アメリカTV界の今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。




  1. 1.  ブレット・カヴァナー最高裁判事承認指名公聴会中継 

 

近年、事実は小説より奇なり、あるいは現実が虚構を凌駕するという例をここまではっきりと示した事件はなかった。最高裁判事という、ある意味大統領とは異なった意味でアメリカの最高権力者の地位に就くかどうかという者が、実はレイピスト、犯罪者かもしれないという事実は、視聴者の、アメリカ国民の興味を痛く刺激した。中継されたのは平日日中、それも何日も何時間もぶっ続けという公聴会の生中継に、全アメリカ国民が釘付けになった。 

 

結局、共和党の後押しを受け、カヴァナーは最高裁判事の一人として任命された。仮りにも最高裁判事に就任するかもしれない者が、TV生中継中に、オレはビールが好きだと叫んで、それが何か問題があるかとばかりに開き直って失笑を買い、それでも最高裁判事に任命された。 

 

私のアメリカ人の従兄弟は共和党支持なのだが、カヴァナーが高校生の時、私をレイプしようとしたと証言したクリスティン・フォードに対し、カヴァナーは覚えていないと言っているじゃないか、それなのにしつこ過ぎるあの女は気違いじゃないのかと、本気で言っていた。 

 

私に言わせてもらうと、カヴァナーは酔っていたと自ら認めているじゃないか、覚えてなくて当たり前だ、むしろフォードの証言の方に信憑性がある。しかし、結局、人は自分が信じたいものしか信じない、見たいものしか見ないのだった。それにしても最高裁判事承認指名公聴会中継が、今年最大の見世物か。 

 


 

  1. 2.  「ロザンヌ (Roseanne)」の明と暗  

 

アメリカを代表するブルー・カラー・シットコムの20年ぶりの復活と成功、そして崩壊は、番組そのものよりも見ものだったと言える。アメリカ中西部の、最もアメリカアメリカした労働階級に強くアピールした「ロザンヌ」は、近年、シットコムとして常に視聴率トップの座にいたCBSの「ザ・ビッグ・バン・セオリー (The Big Bang Theory)」に次ぐ、いや、それをも凌ぐ成功を収めた。近年流行りの、しかしほとんど成功例のなかった過去の人気番組のリメイクで、最も成功した番組となった。 

 

それが、その成功の立役者である、番組クリエイターであり主人公でもあるロザンヌ・バーのたった数回の人種差別ツイートによって、敢えなく瓦解する。今、アメリカはトランプ政権下でかつてないほど人種問題が表面化しており、そこにわざわざ首を突っ込んで墓穴を掘ったロザンヌの浅慮は、やはり批難されて然るべきだろう。 




  1. 3.  スーパーヒーロー? いや、マーヴェル・ヒーロー  

 

さすがに近年のスーパーヒーローの乱れ撃ちには正直言って飽きが来始め、ついに私は「アベンジャーズ (Avengers)」を見るのを諦めたのだが、TVでも現在、スーパーヒーローが大量に生産消費されている。特にマーヴェル・コミックス由来のスーパーヒーローは、枚挙に暇がない。下に挙げた番組以外にも、ここ数年で「インヒューマンズ (Inhumans)」(ABC) や「エージェント・カーター (Agent Carter)」(ABC) がキャンセルされてたりする。 

 

「ジェシカ・ジョーンズ (Jessica Jones)」 Netflix 

「ルーク・ケイジ (Luke Cage)」 Netflix 

「クローク・アンド・ダガー (Cloak and Dagger)」 フリーフォーム 

「ランナウェイズ (Runaways)」hulu 

「デアデビル (Daredevil)」 Netflix 

「ザ・ディフェンダーズ (The Defenders)」 Netflix 

「エージェンツ・オブ・SHIELD (Agents of S.H.I.E.L.D.)」 ABC 

「ザ・パニッシャー (The Punisher)」 Netflix 

「アイアン・フィスト (Iron Fist)」 Netflix 

 

ただし来年事態が大きく変わりそうなのは、現在、スーパーヒーローの総本山マーヴェルと契約しているディズニーが、自社ブランドのストリーミング・サーヴィス、ディズニー+ にマーヴェル作品を集中させようとしているからだ。 

 

