DCコミックスの「ウォッチメン (Watchmen)」は、10年前に一度映画化されている。その時、引退したり二代目に座を譲ったりひねくれたり裏切ったりよろめいたり仲間割れしたりするスーパーヒーローたちに唖然としたものだが、今回その続編がTVシリーズとして登場した。
と思って見始めたのだが、どうも今回の「ウォッチメン」、映画版とかなり肌触りが違う。クリエイターがアラン・ムーアとデイヴ・ギボンズとなっていたので、こちらとしては完全に映画版と同じメンツ、もしくはその流れを汲むものとばかり思っていたが、TV版は、実はそうではない。
今回の「ウォッチメン」は、スーパーヒーローというよりは、単に顔を隠し、素顔を晒さないだけの世直しのために活動する面々、という感じだ。スーパーヒーローというよりは一般人だ。それも悪というのは世界支配を企む秘密結社というわけではなく、白人至上主義者対それを拒もうとする市井の者たち、という構図になっている。
白人至上主義者はそれなりに結束して秘密主義で白人社会を擁立しようとしているので、ある意味これまでの悪人の立ち位置は変わらない。しかし、それに相対する正義の側の存在のあり方が、これまでと微妙に異なる。
舞台はオクラホマ州タルサ (のもちろんパラレル・ワールドだ) で、昔、人種差別がはびこり、多くの黒人がリンチを受けたという描写が番組冒頭で描かれる。時は変わって現代、アルコールかドラッグを嗜んでクルマを運転している白人の男が、黒人警官のパトロール・カーに止められ、免許証の提示を求められる。
その黒人警官、なぜだか顔の下半分をスカーフのようなもので覆って、顔を隠している。最初、いったいどういうことかと思ったが、要するにいまだに白人至上主義が跋扈する土地柄、警官といえども顔を覚えられると、後で報復される可能性があるからということのようだ。
と思ったのだが、その後、警察署において、多くの者がやはり顔を隠している。パンダの着ぐるみの頭部で顔をすっぽり覆っている者もおり、当然のようにパンダと呼ばれている。あるいは反射する銀色のストッキングのようなもので顔をすっぽり覆ってしまうウェイド、もしくはルッキング・グラスもいる。
これなんかは映画版のロールシャッハのようなキャラクターに近い感じがする。ロールシャッハを演じたのがジャッキー・アール・ヘイリー、ルッキング・グラスに扮するのはティム・ブレイク・ネルソンという、共に非常に癖のある役者であるところも印象が近い理由の一つだ。
主人公格のアンジェラ/シスター・ナイトはアイ・マスクをしてフードを被っている。しかし、やはり見る者が見れば、誰だかすぐわかるのではないだろうか。一方で警察署長のジャッド (ドン・ジョンソン) は常に人前で素顔を晒している。要するに、そのために狙われやすい。そしてジェレミー・アイアンズ演じるエイドリアン・ヴェイト/オジマンディアスがいる。映画版でもヴェイトは大金持ちの裏切り者だったが、今回もどうやらそう臭い。というか、最初から悪役臭さがぷんぷんする。
等々、とにかく設定が微妙で、なぜ、どうして、という部分を数えだしたら切りがない。もちろんこういう特異な部分は、はまれば魅力になるのももちろんだ。
「ウォッチメン」では、だいたい正義の側の面々がマスク/スカーフを着用して顔を隠している。実はこれが現在の視点から見ると、コロナ・ウィルスの感染を防ぐために臨時マスクを着用しているように見えなくもない。そして、ドナルド・トランプ政権下で人種差別問題が浮き彫りになっている2020年春現在、黒人と白人の対立を描く「ウォッチメン」は二重の意味で興味深い。番組が放送されたのは2019年秋だが、コロナ・ウィルスが世界中に蔓延し米大統領戦が本格化する2020年春にこそ放送されるべきだった。