With a Friend like Harry/Harry, He’s Here to Help
(Harry, un ami qui vous veut du bien)

ハリー、見知らぬ友人  (2001年5月)

今年のメモリアル・デイの週末は人々は「パール・ハーバー」を見に行くことになっていたんだが、3時間に及ぶ「タイタニック」的な恋愛を絡ませた内容であるということを聞いて、いきなり見る気がしぼむ。私だってあのアクションは見たいとは思うんだが、なんでも日本軍がパール・ハーバーを奇襲するのは映画が始まって2時間経ってからだとか。私が見たいのはそこだけで、ドラマ的演出力のないマイケル・ベイが演技力のないベン・アフレックを起用して演出する恋愛シーンなぞまったく見たいとも思わない。やっぱり、あれでしょ、「アルマゲドン」とまったく同じなんでしょ。結局「アルマゲドン」はアフレックとベイのせいでお涙頂戴にもなり切れず、ただのつまらない金を浪費した駄作になっていた。これでは「パール・ハーバー」も見る気もしぼもうというものだ。


というわけで、反動で2週連続でまたまたフランス製のサイコ・スリラー「ハリー、見知らぬ友人」を見に行く。なんでもフランスではえらくヒットしたらしい。先週見た「アンダー・ザ・サンド」みたいな頭を使った知的サスペンス・スリラーだと聞いている。実は監督のドミニク・モルは私が卒業したシティ・カレッジのピッカー・インスティテュートに交換留学生として在籍していたことがあって、私の先輩に当たる。ニューヨークの映画関係者はほとんどがNYUとコロンビア大学というエリート学校の卒業生で占められており、私のような公立の学校の卒業生は肩身が狭い。そういうこともあって、思わず応援してしまいます。


映画は主人公ミシェル (ローラン・リュカ)、妻のクレア (マチルド・セニエ) と3人の娘がエアコンのない車に乗って避暑に出かけるシーンから始まる。ミシェルは途中の休憩所のトイレで、学校時代の知人ハリー (セルジ・ロペス) と出会う。ハリーは婚約者のプルーン (ソフィ・ギルマン) を連れており、せっかく何十年かぶりに偶然会った機会を逃すのが惜しくて、ほとんどごり押しでミシェルたちの別荘まで押しかけてくる。ハリーは今では成功しており、故障したミシェルたちの車の代わりに新車を買ってやるだけでなく、段々生活のいちいちに口を出すようになり、ミシェル一家に影響を及ぼすようになる。そしてついに、ハリーはミシェルたちの知らないところで独自の行動を始める‥‥


よく素性のわからない男が主人公に絡んでくる展開は、ヒッチコックの「見知らぬ乗客」を連想させるし、タイトルからして「ハリーの災難」を思い起こさせる。実際、モルはヒッチコックのファンだそうで、その辺りを意識しているのはありあり。ついでに言うとモルはミステリのパトリシア・ハイスミスのファンでもあるそうで、両者のエッセンスをかけ合わせたのが「ハリー、見知らぬ友人」になるらしい。


この映画の最大の特徴は、ミシェル一家に絡んでくるハリーの行動にあまり説明が加えられていないことで、その辺がまったくアンチ・ハリウッド的と言える。最初ごり押しのようにミシェル一家の別荘に同道するハリーの行動も、その後の悪魔的行動も、理由がよくわからないからよけい不安感を増す。文才があると思っていたミシェルにもう一度筆をとらすためだけにその様な行動に出たというのでは、いくらなんでも弱すぎるという気がする。クライマックスも意外なアンチ・クライマックスになっており、このモラルや倫理観の欠如が、いかにもヨーロッパ映画らしい。最近の映画で言えば、理由もなく突発する暴力という点が、ミヒャエル・ハネケの「ファニー・ゲーム」に近いという印象を受けた。モルもハネケ同様生まれはドイツである。やはりナチを生んだお国柄というものがあるんでしょうか。


結構面白いんだが、これを2時間の映画でなく90分でまとめてくれたら、もっとコンパクトにまとまったと思う。特にこのような場所や出演する人間の限られる映画だと、いつも同じ場所で同じ人間を見ているので、どうしても飽きる。そうは思わせないほど緊張感を持続させることができたわけではないということだ。特に気になったのは、ミシェルの別荘以外で重要な場所はミシェルの親の部屋とハリーと婚約者が一時滞在するホテルだけなのに、それらの外観をまったく見せないことである。特にハリーたちが滞在するホテルはお城のようなホテルだと言っているのに、その全景は出てこない。ホテルの門と彼らが滞在する部屋、それに駐車場が出てくるだけで、なぜホテルの全景を見せないんだと不思議に思った。ビルやホテルの全景なんて、夜の撮影でもなければ撮影に金がかかるわけでもなし。それとも意図的な演出だろうか。でも、だとしたら何のための。よくわからないよなあ、そのへん。


主演? のハリーに扮するロペスは、スペイン出身だが主にフランスで活躍しているそうで、結構人気のある俳優らしい。実際、彼の稚気のある悪意というものがこの映画の雰囲気を決定づけており、なかなかうまい味のある俳優である。ミシェルに扮するリュカは、アメリカTV界の売れっ子ライター兼製作者のデイヴィッド・E・ケリーに似ている。そのため、ミシェルが作家の才能があるという設定は、フランス人よりもアメリカ人の方が納得しやすいんじゃないだろうか。ミシェルの妻クレアに扮するセニエは、見ている時エマニュエル・セニエに似ているなあと思っていたら、クレジットを見ると同じ名字。後で調べてみたら、やっぱり姉妹だった。


さて、そういうわけで2週連続して小品を見たことで、なんとなく今はハリウッド・アクションを見たいという気になっている。こういうのはやっぱりバランスだよな。ただし、「パール・ハーバー」を見るかは未定だ。まだ私んちの近所まで来ていない「ムーラン・ルージュ」が来週近くまで来れば、当然そちらの方を優先しなければなるまい。いずれにしても「パール・ハーバー」はTVで嫌になるほど宣伝しているので、なんか、もう見たような気になってきた。早く見ないと見ないまま終わってしまうかも知れない‥‥







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