そのため、現在多くマーヴェル作品を提供しているNetflixにおいて、次々とマーヴェル作品がキャンセルされている。既にスーパーヒーローものは供給過剰と思っている私にとっては特に痛くも痒くもない話だが、マーヴェル・ファンにとっては贔屓のスーパーヒーローの存続に関わる大問題だ。まさかスーパーヒーローの最大の危機はストリーミング・サーヴィスの台頭にあったとは。 




  1. 4.  「メギン・ケリー・トゥデイ (Megyn Kelly Today)」キャンセルとジュリー・チェンの降板  

 

NBCで鳴り物入りで始まった「メギン・ケリー・トゥデイ」については私も何度も書いているが、最初から特に感心はしなかった。たぶん長くは続かないだろうなと思ってはいたが、予想以上に早く、番組キャンセルが発表になった。 

 

芳しくない発言で色々と何、この女と思われていたケリーだが、番組キャンセルの直接のきっかけは、やはり人種問題発言だった。現在、人種問題がアメリカで最もセンシティヴな問題であるのは誰もが知っている事実で、白人政治家が過去に顔に靴墨塗って黒人の真似をするブラックフェイスをやったことが明るみに出て、スキャンダルになったりする。 

 

にもかかわらず、ケリーは、ブラックフェイスの何が悪いの、昔は誰でもやっていた、と発言して人々を鼻白ませた。むろん昔はギャグで誰でもやっていただろう、しかし、今それをやったり、そのことを正当化するのはまた話が別だ。そういう人々のメンタリティに気配りできない女が、なんで天下のネットワークでトーク・ショウのホストなんかやっているのか。さすがにNBCはもうこれ以上この女の肩を持つ訳にはいかないと判断、番組はキャンセルされた。 

 

一方、CBSの日中トーク「ザ・トーク (The Talk)」ホストのジュリー・チェンは、こちらは自身の舌禍問題などではなく、夫のスキャンダルのとばっちりを食った。チェンの夫のレスリー・ムーンヴェスはCBSのCEOであり、つまりムーンヴェスは職場ではチェンのボスになる。そのムーンヴェスも、近年のMeeTooムーヴメントによって蜂起した女性たちの断罪を受け、職場を追われる羽目になった。夫のいなくなった職場でそのまま働き続けることを潔しとしなかったチェンは自らの意志で番組を去り、代わってABCの「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ (Dancing with the Stars)」ジャッジで知られている、キャリー・アン・イナバがホストに就いた。 

 

イナバは名を聞いてわかるように日系で、ハワイでのタレント・コンペティションで勝って、実は日本でアイドルとして売り出したことがある。ただしイナバのデビューした1980年代後半は、私は日本にはいたが既にアイドルには興味をなくしており、まったく知らなかった。春高バレーのテーマ・ソングも歌っているそうだ。 




  1. 5.  アンソニー・ボーデイン死去 

 

人はいつか必ず死ぬが、それが自殺だったりすると、周りへの影響は大きい。特に人を笑わせることを生業とするコメディアンが自殺したりすると、こちらも衝撃を受ける。ボーデインの場合はシェフであり、要するに人間の生と直結する食を職業としている。いつも何食べようかと考えている人間と自殺とは、到底結びつかない。実際、これまでシェフが自殺したという話はほとんど聞いたことがない。 

 

ボーデインは、その他のTVシェフと一線を画した、徒党を組まずあまり身だしなみに気を使わない武闘派シェフというイメージがあり、そのこともまた自殺と結びつきにくかった理由の一つだ。いつも白い髪がぼさぼさで、私は勝手に、同様にいつも白い髪がぼさぼさの映画監督のジム・ジャームッシュに因んで、TVシェフ界のジャームッシュと心の中で呼んでいた。 

 

ボーデインは、世界中を旅しながらおいしいものを紹介する、トラヴェル・チャンネルの「ノー・リザヴェイションズ (No Reservations)」と、CNNの「パーツ・アンノウン (Parts Unknown)」で知られている。共に飾らない人柄がよくわかる番組だ。いつぞや、カリフォルニア産のウニを使った軍艦巻きのようなものを、おお、脂の乗ったウニ、と言いながらめちゃめちゃおいしそうに頬張っているのを見たことがある。シー・アーチンではなく、ウニと言っていた。あんなに幸せそうな顔で食っていたのに。 


 










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2018年アメリカTV界10大ニュース。その1

 
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