12 Rounds


12 (トウェルヴ) ラウンズ  (2009年4月)

ニュー・オーリンズの警官デニー (ジョン・シナ) は同僚の警官とパトカーに乗って警邏中、不審な車に遭遇、車を停めさせて職質する。実はその車はたった今大仕事を終えて、大金や銃器等をトランクに隠し持っているマイルズ (エイダン・ギレン) と彼のガール・フレンドの車だった。マイルズはその場から逃走するが追跡を諦めないシナのために事故を起こし、マイルズは逮捕、ガール・フレンドは車に撥ねられて死んでしまう。復讐に燃えるマイルズはその後刑務所を脱走、シナをつけ狙う。マイルズはシナのガール・フレンドのモーリー (アシュリー・スコット) を拉致すると、シナにこれから12ラウンドのゲームを行うと宣言する。そのゲーム全部にシナが勝てば無事モーリーを返す、さもなければモーリーの命はないというのだった‥‥


___________________________________________________________


別に特に「12ラウンズ」について事前によく知っていて、見たいと思っていたわけではない。予告編も1、2度しか見たことがなく、正直言ってよくわからなかったというのが本当のところだ。そのため、逆に見たくないという理由もなく、他に特に見たいと思う映画が上映されていなかったのでこれにしたという、消極的な理由でこれに決めたに過ぎない。一応演出はレニー・ハーリンだしアクションには金がかかっているみたいだし。


しかし劇場で本編前の予告編が終わり、いざ本編が始まろうとして製作会社の一つにWWEのロゴが現れた時には一瞬あっとした。WWE... プロレス団体のWWEか。どう見ても見覚えのあるWWEのロゴだ。ということはこれはWWEが製作している... つまり、WWE所属のレスラーが主人公の映画か。一応アクションだからそういう人間が主演する可能性はあろうが、しかし、うーん、道理で主演のジョン・シナって一度も聞いたことがないと思った。まるで私と畑違いのジャンルだからな。レスラーだったか。確かにガタイはいい。


それに、同じくWWEのザ・ロックことドウェイン・ジョンソンが今や押しも押されぬハリウッド・スターの一人として認められていることを考えると、別にレスラーだからといって特にマイナスだとも思えない。だいたい、ショウマンシップが求められるレスラーは誰でもそれなりに演技できそうだ。マイク渡すと手放さないタイプもかなりいるみたいだし、しゃべるのもかなりいけるかも。


なんて思いながら最初の方こそ見ていたのだが、その期待は裏切られたと言わざるを得ない。要するに、シナにほとんど緊迫感がないのだ。ガール・フレンドが誘拐されて今にも殺されるかもしれず、一応本人は焦っているというシチュエイションではあるのだが、それでもなんか余裕があるというか、にへらにへらしているというか、お前、本気じゃないだろう、なんて突っ込みを入れたくなる。プロレスで主人公が絶体絶命のピンチというところで、大丈夫だ、ここから必殺技を繰り出して大逆転するから、みたいな乗りが濃厚なのだ。そりゃまあ映画だってできレースの一種と言えないことはないかもしれないが、しかし、やはりあんたの演技は素人過ぎる。


「12ラウンズ」はハリケーン・カトリーナによる打撃からまだ癒え切っていないニュー・オーリンズが舞台だ。復興をかけて街が全面的にバックアップしたことがよくわかる作品であり、ニュー・オーリンズの主要観光名所をツアーしながらシーンが移動するみたいな印象を受ける。ただで観光ツアーしてもらった上にアクションつき、さらにヒロインのアシュリー・スコット (CBSの「ジェリコ (Jericho)」に出ていた) は一昔前のキャメロン・ディアスみたいで可愛いしという、一粒で二度三度美味しいみたいな作品なのだが、いかんせん主人公がそれを台無しにしてしまったんでは救う術はない。


だいたい演出のハーリンも、緊迫感のないシナに慣れてしまったのか、随所で凡ミスというか、締まりのない演出が顔を出す。落ちるエレヴェイタの上でもがくシーンは、もうちょっとパートナーを助けるためになんかすべきだと思うし、あんた諦め早過ぎはしないか。一方、後半のクライマックス・シーンの一つである路面電車上のアクションは今度はいたずらに長過ぎる。乗客で満杯の客車のブレーキが利かなくなったんだぜ、だいたい運転手はもっと慌てるだろ、シナも余裕で行動しているように見えるし、おかげで乗客も全然怖がっているようには見えないし、うーん、頼むハーリン、この冗漫な演出をなんとかしてくれと思ってしまった。


ハーリンは、正直言って「ダイ・ハード2」以来、それに匹敵する作品を撮っていない。「カットスロート・アイランド」も「ロング・キス・グッドナイト」も「ドリヴン」も一部アクションはさすがなのだが、見る者はやはり「ダイ・ハード2」と比較するだろうし、そうするとそのレヴェルには達していないと言わざるを得ない。


特に今回は巻き込まれ型ヒーロー・アクションで、主人公が警官というところからして誰でも「ダイ・ハード2」を思い出すと思うのだが、どれだけブルース・ウィリスがちゃんと演技しており、彼のキャラクターが映画を面白くしていたかということがよくわかる。ただし、もっと深く内容に突っ込むと、まったく逆恨みで主人公に時間制限を設けてあれやれこれやれと指示命令を出して奔走させるというストーリー展開で似ているのは、「ダイ・ハード2」ではなく、「ダイ・ハード3」の方だ。実際、近親者の仇討ちのように見せながら結局金の強奪が第一の犯人像まで、「ダイ・ハード3」と酷似している。


さらにウィリス繋がりで言うと、「12ラウンズ」とウィリス主演の「16ブロックス」は、タイトル名だけでなく、ポスターの意匠までそっくりだ。数字がタイトルに入るとどうしてもその数字をどーんと大きく意匠に配したいというのはあるかもしれなが、いずれにしても、よくよくウィリスを思い起こさせる作品だ。


逆に言うと、「12ラウンズ」は、ウィリスだったらよかったのにということを強く感じさせる作品ということでもある。WWEの協力なんかなくてよかったから、せめて主人公が普通に下手でさえなければもっと見れるのに。でもWWEが金を出したから「12ラウンズ」ができたのか。うーん、痛し痒しだ。それにしてもジョンソンだけがそれなりに演技もできるのか。


結局「12ラウンズ」は、主人公以外は特に悪くない、まあ、ハーリンの演出がところどころだれることは確かではあるが、それでも、主人公さえ別の人間が演じていたら、かなり見れるものになっただろうにということを強く感じさせる作品となっている。ジョンソンやウィリスよりもシリアス・タッチでアクション・ヒーローを目指したシナであるが、あんたはプロレス稼業から浮気せずに、当分はプロレス一筋で頑張った方がいいと、老婆心ながらキャリアのアドヴァイスを一言申し添えておく。








< previous                                      HOME

 
inserted by FC2 system