Legion


レギオン (リージョン)  (2010年1月)

ボブ (デニス・クエイド) はかつて、なにかに憑かれたように導かれるままにどこぞと知れぬ郊外にダイナーを建て、今では成長した一人息子のジープ (ルーカス・ブラック)、妊娠中のウエイトレス、チャーリー (エイドリアン・パリッキ)、コックのパーシー (チャールズ・S・ダットン) らと共にダイナーを経営していた。ある日、近くで車が故障して身動きのとれなくなったハワード (ジョン・テニー)、サンドラ (ケイト・ウォルシュ)、オードリー (ウィラ・ホランド) のアンダーソン家がダイナーで時間を潰している時、素性の知れない男カイル (タイリース・ギブソン) が現れる。そこへ現れた老婆は、サンドラに毒づき、さらにはハワードの頚動脈を噛み切ると、天井に這い昇る。なんとか老婆を撃ち殺したはいいものの、外部に連絡をとろうとすると電話が死んでおり、TVも機能しない。いったい世の中では何が起こっているのか、そしてそこに現れた謎の男マイケル (ポール・ベタニー) はいったい何者なのか‥‥


___________________________________________________________


どうやら人類が滅亡、もしくはそれに近い危機に瀕するのは、もはや避けられない事態らしい。少なくともハリウッドの認識ではそうなっている。最近のSFものは、だいたいそういう事態を描くものばかりだ。先週見た「ザ・ウォーカー (The Book of Eli)」もそうだったし、「リージョン」もそうだ。


これでヴィゴ・モーテンセンとシャーリーズ・セロン主演で公開中の「ザ・ロード (The Road)」を見れば、新春の人類滅亡ハルマゲドン3部作を制覇したことになり、そのことに乗り気でもいるんだが、いかんせん「ロード」は、主人公二人の知名度にもかかわらずこの3作の中で最も暗い、というかインディ色濃厚で、うちの近所の劇場まで来ない。マンハッタンまで「ロード」を見に行くのも、いかにも内容に相応しい気もしないではないが、だったら、映画のモーテンセン同様歩いて見に行くのが正解かという気もする。いずれにしても、ここはひとまず「リージョン」だ。


この映画、わりと早くから予告編は何度も見ており、老婆がゴキブリよろしく四つん這いになって壁を這い上がって天井に張りつくというシーンが、非常に印象的だった。誰だって思わずぎょっとすると思う。しかし、あまりにも意外で視覚的効果が抜群なために、これ、ギャグなのという反応があったのも確かだ。「フォーガットン (The Forgotten)」でも登場人物が空に飛ばされるというシーンで、あまりにも意外なことが突発してしまったがために、笑うしかないという反応が劇場内を支配してしまったということがあったが、あれに近い。


うちの女房の反応がまさしくそれで、どうやらこれはサム・レイミの「スペル (Drag Me to Hell)」のようなものだと思い込んでいたらしい。実はほとんど正統? のSFホラーなんだが。いずれにしても女房は興味ないというので、ではと私だけで劇場に足を運ぶ。


冒頭、郊外でほとんど将来のないダイナーを経営しているボブの店に、上述のようにヘンなババアが現れ、ボブやその場にいた客たちを恐怖に陥れた挙げ句、射殺される。しかも外界と連絡はとれず、ババアに噛まれたハワードを遠くの病院に車で連れていこうとしたパーシーたちも、途中で虫の大群に遭遇して帰還を余儀なくされる。外の世界と連絡をとろうとするも、電話もTVも役に立たない。いったい世の中では何が起こっているのか。


そこへやってきたのがマイケルで、外の世界の状況を聞こうとするボブたちに、もう外の世界はないという。彼は実は天使マイケル=ミハエルで、人間を滅ぼそうとする天使ゲイブリエル=ガブリエルと袂を分かち、人間を救うためにやってきた堕天使だった。彼の最後の希望は、チャーリーのお腹の中にいる子が無事生まれてくるかにかかっていた。マイケルと人間対ゲイブリエルたちの壮絶な戦いが始まる‥‥


人類滅亡をテーマにする場合、基本的に「ザ・ウォーカー」や「2012」のように、それを実際に絵にして提出するハリウッド的なスペクタクルか、あるいはM. ナイト・シャマランが「サインズ (Signs)」でやってみせたように、一つの家庭だけというような限られた世界だけを描きながら、あとは見る者の想像力に訴えかけることで世界滅亡をわからせるという、二通りの描き方がある。前者だといかにもハリウッド的なSF、後者ならホラーのテイストが強くなる。


