放送局: トリオ

プレミア放送日: 3/1/1980 (NBC)

再放送日: 7/21/2003 (Mon)-7/25 (Fri) 22:00-23:00

製作: クロフト・エンタテインメント

製作総指揮: アルバート・テンザー

製作: シド・クロフト、マーティ・クロフト

共同製作: ボニー・ドア

監督: アート・フィッシャー

出演: ピンク・レディ (ミー&ケイ)、ジェフ・オルトマン


内容: 1980年に放送され、史上最悪のTV番組として酷評された、全盛期のピンク・レディがアメリカに乗り込んで製作したヴァラエティ番組の再放送。


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昔々私がまだ10代の頃、ピンク・レディを上回る人気歌手は存在しなかった。当時、久米宏と黒柳徹子が司会していたTBSの人気番組「ザ・ベストテン」で、ピンク・レディがランク・インしていなかったことはなかったというくらい、圧倒的な人気を博していた。とにかく、70年代後半の日本の歌謡界は、ピンク・レディを中心に動いていたと言っても過言でないくらいの人気者だったのだ。


立て続けにNo.1ヒットを飛ばし、もう日本は制覇したと考えたピンク・レディ (というか所属事務所) は、今度は矛先をアメリカに向けた。アメリカで成功することができれば、世界を制覇したにも等しい。まず、アメリカでシングルを発売、マイナー・ヒットとなって、少しはアメリカでも知られるようなったかなと思われる頃、NBCで放送が始まったのが、この「ピンク・レイディ」(と、もちろん共同ホストのジェフ・オルトマンは発音している) だ。


と、言うのは簡単だが、しかし、1980年に、いくら日本では人気絶頂のデュオとはいえ、世界のポップ・シーンでははっきり言って無名アイドルでしかないピンク・レディが、アメリカでいきなり自分たちが主演のTV番組を持てたということが、俄かには信じられない。80年といえば、現在人気のあるケーブル・チャンネルのほとんどはまだ放送を始めてなく、ネットワークのFOXですらまだ存在しなかった。ペイTVのHBOはまだ一般的なチャンネルとは言えず、人々がTVを見るのに金を出すことにまだ違和感を持っていた時代、つまり、TVといえばABC、CBS、NBCの3大ネットワークがほとんどすべてであった時代に、わがピンク・レディがそのうちの一つ、NBCで自分たちのTV番組を持つという事の重大さを、その時のピンク・レディ自身ですらわかっていたかは、はなはだ疑問である。


当時NBCの親会社は、音楽レーベルとして著名なRCA (現在は電機大手のGEがNBCを所有している) で、ピンク・レディのアメリカでの活動は、RCAが管理していた。日本で何百万枚もレコードを売り上げたタレントを使ってアメリカでTV番組を製作すれば、レコードも売れ、相乗効果でTV番組もヒットすると考えた人間がいても不思議はない。しかし、考えるのは自由だが、それが本当に実現する可能性というのは、ほとんどなさそうに見える。それなのにそれを実現させてしまったのが、その時のピンク・レディの勢いというものだったのだろうと思う。


結局「ピンク・レイディ」は、ありとあらゆるところから酷評され、5回放送されただけでキャンセルされた。それを、この種の埋もれた番組の発掘で名高いトリオが連夜再放送してくれるのだ。これは見ないでいられるか。実は、トリオのこの発表があるまで、私はピンク・レディがアメリカでTV番組に主演したことがあるということなど、まったく知らなかった。10代の頃は曲は嫌でも耳に入ってくるのでよく聞いたが、別に昔からアイドルとかには興味がないタイプだったので、歌を歌ってないピンク・レディがどこで何をしているかなんて、まったく知らなかったのだ。


だから最初、番組再放送の発表を見た時は、それこそ驚天動地だったと言っていい。ピンク・レディが生き馬の目を射抜く世界と言われるアメリカのTV界、それもネットワークで、自分たちの主演番組を持っていただなんて。青天の霹靂とはこのことである。私はアメリカに来て以来メディア関係の仕事に就いているので、90年代以降のTV状況には詳しいが、それ以前だと、伝聞と、どこかで読んだことがあるというような二次情報でしか知らなかったりする。しかも当然のことながら、その中にたった5回放送されただけでキャンセルされた「ピンク・レイディ」の話は含まれていなかった。世の中には知らない話というのはいっぱいある。


しかしこの「ピンク・レイディ」、関係記事を読んでいると、どうも評判がよくない。というか、積極的に貶されている。「TVガイド」誌選定の「史上最低のTV番組50本」の中にも選ばれていたし、IMDBで調べてみたところ、ほとんどの者が、「番組を見るのは時間のムダ」、「偶然でもこの番組を見てはいけない」、「神経に達した虫歯よりも痛い」などとコメントを寄せている。あまりにも最低なので逆に面白いというような意見もあったが、いずれにしても、かなりの番組であることは間違いなさそうだ。これは期待してしまう。


で、実際に番組を見てみると、いくら英語の猛特訓を積んだであろうとはいえ、ミーとケイがアドリブで英語のセリフを言えるはずなどないから、共同ホストという体裁で、ジェフ・オルトマンというコメディアンが二人をサポートしている。番組タイトルが第2回からは、「ピンク・レイディ」から「ピンク・レイディ・アンド・ジェフ (Pink Lady and Jeff)」と変えられたのは、要するに、結局ピンク・レディの名前だけでは視聴者を獲得することができず、番組自体がなんとかジェフのお喋りで持っているものを、なんで「ピンク・レイディ」なのか、不思議に思った者が多かったからに違いない。


