾーイはこの世界に不満を持ち、仲間と一緒に家出を試みる。しかしその男友達はさらに急進的な考えを持つテロリストの一人であり、自爆テロの巻き添えを食ったゾーイは帰らぬ人となる。

そのテロの犠牲となった者たちの中に、ジョゼフ・アダマの妻と娘もいた。ダニエルはジョゼフに接近し、やり手の弁護士として知られるジョゼフが裏ではギャングと関係があることを知って話を持ちかける。ライヴァル企業の研究成果が手に入れば、それを用いて完全なサイボーグ、サイロンを完成させることができる。サイロンを完成させることができれば、いまだにヴァーチャル・リアリティの世界に存在するゾーイやジョゼフの娘のアヴァターに実体を与えて、この世に生き返らせることができるというのだ‥‥


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SF番組は、門外漢には少々とっつきにくい。というのも、だいたいにおいて話のそもそもの舞台設定を理解している必要があり、その上、大河ドラマのように悠久の時間が流れ、さらに宇宙SFだったりすると、それこそ話はまったく別次元の話になったりする。


これが映画だと、それでも話は2時間程度で終わるから、抜粋だけを楽しんだり、スペース・アクションにエキサイトしているだけでよかったりする。シリーズ化しているTVでは、こういう贅沢な見方はできない。それでも話が一話完結のシリーズならまだしも、最初から見ていないと何がなんだかわからないシリアル・ドラマだと、もうお手上げだ。


むろんそういうことは番組の作り手だってわかっているから、近年製作されるSFは、大きな軸となるテーマに沿って、一話ずつ話が完結するタイプが多い。その数少ない例外がABCの「ロスト (Lost)」と、その成功が大きく影響している「フラッシュフォワード (FlashForward)」の2本で、シリアル・ドラマははまるとでかい、当たると大きいことを実証して見せた。なんせ見続けないとてんで話が見えなくなって筋を追えなくなるから、一度見始めると全部見るしかない。


ほとんど毎回クリフハンガーで終わるというのは、面白いといえば面白いが、しかし、これ、いったいどうやって収束するのかという疑問を当然生む。結果、「ロスト」は最終回の日程を予め決め、それにしたがって話をまとめることになった。こういう番組の製作の仕方もある。まだヒット作とも失敗作とも言えない「フラッシュフォワード」の場合、今後どうなるかは微妙だ。


一方、これがケーブルとなると話はまた少々違ってくる。それがSF番組を専門としているSyFyとなるとなおさらだ。元々一話完結型のSF番組やTV映画を多数編成するSyFyの場合、そこにシリアル・タイプの番組が混じってもいっこうに困らない。というか、全部一話完結ものばかりだと飽きるので、逆にそこにシリアル・ドラマが必要になってくる。


そこで成功したのが、「バトルスター・ギャラクティカ (Battlestar Galactica)」だ。「ギャラクティカ」だって大きなテーマがあるとはいえ、「ロスト」ほど一つの流れを追うという感じではなかったが、それでもシリアル・ドラマであり、結果として、毎回見る非常に忠実な番組ファンを生んだ。番組がカルトとなった所以である。また、同様に「スターゲイト (Stargate)」シリーズもスピンオフがいくつも製作される人気シリーズとなったが、ひとまずここでは「ギャラクティカ」だ。


「ギャラクティカ」は2003年暮れに放送を開始した。その時はSyFyの前身であるSci-Fiが4時間のミニシリーズとして放送し、人気を博したことでシリーズ化され、昨冬最終回を迎えている。とはいってもそれが最初の「ギャラクティカ」ではなく、そもそもの番組の発祥は70年代、1979年に一度ABCが放送している。1シーズンしか続かず、特にヒットしたわけではないが、それでもこの時既にカルト的ファンがついた。


私はSci-Fi版の「ギャラクティカ」をほんの数回程度見たことがあるだけで、アンドロイドのサイロンと交戦状態になり、ほとんど全滅しかけた人類が宇宙船ギャラクティカ号に乗り組み、アダマ船長の元、果て知れない宇宙への旅に出るという導入部と、その後の何回かのエピソードを漠然と覚えているに過ぎない。登場人物では、アダマ船長を演じたエドワード・ジェイムズ・オルモス、女性戦闘機パイロット、スターバックを演じたケイティ・サッコフ、それにたぶん番組としては最大の意外なツイストに関係したブーマーを演じたグレイス・パーク辺りが印象に残っている。