「リージョン」の場合、「サインズ」に近く、話は冒頭と終わりを除いてほぼ荒野の中の一軒のダイナーの周辺のみで展開する。後半はわりと人海戦術で多くの人間 (もどき) が登場するが、いずれにしても既に滅亡したはずの外の世界は描かれない。そういう想像に訴えかける描き方、一方で上述のババア、そしてアゴが伸びるアイスクリーム屋という、これまた視覚的に印象が強烈なキャラクター等により、「リージョン」はSFというよりはホラー色が強い。


また、ババア、その他の人間もどきは、ダイナーに閉じこもった者たちを襲おうとするのだが、彼らはどちらかというとゾンビだ。どうやらこのハルマゲドンは、天使が人間を諦めて、人間を滅ぼすために仕組んだことらしいのだが、その手段は人間をゾンビ化して、たぶん共食いさせることで滅亡させようとしているようだ。


天使ともあろうものが、なんてせこいやり方で人間を滅亡させようとするんだとつい思ってしまう。せめて地震台風津波大波異常気象で聖書的な壊滅的打撃を起こしてくれれば、いかにも悲劇的スペクタクルという感じがして人類も終わりかと諦めもつくような’気もするのに、天使が画策したのが基本的に共食いか。あんたらはそれを黙って上から見ているだけなのか。


また、チャーリーが身ごもっている子が人類が生き残る唯一の希望であるらしいのだが、なんでもいいからその理由も欲しかったと思う。これが「ターミネーター (Terminator)」なら、生まれた子が天使ならぬスカイネットの天敵になるのを避けるために、時間を遡ってもスカイネットはその子を抹殺しようとする。とすればここではその子は成長して文字通り天敵となってしまうのか。なぜ? どのように? 神は人類を生み出すことは簡単にできても、滅ぼすことには手を焼いてしまうのか。しかも大天使ゲイブリエルは、人類側に寝返ったマイケルと最後には肉弾戦となる。天使が殴り合いをして血を流すのだ。天使にも赤い血が流れていたのか。


なんて疑問点が見ている途中に後から後から出てきて不思議に思ってしまうところが、「リージョン」の欠点と言える。面白くないわけじゃないのだが、見ている時に不思議さに気づかないほど熱中させてくれるわけではない。理屈じゃないんだという理屈が聞こえてきそうだが、理屈を求めてしまうへ理屈屋もいるということだ。


マイケルに扮するのがポール・ベタニーで、まるで「ダ・ヴィンチ・コード (The Da Vinci Code)」そっくりそのままの被虐的人物造型。冒頭の天使の羽根をむしりとる後ろ姿が、「ダ・ヴィンチ・コード」で自分に鞭打っていた後ろ姿とダブる。この人って、こういう印象を与えやすいんだな。ゲイブリエルに扮するケヴィン・デュランは「3時10分、決断のとき (3:10 to Yuma)」を見た時に、デイヴ・マシュウズが西部劇に出てるのかと思ったが、何度見てもやっぱりマシュウズを思い出す。天使がギター抱えて歌い出しそうな気がしてしまう。


その他、ボブに扮するデニス・クエイド、ジープに扮するルーカス・ブラック、チャーリーに扮するエイドリアン・パリッキ、パーシーのチャールズ・S・ダットン、カイルのタイリース・ギブソンなど、キャスティング自体はなかなかいい。ブラックとギブソンなんて、共演しているわけではないが、ブラックが「ワイルド・スピードX3: Tokyo Drift (The Fast and The Furious)」、ギブソンが「ワイルド・スピードX2 (2 Fast 2 Furious)」と、二人とも「ワイルド・スピード (Fast and Furious)」シリーズで共に主演しているという共通項がある。それなのに特にブラックなんて、ハワード (ジョン・テニー) の壊れたBMWが修理できなくて困っているのだ。お前はいったいトーキョーで車を乗り回して何を勉強してきたんだ。


ケイト・ウォルシュのサンドラは、カメオ的出演という印象強し。本人も意識的にオーヴァーアクション気味の演技を楽しんでいるようだ。あんたも「グレイズ・アナトミー (Grey’s Anatomy)」や「プライベート・プラクティス (Private Practice)」であれだけ人の身体切り刻んでいるくせに、少しくらいの血を見たくらいでぎゃーぎゃーわめくんじゃない! 演出はヴィジュアル・エフェクツ出身のスコット・スチュワート。


天使の抗争という部分だけをとれば、「リージョン」を見てクリストファー・ウォーケンとエリック・シュトルツが主演した「ゴッド・アーミー (The Prophecy)」を思い出す者も多いと思われる。もしかしたら天使同士が争う作品は他にもあるのかもしれないが、「リージョン」が「ゴッド・アーミー」にかなり影響された、というか、これからアイディアを得たのは間違いなさそうな気がする。








< previous                                      HOME

 
inserted by FC2 system