放送局: NBC
プレミア放送日: 1/9/2002 (Wed) 1:35-2:05
製作: NBCステュディオス
製作総指揮: デイヴィッド・フリードマン、リサ・レインガング、ガイ・オーシアリー
ホスト: カーソン・デイリー
内容: 元MTVのVJ、カーソン・デイリーがホストを担当する深夜トーク・ショウ。
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現在、基本的に深夜のトーク番組に力を入れているアメリカのネットワークは、NBCとCBSだけである。ABCもビル・マーがホストの「ポリティカリー・インコレクト (Politically Incorrect)」なんてのがあることはあるが、30分番組だし、毎夜1時間のトーク・ショウ2本ずつを編成するNBCとCBSに較べたら、ほとんど比較にならない。FOXなんて、数年前にチェビー・チェイスとアルセニオ・ホールがホストを務めるトーク番組が続けて失敗して以来、この分野からは完全に撤退した。
そのため、NBCの深夜トーク・ショウ「トゥナイト・ショウ・ウィズ・ジェイ・レノ (Tonight Show with Jay Leno)」と「レイト・ナイト・ウィズ・コナン・オブライエン (Late Night with Conan O'Brien)」、およびCBSの「レイト・ショウ・ウィズ・デイヴィッド・レターマン (Late Show with David Letterman)」と「レイト・レイト・ショウ・ウィズ・クレイグ・キルボーン (Late Late Show with Craig Kilborn)」が、現在、4強として知られているアメリカの深夜トークを代表する番組だ。
しかし、やはり本当に深夜になると人々が寝静まってTVを見る人がいなくなってしまうため、通常、話題となるのは11時35分から放送のNBCの「トゥナイト」か、裏番組のCBSの「レイト・ショウ」くらいである。 実はレターマンがホストの「レイト・ショウ」は、昔はNBCで、レノがホストの「トゥナイト」の後番組として編成されていた。それをこの分野に乗り出したCBSが、大枚はたいてレターマンを引き抜き、「トゥナイト」に正面からぶつけてきたものである。この辺の件りは一時、深夜トーク番組の乱として大層話題になり、HBOがこの話を題材に「トークショー (The Late Shift)」というTV映画を製作までするほどだった。
その後、0時35分から放送のNBCの「レイト・ナイト」とCBSの「レイト・レイト・ショウ」になると、本当に夜更かし型人間しか見ていないため、通常はあまり表舞台には出てこない。それなのに、NBCはさらにその後、1時35分から毎夜編成される30分のトーク番組、「ラスト・コール・ウィズ・カーソン・デイリー」を編成してきたのだ。よほど深夜トークに思い入れがあるものと見える。
「ラスト・コール」は、MTVで人気のある「トータル・リクエスト・ライヴ (TRL)」で知られるようになったカーソン・デイリーがホストを担当する新しい深夜トーク番組だ。時間が30分ということもあり、直前の「レイト・ナイト」や「トゥナイト」に特有のオープニングのジョークなどなしに、すぐにその回のゲストを招いての本題に入る。というか、「ラスト・コール」は基本的にお笑いトークではない。ゲストがミュージシャンの場合、歌を歌うこともあるが、そうでない場合は、深夜トークに固有のゲスト・パフォーマーによる歌の披露もない。ゲストは一人の時もあれば、二人いることもある。
通常、深夜トークはデスクの後ろ側に座ったホストがその横に並べられた椅子に座っているゲストとお喋りをするという形が基本であるが、「ラスト・コール」の場合、デスクがなく、デイリーとその回のゲストが共にやや向き合った形になった椅子 (カウチ) に座り、お喋りをするという体裁になっている。というか、それも別に決まってないようで、その時その時のゲストに合わせて柔軟にステージングを変えるらしい。因みに番組が収録されているのは「サタデイ・ナイト・ライヴ (SNL)」と同じスタジオである。「TRL」で人脈を作ったデイリーらしく、音楽界から多くのゲストを迎えるのも番組の特徴で、プレミアのゲストが今を時めくアリシア・キースで、その他最初の週のゲストにはグウィネス・パルトロウの他に、ラップのデス・ロウ・レコード創立者のスゲ・ナイトなんて名前も見える。
