既にいったいいつどこで何を公演しているか追うことが不可能になってしまったほど世界各地で新作旧作がいつでも公演されているシルク・ドゥ・ソレイユ,その新作がこの「ウィントゥック」だ。ニューヨークだけでも昨年「コルテオ (Corteo)」が公演されたばかりなのだが、本当にあとからあとから新作がかかる。そのクリエイティヴなアイディアと、そのアイディアを実現するパフォーマンス陣の層の厚さには感服するばかり。

近年は人気もあってかつての倍以上,人気ブロードウェイ・ミュージカル並みに高くなったチケット代に二の足を踏んで、公演を実際に見に行くことはなくなり,代わりに恒久施設で公演されているパフォーマンス以外はほとんどの公演を中継するブラヴォー・チャンネルでのTV中継でお茶を濁していた。

しかし今回は本公演の一週間前にプレヴュウ期間が設けられており、その期間中は正規料金のほぼ半額で見れる。プレヴュウであり、このあとも観客の反応を見ながらマイナー・チェンジが施されるとはいえ,内容はほとんど本公演と変わらない。それならいいかと即座にチケットを購入する。

「ウィントゥック」は近年恒例となったランドール・アイランドでのテント公演とは異なり,初めてマディソン・スクエア・ガーデンのWaMuシアターでの公演となる。実は私もWaMuは初めてだったのだが,このシアター,ラスヴェガスのクラブ・シアターに印象が近い。もちろん食事をしながら観劇するというわけではないが,それでもだいたいのシアターではご法度の、飲み食いをしながら観劇するというスタイルがとられている。ポップ・コーンを食べたりワインを飲みながら観劇するのだ。それも大事な収入源の一つなんだろう。

シアター自体もこの種の施設としては天井が低く横に広いタイプで,実は空間芸が得意なシルクの公演としてはそんなに向いてないのではないかと多少危惧する。実際,人間を上に飛ばすタイプのアクロバティックなパフォーマンスでは、上に跳んだ演者が一瞬手前の天井にかかって一部が見えなくなったりした。私たちが座っていたのはシアターの真ん中あたりだったのだが、後ろの方の席だったら間違いなくパフォーマンスの一部は見えなかっただろう。

さて内容の方であるが,冬を迎えたのに雪がないのを残念がる少年ジェイミーが、シャーマンの女性、臆病な男ウィンピー、影だけの存在の女性、そして巨大な雪イヌと共に、ウィントゥックと呼ばれる雪に囲まれた北の町を目指すというもの。オープニングはスケート・ボードやインライン・スケートをフィーチャーしたエキストリーム系のパフォーマンスで、特にそれらのパフォーマンスに合わせて街灯がお辞儀したりする演出は意外性たっぷりで、さすがシルクと感心する。

その後は縄跳びやジャグリング、関節外しや新体操のリング、ロープ吊り下がり芸等,いかにもシルクらしいパフォーマンスの連続で堪能する。それ以外にも今回は舞台設定が凝っているのが特色で,上述の街灯以外に,ライティングの妙によって影だけの出演の女の子は,これはステージの周りをぐるりと観客席がとり囲むテント公演では不可能な演出だろう。ステージ上の一部を奈落に落として二人がかりで操る巨大雪イヌにも唸らされた。まるで本当にそういう生き物がいるような動きを可能にしている。同様に「天空の城ラピュタ」を彷彿とさせるアイス・ジャイアントの動きも申し分なし。操作にかなり練習の時間を費やしたであろうことは想像に難くない。

そしてテーマが雪の国ということもあり,絶対最後は思い切り舞台上に雪を降らすのがクライマックスだろうというのを予測していた。私が考えていたのは、これでもかとばかりに舞台を雪で埋め尽くした歌舞伎の「鷺娘」だが、そこはシルク,それだけではなく、観客席にも盛大に紙吹雪の雪を降らせまくって幕。どっちかっつうと「鷺娘」というより,観客席に盛大にトイレット・ペーパーを巻き散らかした「ブルー・メン」という感じに近かった。それはそれで面白かったけど。その後サブウェイで帰ったのだが,いったい誰にくっついてきたのか,プラットフォームのそこここにその紙製の雪が落ちている。思わず女房と顔を見合わせてにやりと笑う。それにしてもシルクのヴィジュアルはやはりすごいと堪能したのであった。




 

Wintuk    ウィントゥック

(2007年11月2日)            シルク・ドゥ・ソレイユ
マディソン・スクエア・ガーデン,WaMu (ワム) シアター

 
inserted by FC2 system