ア・リトル・レイト・ウィズ・リリィ・シン (A Little Late with Lilly Singh) 

放送局: NBC 

プレミア放送日: 9/17/2019 (Tue) 1:30-2:00 

製作: ユニコーン・アイランド・プロダクションズ 

製作総指揮: リリィ・シン、ジョン・アーウィン 

ホスト: リリィ・シン 

 

内容: 新深々夜トーク・ショウ。 


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A Little Late with Lilly Singh


ア・リトル・レイト・ウィズ・リリィ・シン  ★★1/2

ネットワークで毎夜放送される深夜トーク・ショウは、私を含め、多くの視聴者にとって毎日の締めの番組だ。数多あるそれらの番組から贔屓の番組を見てベッドに入る、あるいは私のように、番組を見ながらいつの間にかカウチの上で寝入ってしまうというのを毎日のルーティンとしている者は、結構多いはずだ。 

 

とはいえ、それらの番組の深々夜帯にまで付き合うという視聴者は、それほど多くはないだろう。ネットワークでは夜11時半から始まるこれらの深夜トークは、CBSの「ザ・レイト・ショウ (The Late Show)」、NBCの「ザ・トゥナイト・ショウ (The Tonight Show)」、ABCの「ジミー・キメル・ライヴ (Jimmy Kimmel Live)」の、主軸の3番組が編成された後、零時半からCBSは「ザ・レイト・レイト・ショウ (The Late Late Show)」、NBCでは「ザ・レイト・ナイト (The Late Night)」が編成される。 

 

だいたい、普通に宮仕えをしている者が見ている番組は、宵っ張りでもここまでだろう。既に時刻は1時半であり、これ以上夜中にTVを見ていたら、翌日に差し障りが出る。 

 

一方、これらの番組のさらに後に編成されている深々夜トーク・ショウが、実はもう一本だけある。いや、あった。NBCが1時半から2時までの30分番組として編成していた、「ラスト・コール・ウィズ・カーソン・デイリー {Last Call with Carson Daly)」だ。 

 

この番組、2002年から始まっている、実はわりと長寿の深夜トークだ。元MTVのVJ出身のデイリーが、ほとんど趣味というか個人的なネットワークを使って呼んだとしか思えない、初耳のミュージシャンが多くゲストとして呼ばれたことが特徴だ。当時アメリカではまったく無名だったエド・シーランをアメリカに紹介したのもデイリーで、愛用のちっちゃなぼろぼろのギター一本で歌っているのを見て、こいつ、面白いと思ったのを思い出す。シーランが大ブレイクするのはそれから間もなくのことだ。 

 

要するに「ラスト・コール」は音楽に特に肩入れした癖のある深夜トークで、だからこそカルト的な人気があるが、大きくブレイクすることもなかった。デイリーは終始、人が寝ている1時半からの時間帯ではなく、直前の零時半に自分の番組を持ちたいことを明らかにしていた。しかし2度あったそのチャンスも、最初はジミー・ファロンに、2度目はセス・マイヤーズにその職を奪われ、叶うことはなかった。結局それで20年近くやってきた。 

 

しかしその「ラスト・コール」もついに最終回を迎えた。ただしこれはさすがに番組の人気が落ちたからというよりも、現在NBCの朝の人気トーク「トゥデイ (Today)」に出たり、同様に人気のある勝ち抜きシンギング・リアリティの「ザ・ヴォイス (The Voice)」のホストを担当しているデイリーの、忙しさに原因があるようだ。いずれにしても「ラスト・コール」は今年5月25日に最終回を迎え、長かった歴史に幕を閉じた。その後同枠は「ラスト・コール」の再放送を秋まで続け、そして始まったのが、「ア・リトル・レイト・ウィズ・リリィ・シン」だ。 

 

「ラスト・コール」の時は、元々MTVのVJだったデイリーの顔くらいは知っていたが、しかし、今回のリリィ・シンという名は、まったく初耳だった。聞けばカナダ出身のコメディアンで人気ユーチューバーだそうだが、私は見たことも聞いたこともなかった。シンという名字からして、インド系のコメディアンかなんかかと思っていた。ここんとこアメリカでは、ミンディ・ケイリン、アジス・アンサリ、クメイル・ナンジアニら、インド・アジア系のコメディアンが大躍進している。コメディ・セントラルの深夜トーク「デイリー・ショウ (Daily Show)」で、黒人受けする差別ギャグをかませる南アフリカ出身の黒人トレヴァー・ノアをホストに抜擢したように、近年アメリカで人口増加が著しいインド系にアピールするための起用かと思ったのだ。 

