Under the Sand (Sous Le Sable)

まぼろし  (2001年5月)

たまたまTVをつけてインディ映画専門のIFCにチャンネルを合わせていたら、カンヌ映画祭のクロージング・セレモニーを中継していたので、なんとはなしに見ていた。そしたら、シャーロット・ランプリングが総合ホスト的な役で出ている。もう50代も中盤に入っているはずなのに、まだまだ美しい。その他の壇上の女優たちもアメリカの女優たちとは皆一味違う顔立ちで、やはりヨーロッパ女優というのはいいなあと思う。


それでたまたま公開しているランプリング主演の「まぼろし」を見てきた。ランプリングが演じるのは、大学で英文学を教えているマリー。やっとのことで休暇をとり、夫と一緒に毎年避暑に来ている別荘を訪れる。翌日、浜辺で寝そべり、うたた寝をしていたマリーはしかし、目覚めると夫の姿がないことに気づく。夫はどこに? もしかして溺れてしまったのか、何者かに拉致されたのか、自分から失踪したのか、それとももっと大きな何かの陰謀か。不安に苛まれながら、マリーの夫の帰る日を待つ日が続く‥‥


映画はその後のマリーの生活を描くのが中心となるのだが、失踪したはずの夫がいきなり現れてきたりして、あれ、いつの間にか帰ってたの? と思っていたら、それがマリーの想像の中の出来事であることになっている。しかしあまりにもそれが当然のことのように描かれるので、一瞬戸惑う。こういう、観客に対する不親切さのようなものはアメリカ映画にはあまりなく、そのため逆に新鮮で心地よい。


結局夫はどうなったかというのが大きな謎となって作品全体を覆っているため、わりとゆったりとしたテンポで話は進むのだが、飽きさせないで最後まで見せる。それに何といってもやはり主人公のマリーに扮するランプリングがよい。こないだ「ヴァンドーム広場」でも50代になってベッド・シーンを演じるカトリーヌ・ドヌーヴを見て感心したものだが、「まぼろし」ではランプリングは完全に脱いでおり、惜しげもなく胸をさらけ出す。しかも本当に50代? と思わせる色気を発散しており、参りましたとしか言い様がない。


えらく感心したので、家に帰って多分どこかにあったはずの「愛の嵐」のテープを探し出してついでにまた見てしまう。ランプリングは「まぼろし」では成熟 (爛熟?) した美しさを見せているのだが、ほぼ30年前の作品になる「愛の嵐」でも、少年に見紛うまた違った頽廃美を充分に醸し出している。それで頽廃ついでに、その隣りに置いてあった「地獄に堕ちた勇者ども」のテープまで見てしまう。やっぱりランプリングは美しい。ああ、最近結構忙しいというのに、仕事もしないで私はいったい何をやってんだか。


アメリカ映画とヨーロッパ映画で完全に違うのはここである。アメリカの女優でも50代でも充分色気を感じさせる女優というのはいないことはないが、でも、多分脱ごうとは思わないだろう。まるで本人も思わないだろうし、周りも考えさえしないと思う。アメリカでほぼ同年代のストッカード・チャニングやジャクリーヌ・ビセットなんて、まだまだ奇麗だとは思うが、今さら脱ぐだろうとは到底思えない (ビセットはイギリス出身だが、アメリカ女優という感じが強い)。個性派のミア・ファローだって無理だし、グラマー・タイプのゴールディ・ホーンも脱いだシーンを想像するのは既に不可能だ。


しかし、これがハリウッド映画に出ていても、イギリス出身のヘレン・ミレンだと微妙なところになる。イギリス映画の「コックと泥棒、その妻と愛人」のミレンなら脱いでも違和感はないが、ハリウッド映画の「鬼教師ミセス・ティングル」のミレンだと難しい。こういう印象というのは、いつの間にか自分の中にできている「ハリウッド映画」だとか「ヨーロッパ映画」という範疇に無意識のうちに当てはめるからそういう風に感じるんだと思う。極言すれば、フランス映画に出るなら、現在のハリウッド女優の代表であるジュリア・ロバーツが脱いでも違和感はないんじゃないかとも思うんだが、あまりに妄想が過ぎるかな。


監督のフランソワ・オゾンの作品は私はこれまでに見たことはないが、異様に多作な人のようで、IMDBで調べてみると、ほぼ半年に1本のわりでずっと新作を発表している。これだけの作品を撮っていて、ほとんどアメリカでは知られていない。アメリカで公開されているのは、多分「クリミナル・ラヴァーズ」と「ホーム・ドラマ」くらいである。ついでに気づいたことを言うと、「ホーム・ドラマ」の原題「Sitcom」は、「シチュエイション・コメディ (Situation Comedy)」の略で、通常「ドラマ」とは反対の意味で用いられる。この邦題は原題の持つニュアンスをまるっきり間違えて伝えてしまう。なんでこんな邦題をつけてしまうのか、時々日本の配給会社のセンスというものを本当に疑ってしまう。


ところで今週末からいよいよメモリアル・デイの大型作品の公開が始まる。つまり、「パール・ハーバー」が始まるわけだが、まあ、アクション・シーンはよさげだから見に行こうかなとは思っていたが、聞くところによると3時間近いのだという。それで思わず悩み始めてしまった。私はマイケル・ベイに恋愛ドラマまで期待してしまうほど暇ではない。そんなもん削ってくれ。ただでさえベン・アフレックが主人公ということで見る前から食傷気味なのに。でもこれがヴィデオになるまで待って小さな画面で見るのもなあ。というわけで見に行こうか行くまいか悩んでいるのであった。どうしよう。







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