しかし、この番組、そういった番組の内容とはまったく異なった点で大いに注目を集めることになった。実は私は「ラスト・コール」のプレミアが予定されていた月曜夜にすっかり忘れていて見そびれてしまったので、しょうがないのでその翌日の夜にこの番組を見た。そしたら、ゲストにアリシア・キースが出ている。あれ、おかしいな、キースがゲストなのはプレミアで昨日のはずだったんだが、と思いながらも、まあ別にとりたててそれ以上は気にすることもなく見ていた。この回はスタジオにグランド・ピアノを入れ、ほとんどキースが弾き語りしながら合間合間にデイリーがコメントを挟んだり質問したりという体裁で、ソウルフルなヴォーカルを聴かせるキースが、実はクラシックに造詣が深いということを初めて知った。
それはともかく、私が見たこの回は、やはり前日に放送予定だったプレミア・エピソードで、ある事情により前日予定だったプレミアが放送されず、翌日に延期されたものだというのを、番組を見た翌日に知った。実は月曜の時点でデイリーはNBCと最終的な契約の細かい点を詰めておらず、まだ契約書にサインしてなかった。しかし番組プレミアの番宣は既に滞りなく終わっており、それでも番組は予定通り始まるだろうと思われた。そんなに頻繁にあることではないが、契約書にサインを済ませていないタレントが、時間がないからということでとにかく番組に出演しながら最終的な契約条項を詰めるというのは、例がないわけではない。当然デイリーもそう考えており、それほど状況にシリアスではなかったことは明らかだ。
ところが、NBCの方はこの状況を重く見ていた。実はNBCは以前、こういう、まだ契約書を取り交わしていないタレントを番組に起用して痛い目にあったことがあるのだ。それが奇しくも「ラスト・コール」と同じスタジオで収録されている「SNL」で、NBCはかつて「SNL」でまだ契約にサインを済ませていなかったチェビー・チェイスを起用したことがある。契約書というものは結構タレントを拘束するもので、あれはしてはいけない、これもしてはいけないというようなことが記載されている。勝手に他の番組に出ることを制限するのは日常茶飯事なのだが、「SNL」に出ていきなり知名度が上がったチェイスは、瞬く間に他から引っ張りだこになり、一気に人気タレントになった。一方、番組が放送される10分前にサインしたジョン・ベルーシは、その後映画や他の番組に自由に出ることができなかったため、活躍の場を大きく制限された。チェイスとベルーシでは、どう見てもコメディアンとしてのセンスはベルーシの方に分があると思われるのに、出演映画等の点でチェイスの方が広く活躍して見えるのはそのためである。
今回は、番組の再放送の権利をケーブル・チャンネルのE!に売る売らないの点で揉めた。NBCは当然再放送権を売って利ざやを稼ぎたかったが、デイリーはそれがあまり面白くない。それでサインをしないまま、ついに放送当日が来てしまった。デイリーは、話し合いを続けたまま番組も放送を続けるもんだと思っていたんだろう。NBCはNBCで、デイリーはサインするもんだと思っていたため、既に主要な番宣は終わり、プレミア放送予定日の直前の「レイト・ナイト」でもコナン・オブライエンに次は「ラスト・コール」のプレミアだと宣伝を言わせる念の入れようだった。しかし、デイリーはまだサインしないまま、どんどん時間は過ぎる。NBCは是が非でもサインさせてしまいたい。しかしサインさせないまま番組が始まってしまったら、多分状況はデイリー有利に運んでしまうだろう。そこでNBCがとった策は‥‥
なんと、NBCは「ラスト・コール」のプレミアを放送しなかったのだ。デイリーがサインしないのに業を煮やしたNBCは、番組プレミア直前になって、他の番組に放送を差し替えた。びっくりしたのは視聴者である。ついさっきまで、オブライエンが「レイト・ナイト」の中で「ラスト・コール」の宣伝を何度も口にしていたはずなのに、その時間になったら、放送されたのは過去のスケッチ・コメディ番組「SCTV」だった。しかも「レイト・ナイト」は通常、月曜夜は再放送が編成される。それをわざわざ新エピソードを製作してまで「ラスト・コール」宣伝に努めてきたのに、これはいったい‥‥? いやあ、月曜夜に「ラスト・コール」を見ようと待ち構えていた視聴者は、まったく狐につままれたような気持ちだったろう。いや、正直言って私もその気分を味わってみたかった。おかげでキースが出演した本当のプレミアを見ることはできたんだけれども。
NBCが急遽番組の差し替えを決めたのは、なんと、「ラスト・コール」プレミア放送が予定されていた1時35分の3分前の、1時32分だったそうだ。NBCはサインしなければ放送しないと事前に宣言していたが、デイリー側はそれをブラフと見ていた。そして、自分の番組が放送されなかったことを知ったデイリーは、自分の負けを悟った。友人の多くにその日は夜更かしして自分の番組を見るよう頼んであったのに、放送されたのがまったく他の番組であったのを発見した時の彼の気持ちはいかばかりであっただろうか。彼は翌日契約書にサインし、そして一日遅れで「ラスト・コール」は始まったのであった。