 

実際シンはインド系で、両親共にインド人だが、シン自身は生まれも育ちもカナダのオンタリオだ。若い頃からユーチューバーとして多大な成功を収め、2017年にはユーチューバーとして10億円を稼いで世界第10位に着けている。大金持ちなのだ。それにしても若い世代だと知らぬ者はないだろうと思えるシンの名を、私はまったく知らなかった。時代に取り残されるオジン化が加速しているようで、ちょっとびびったりもする。 

 

さて、「リトル・レイト」プレミア・エピソードは、シンはまず直前に編成されているセス・マイヤーズがホストの「レイト・ナイト」にゲストとして顔を出し、そのまま「リトル・レイト」になだれ込む。そのオープニングは、新しく始まる番組をどう構成しようかとプロデューサーや脚本家と思しき面々が無難な案を出して会議しているところ、業を煮やしたシンがラップに乗って自分は自分のしたいようにやると歌って踊るシークエンスで幕を開ける。 

 

第1回のゲストはレイン・ウィルソンとミンディ・ケイリンで、インド系コメディアンに道を開いたケイリンをシンがリスペクトしているのは妥当と言える。ウィルソンはそのケイリンと共演していたNBCの「ジ・オフィス (The Office)」繋がりか。ウィルソンはギフトとしてホワイト・ノイズ・マシーンをシンに進呈する。 

 

いわゆる快眠グッズとして知られるホワイト・ノイズ・マシーンは、人はあまり静かすぎると逆に眠れなくなったりするため、波の音や雨、せせらぎ等のバック・グラウンド・ノイズを提供するものだ。私も昔、夏休みに田舎に帰郷した時、たまたま普通なら聞こえる虫がまったく鳴かない超無音の夜に、静か過ぎて眠れなくなったことがある。あまりにも静かなので今度は自分の心臓がとっくんとっくん打つ音が身体の中から聞こえてうるさくて眠れず、心臓止まれーっと思いながら輾転反側していた。 

 

ウィルソンが持ってきたマシーンはしかし、もちろん事情が異なり、ブルックリンのレストランのざわめき音だとか、いかにもスノッビーな白人が好む雑音が収められているというのがポイントの人種ギャグだ。要するにホワイト・ノイズだ。その中では、歯医者の電動ドリルのような音が、なにこれと思うと、タトゥー・ショップで、日本語で「平和」と刺青を彫っていると思っているが、実は「壊れた食洗機」と彫っている音、というのが、最もにやりとさせられた。 

 

これはもちろん、今年、新曲「セヴン・リングス (7 Rings)」をリリースしたアリアナ・グランデが、曲に因んで日本語で刺青を入れようとして、腕に「七輪」と彫ってネットが炎上してしまったことを下敷きとしているギャグだ。「7 Rings」は確かに日本語にすると「七輪」ともなるかもしれないが、ただし日本語で「七輪」と書いた場合、無文脈では意味するものがまったく異なる。単に七輪と言われた場合、日本人が想像するのは、中に炭を入れて暖房代わりにしながら魚を焼く七輪だろう。ウィルソンのギャグはこの例を下敷きにしている。 

 

番組第2回のゲストは、キーナン・トンプソン。第3回ミロ・ヴェンティミリア、マンディ・ムーア、クリスティーナ・アギレラ、第4回トレイシー・エリス・ロス、第5回チェルシー・ハンドラーというのが、最初の週のゲスト。NBCは番組プレミアの翌日にはプライムタイムに1時間の特番を組むなど、「リトル・レイト」は結構推されているという感触を受ける。 

 

シンはインド系のマイノリティであるだけでなく、ゲイ/バイであることも公言している。マイノリティの中のマイノリティであるわけで、それが深々夜とはいえ天下のネットワークで自分の番組を持つ。かつて我がピンク・レディがNBCで「ピンク・レディ (Pink Lady)」という色モノ・ヴァラティを持っていたことがあったが、当然のごとく数話でキャンセルされた。それを考えると、マイノリティということが別にメリットにもデメリットにもならない当たり前の時代が来つつあるんだなと思う。 

 


 









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