The Swarm (La Nuée)


群がり  (2022年1月)

「群がり」は、ニューヨーク・タイムズを含めいくつかの媒体で、傑作とは言えないまでもなかなかよくできた、キャラクター重視のフランス産のホラーの小品みたいな評され方をしていたので、気になっていた。私自身どちらかというと、ゾンビやシリアル・キラーが出るわけではない、雰囲気重視のホラーの方が好みではある。 

 

「群がり」でそのゾンビやシリアル・キラーやエイリアンの代わりに出てくるのは、バッタだ。バッタ、うーん、確かにゾンビやシリアル・キラーではないかもしれないが、アリゲーターですらない。とはいえ群れればそれなりに怖そうではあるが、ススメバチみたいな毒を持っているわけでもない。しかも「群がり」では、バッタは、人間の食用として養殖されている。タンパク源なのだ。虫偏愛のギレルモ・デル・トロから見たら、バッタを食料にするなんてけしからんと言われそうだ。 

 

近年、肉食を好まないヴェジタリアンが増え、昆虫をタンパク源とする昆虫食がそこそこ脚光を浴びているそうだ。確かに言われてみると、小魚を丸ごと食べるのと昆虫を食べることには、特に大きな違いはないような気もする。 

 

とはいえ食べ慣れないものを食べるのは、特にこういうまったくそれまでの個人的な食の経験とは無縁のものを口にするのは、やはり躊躇われる。小魚や小エビはOKでバッタがダメというのは、単純に歴史や文化圏による経験の差でしかないだろうとは思うが、率先して試したいと思うものではない。 

 

一方で、食べてみたら結構いけるのではないかという気もしないでもない。アメリカでも、寿司・刺身が浸透したのは、ついここ数十年のことに過ぎない。今でも、生まれてこのかた生魚を食べたことがないという者は、実は結構いる。そのまま大人になってしまった者は、嗜好が既にでき上がってしまっているので、勧めても口にしない。 

 

フランスでも、昆虫食が一般に既に定着しているわけではない。そのためバッタを養殖しているヴィルジニーは、周囲から好奇の目で見られるし、子供は当然のように学校でいじめられる。ビジネスは軌道に乗らないし子供たちとはうまく行かなくなるし、当面の生活すらままならない。 

 

ヤケになったヴィルジニーは養殖ドームの中でバッタや機材に当たり散らし、勢いあまって転倒して気絶する。しかし血を流していたヴィルジニーの傷口にバッタが群がり、血を啜ることで活力をとり戻していた。ヴィルジニーは自分を傷つけて血を流し、それをバッタに吸わせることで収穫量を増やす。しかしもちろん彼女一人の血だけでは限界があり、外部から血を購入するまでほとんど時間はかからなかった。バッタは加速度的に繁殖し、バッタも、ヴィルジニーも、機会があればさらに血を求め始める‥‥ 

 

バッタも確かに群れれば怖いが、やはり一番怖いのは、思い込んだら手段を選ばない人間のヴィルジニーだ。昨年の「セイント・モード/狂信 (Saint Maud)」もそういう話だった。現実的には、思い込みで事件を起こすのは女性男性に関係ないような気がするが、ドラマやホラーの作品の主人公に女性が多いのは、より肉体的に弱い性である女性の方が、ドラマ性が高まるからだろう。 

 

現在、アメリカでは植物性タンパク質食品が注目を浴び始めている。ヴェジタリアンやヴィーガンもそこそこいる。スーパーでも植物性ハンバーグが売られてたりして、原材料を見てみると、最も多くを占めているのは大豆っぽい。アメリカ人がもし肉食から離れるとして、昆虫食に行くか植物性タンパクに行くかはなんとも言えないが、少なくとも植物性ハンバーガーだと、それを食ってホラーになるようなことはないだろうなと思う。 












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フランスの田舎町で長女ローラ (マリー・ナルボンヌ) と長男ガストン (ラファエル・ロマン) と暮らすシングル・マザーのヴィルジニー (スリアン・ブラヒム) は、タンパク源としてバッタを養殖して生計を立てていたが、バッタはなかなか増えずビジネスは思わしくない上、ローラは学校でバカにされるなど、万事順調とは到底言えず、内心焦りが募っていた。ある日積もっていた怒りが爆発し、養殖ドームの中でバッタや機材に当たり散らしたヴィルジニーは、転倒して気を失ってしまう。目覚めた彼女は、バッタが出血した彼女の傷口に群がって血を吸っているのを目にする。バッタが血から栄養をとることに気づいたヴィルジニーが餌として自分の血を与えてみると、バッタはみるみるうちに繁殖し始める。到底自分一人の血だけでは足りず、ヴィルジニーは血を定期的に購入し、バッタの繁殖は加速度を増し、ビジネスは軌道に乗り始めたように見えた‥‥ 


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