紀行作家のマイク・エンスリン (ジョン・キューザック) は、全米各地の幽霊が出るホテルやイン等の名所に泊まって、その体験を本にしていた。ある時、マイクの元にニューヨークのドルフィン・ホテルの1408号室とだけ記した謎の絵葉書が舞い込む。半信半疑で予約をとろうとするマイクにホテル側はうんと言わない。マイクは、もし部屋が空いていた場合、ホテルに断る権利はないという法律をたてにとり、強引に予約をとりつけるが、それが悪夢の始まりだとは夢にも思っていなかった‥‥


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実は今週末見る映画は「ファンタスティック・フォー」の新作、「銀河の危機 (Rise of the Silver Surfer)」にしようと半分は決めていたのだが、直前になって簡単なストーリー・ラインが耳に入るようになると、どうもなんかヘンだ。今回の話は「スパイダーマン」シリーズよろしく、元サーファーがなんかの突然変異か実験の失敗、偶然により、悪役シルヴァー・サーファーとなって生まれ変わる話だとばかり思っていた。そしたらどうやらそうではなく、シルヴァー・サーファーは生まれも育ちも銀河生まれの宇宙人のようなのである。


この話を聞いた途端、私の「銀河の危機」に対する興味度は半減した。宇宙人がサーフ・ボードに乗って地球を偵察もしくは侵略するってか。それはないんじゃないのか。いくらなんでもそんな話、金出して見る気になんかならんぞ。しかしマンガの世界ではこのシルヴァー・サーファーは多大なる人気があり、今では「F4」スピンオフとして自分が主人公の作品まであるそうなのだ。それはいい、それはいいがしかし、やはりサーフ・ボードに乗って宇宙を駆け巡るのなんてやめてくれーっ。


それで慌てて代替作を探し、ブルース・ウィリスの「ダイ・ハード4.0」は今週からだったっけと思ったら来週だし、本当に何年かぶりに、これなら見てもいいかもと思ったアニメーションの「レミーのおいしいレストラン」も来週だった。「エバン・オールマイティ」は今一つ評はよくないし、実はアンジェリーナ・ジョリーの「ア・マイティ・ハート」も、私はこの手の現実にあった話は、その時の記憶がまだ色褪せていない時には、どんなに作品のできがよかろうと現実を超えられるわけがないと思っているので、今一つ見る気にならないのだった。


それで今回選んだ「1408」は、スティーヴン・キング原作のホラーだ。原作は「Everything's Eventual: 14 Dark Tales」の中の同名短編、邦訳は新潮社の文庫本「幸運の25セント硬貨」の中に「一四〇八号室」として収められている。かつて娘を難病で亡くし、妻と別れた、幽霊の出る場所専門の紀行作家が、ニューヨークのドルフィン・ホテルを訪れる。そのホテルの1408号室に泊まれという正体不明の葉書に興味を惹かれたのだ。しかしいざそのホテルの部屋を予約しようと電話すると、たとえ来年でもその部屋には泊まれないとすげなく断られる。断られば断られるほど興味を惹かれたマイクは、法に訴えて強引にその部屋を予約する。法律ではその部屋が空いていた場合、ホテル側に客のリクエストを断る権限はないのだ。


いざ宿泊当日がやってくると、チェック・インしようとするマイクの前にホテルの支配人が現れ、別室に案内して宿泊を思い留まらせようとする。1408号室では開業以来、様々な理由により何十人もの人間が死んでいた。もちろんマイクは事前に調査してそのことを知っていたが、それらは事件として新聞に載っていたものだけで、自然死、あるいは単に変死として片付けられた、新聞沙汰にならなかったその何倍もの死亡事件までは知る由もなかった。支配人はその変死した人間のファイルをマイクに渡し、考えを変えるなら今のうちだよと諭す。しかし当然、マイクの好奇心は膨れ上がりこそすれ萎むことはなかった。


主人公マイクに扮するのがジョン・キューザック、支配人に扮するのがサミュエル・L・ジャクソンで、基本的に主要な役はこの二人とマイクの別れた妻リリィを演じるメアリ・マコーマックくらいだ。彼らの死んだ娘を演じるジャスミン・アンソニー (ABCの「コマンダー・イン・チーフ」で、アメリカ初の女性大統領に扮したジーナ・デイヴィスの娘役だった)、出版社の人間としてトニー・シャルーブ (「モンク」) が顔を出したりするが、特に出番が多いわけではない。シャルーブなんてスクリーン・タイムは正味1分もないだろう。マイクが1408号室にチェック・インして後になると、ほとんど舞台が部屋の中から動かないため、まるでキューザックの一人芝居を見ているみたいになる。