とはいえオルトマンという名前も聞いたことはなく、要するに、やはり番組はそれほど推されていたわけではなかったようだ。それなのにプレミアの音楽ゲストは、ブロンディという当時世界的に大人気だったグループを持ってきている。ただし、この時のブロンディは、名前だけで客を呼べるので、ヴィデオでどんな番組にも出演していたそうだ。当然、「ピンク・レイディ」のステージに出張ってきて生で歌っているわけではなく、金を積んでくれたら、どんな番組でもヴィデオ出演はOKしていたんだろう。


番組自体は、基本的に、そのオルトマンと、ピンク・レディを交えたスケッチ・コントが主だ。冒頭、ジェフに紹介されたピンク・レディが、着物姿で登場 (これまた振り袖でもなく、中途半端な袖のついたけったいな衣装だが)、しかし、曲が始まって歌い出すと、ばさりと脱ぎ捨てた着物の下から、股の上の方までスリットの入った赤いドレスを着た二人が現れるという寸法。しかし、ここで当然日本人の私としては、彼女らのヒット曲を歌うもんだとばかり思っていたら、アメリカの他人のヒット曲を英語で歌うだけで、なんか拍子抜け。しかも歌い終わった後にお辞儀なんかするな。ジェフだって対応に困るじゃないか。


その後番組は、舞台上でのジェフとピンク・レディとのかけ合いに、コントとピンク・レディの歌が交互に挟まるという趣向。スケッチ・コントのいくつかでは、まだ英語がうまく喋れるわけではないピンク・レディを完全に除外したコントがいくつかあり、どちらかと言うとそちらの方がまだ練れているというのは、ま、しょうがない。それよりも、そのステージ上でのジェフとピンク・レディのかけ合いが、いかにもリハーサル通りという感じで、ほとんど妙味がない。


英語はかなり練習したと見えて、思ったよりはうまく喋っていたりするのだが、最初、慣れるまでミーが何言ってるかさっぱりわからなかった。要するに細かいイントネーションが違うからなのだが、理解して喋っているというよりも、練習したことを間違えないよう繰り返しているという感じがありありとする。笑い、特にこういうステージの笑いというのは、客との呼吸をはかりながら緩急を変えて行くのがうまいコメディアンのはずで、その点ではジェフは及第と言ってもいいと思うが、やはりミーとケイは、練習したことを間違いなくやることのみに意識が集中しているようで、余裕がない。ミーの笑顔って、こんなに仮面が張り付いたような顔だったっけ? しかもかなりの過剰演技で、見ててかなり恥ずかしいぞ。


ピンク・レディが英語で歌う歌も、なんで日本でヒットした自分の持ち歌を歌うのではなく、他人のヒット曲を歌わせるのか疑問だ。「UFO」とか「カルメン」とか、ピンク・レディがしか歌えない自分たちの歌を英語で歌わせればいいのに。少なくともあの振り付けは、アメリカでも逆受けする可能性があったかもしれない‥‥ような気もする。いずれにしても、自分たちの曲を歌わせないんじゃ、アメリカまでわざわざ出向いて、慣れない外国語まで喋らせて自分たちの番組を持たせる意味などまったくない。


アメリカの視聴者も、なぜこの人たちが、それほどうまいわけでもないのに他人の曲ばかり歌うのか、疑問だったに違いない。それに、ピンク・レディよりも、バックのダンサーたちの方がプロポーションがいい。日本ではかなりのプロポーションということで売ったはずなんだが、こうして見ると、どうしても負ける。これでは本当に自分たちの持ち歌を歌わない限り、この番組をやる意味はないというのは明らかなのに。


コントでも、ミーもケイも一生懸命にやっているということはわかるが、所詮二人はコメディアンではなく、アドリブで反応できるわけもなく、はっきり言ってほとんど笑えない。ジェフとの掛け合いなんか、一生懸命覚えたんだろうが、セリフ棒読みか演技過剰かのどちらかって感じで、要するに二人共大根だ。どちらかと言うと、ミーほど喋らず、受けに徹して、たまに短いセリフを要所で挟むケイの方が、まだうまいボケをかましているような気がしないでもない。いずれにしても、ほとんどジェフひとりで笑いをとっているが、それにだって限度がある。ピンク・レディ以外にも、バック・ダンサーがいたり、コントに出演したりする役者がいたりするのだが、彼女たちの方が、やはりプロポーションはいいし、コントもできる。なんでピンク・レディが主役なのかわからない。


総体的に言って、見ててかなり恥ずかしいというのが、番組を見た率直な感想だ。思わず、TVに向かって、頼む、やめてくれと言いそうになる。本人たちが真面目にやっているだけになおさらだ。これなら、日本人罵倒番組「バンザイ」を見ていた方が、こちらも言い返せるだけ、まだ耐えられる。一応全回録画はしといたのだが、第2話を見る勇気がない。番組の最後では、意味もなくミーとケイが服を脱いで水着姿になり、ステージ奥に据えつけられたジャグジーでタキシード姿のままのジェフと一緒に入浴するんだが、それを毎回ショウの最後にやっているそうで、もう、恥ずかしくて耐えられない。確かに、あまりにもひどいので評価を超越しているという意見もわからないではないのだが、それは日本人ではなく、アメリカ人の目から客観的に見た場合の意見だろう。なんでも日本では今、ピンク・レディが再結成期間限定ツアーを行っているそうだが、ミーとケイは、この当時の自分たちの姿を見て、いったいどう思うのだろうか。







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Pink Lady

ピンク・レイディ   ★1/2

 
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