「ギャラクティカ」はひとまず昨冬最終回を迎えた。ケーブル・チャンネルのSFというニッチなジャンルであり、誰でも知っているというほど高い人気を誇っていたわけではないが、「レイザー (Razor)」等の単発のスピンオフTV映画が製作されるくらいの人気はあった。少なくともSF好きなら全員知っていたし、「ギャラクティカ」の場合、わりと批評家評もよかった。印象としては、アメリカで放送している最も過小評価されている番組という感じだったから、その放送終了を惜しむ声も多かった。


そのスピンオフ「カプリカ」は、そういった過程で自然に生まれてきた番組という印象を受ける。長く続く番組というのはだいたいにおいてその途中で色々なアイディアが出て話が膨らんでくるものだが、とくに想像力を駆使しやすいSFにその傾向が強いことは言うまでもない。だからクラシックや人気の出たSFは、往々にしてスピンオフやリメイクが製作されている。


「カプリカ」は、「ギャラクティカ」のそもそもの話の発端に遡るという体裁になっている。要するに「スター・ウォーズ (Star Wars)」の第2部が、なぜ銀河戦争などというものが勃発したのかという発端を描いたのと同じ構造だ。「ギャラクティカ」の乗組員たちが、なぜ宇宙を航海しているのか、帰る星はないのか、サイロンとは何者かという問いに答えるのが、「カプリカ」だ。


話は「ギャラクティカ」の58年前、遠い星の美しい町カプリカに端を発する。天才科学者ダニエル・グレイストーンは、人工知能を持たせたアンドロイドの開発に携わっていたが、壁にぶち当たっていた。しかも娘ゾーイをテロで亡くすが、ゾーイこそテロの首謀者の一人である可能性があった。若い者たちの間ではまるで現実のようなアンダーグラウンドのヴァーチャル・リアリティが流行っていたが、ダニエルは、そこにゾーイが自分のアヴァターを置いていたことを知る。


一方、ジョゼフ・アダマもテロで妻と娘を亡くす。偶然ジョゼフの知己を得たダニエルは、ジョゼフが裏でギャング組織と関係のあることを知って、グレイストーン家のライヴァル企業から機密を盗み出して欲しいと依頼する。それによって研究を完成させることができたら、アンダーグラウンドの世界にいるゾーイのアヴァターだけでなく、ジョゼフの妻や娘のアヴァターにも生身の姿を与えることができるのだ。娘を忘れられないジョゼフは折れ、そしてダニエルの研究は完成する。まだ外見はロボットでしかないが、近い将来に人間そっくりのアンドロイドとして進化するだろうその成果は、サイロンと呼ばれた‥‥


正直に告白すると、私は当然この番組が宇宙を舞台にしたSFアクションだとばかり思っていた。しかし、もちろん設定はSFだとはいえ、「カプリカ」はかなり人間ドラマ、それも重厚なドラマとなっている。あるいは、死んだ娘を忘れることができない父親がヴァーチャルとはいえ娘をこの世に復活させるというプロットで思い出すのは、W. W. ジェイコブスのクラシック・ホラー「猿の手 (The Monkey’s Paw)」か。つまり番組は、この一人の父親の想いのツケを、その後の人類全員で支払うことになるSFホラーと言えないこともない。


「カプリカ」にホラー色を感じとってしまうのは、主人公の一人ダニエルを演じるのが、「ゴッド・アーミー (The Prophecy)」のエリック・ストルツだからということもある。最近公開された「リージョン(Legion)」から連想してストルツを思い出していたために、どうも話からハルマゲドンものっぽい匂いを嗅ぎとってしまう。一方のジョゼフを演じるイーサイ・モラレスは、地に足のついた役どころで、常に帽子を被り手袋をしている。一見「ゴッドファーザー (Godfather)」であり、実際、そういう雰囲気を狙っていると思う。


どうやら「カプリカ」は、サイロンがどのように進化し、そしてどのように人類と対立していったかを描く、SF、というよりはドラマ性に重点を置いた番組であるらしい。実際、宇宙SFである「ギャラクティカ」も、舞台が宇宙とはいえ、実はそういうドラマ性が評価されていた。「カプリカ」の場合は地に足がついている世界の話であるわけだが、そういう番組の骨格というか乗りは同じものであるようだ。シリアル・ドラマの「カプリカ」は、やはりカルトになるものと思われる。








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カプリカ   ★★1/2

 
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