あるホテル/モーテルの一室から舞台が動かず、ほとんどの話が部屋の中だけで展開するとなれば、これはもう最近見た「バグ」を思い出さずにはいられない。一応「バグ」は部屋の中にいる主要人物は二人いたが、「1408」に至っては、たまさか現れるゴーストや過去の記憶なんてのはあっても、基本的にカメラはほとんどキューザック一人から離れない。一応それで、さて、それで話はどうなんのと興味を持続させる作り手やキューザックは、頑張っていると言えよう。それともキングの原作がやはりイマジネーションに富んでいるだろうことを誉めるべきか。


「バグ」を見ている時にも思ったが、舞台がある特定の場所から動かないと、インディ映画か、それこそ舞台劇を見ているみたいな感じになってくる。あるいは、TV映画、もしくは「トワイライト・ゾーン」みたいなTVシリーズと言ってしまってもいいかもしれない。要するに、舞台が動かないのであまり金をかけたという感じにならないためだ。その上「バグ」ではアシュリー・ジャッド、「1408」ではキューザックという、一応名の売れたハリウッドの中堅どころが主演していたりするので、その対比で逆になおさらそういう印象が強くなる。それでも、特に「1408」は最後にカタストロフ的展開を迎えるので、まだ金のかけ甲斐があるというか、最後までインディ映画的印象のままで終わることは避けられていると言えるかもしれない。


一方でやはり「1408」がどちらかというとTVの方に向いていたような気がするのは、昨年TNTが放送した、キング原作短編をシリーズ化した「ナイトメアズ・アンド・ドリームスケイプス (Nightmares & Dreamscapes)」を思い出したからだ。このシリーズは結構面白かったのだが、短編を元にしているということもあり、今回同様、話がある舞台から動かない、それもホテルの一室とかアパートメントとか、そういうところを舞台とする話が結構あった。つまり「1408」同様の舞台設定が多く、そういう話がうまい感じに1時間にまとまっていたため、今回もなんとなくその一環のような印象を受けたのであった。


もちろん短編を膨らませて成功した「ショーシャンクの空に」みたいな作品もあるため、短編を映画化するということに反対なわけではないが、本当に舞台が動かないなら、やはりどちらかというと映画というより30分や1時間でコンパクトにまとめられるTVの方が向いているのではと思う。「1408」よりも、1時間をほとんどアパートの一室の中で、しかもほとんど登場人物は一人だけ (ウィリアム・ハート)、その出ずっぱりの彼が全編をセリフなしで演じ切った「ナイトメアズ・アンド・ドリームスケイプス」の中の一編、「バトルグラウンド (Battleground)」の冒険精神にこそ痛く刺激されたのであった。映画よりTVの方が実験に向いていたのか。


一方、逆にこういう密室もの的舞台が映画の方にこそ向いている理由としては、やはり横長画面によって一瞬で部屋全体を概観させ、何も異常のない部屋が段々禍々しいものとなってくるという感じが緻密に出せるところだろう。いくらHDTVが以前より横長の画面になったとはいえ、1:2.35というスクリーン・サイズは確かに映画館で見ないとその醍醐味は味わえない。カメラを切り返しただけで部屋のだいたいの間取りがわかるというのはなかなか楽しいものだ。こういう密室劇だからこそ映画作品にしたかったという理屈も確かに成り立つ。


キューザックは今回も、いつ見ても万年青年みたいな役柄で、娘のいる親という役でもやはり歳とったように見えない。お姉さんのジョーンの方がいかにもという感じで歳をとっているのとはかなり印象が違う。歳をとらないというと、サミュエル・L・ジャクソンも、20年前も今も同じ顔みたいに見える。別の意味で二人ともホラーか。監督のミカエル・ハフストロムは、2年前にジェニファー・アニストン、クライヴ・オーウェン主演のスリラー「すべてはその朝始まった (Derailed)」を撮っている。そん時は完全に興行的には失敗したが、今回は同時期公開の「エバン・オールマイティ」の評判があまりよくないためこっちの方に客が流れてきているそうで、意外に健闘しているらしい。映画で一発当てるって本当に難しそうだ。







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1408   1408  (2007年6月)

 
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