放送局: コートTV

プレミア放送日: 8/20/2003 (Wed) 20:00-21:00

製作: ジムコ、コートTV

製作: マーラ・ラトナー

脚本: クリス・ディーガン、ドン・ロバーツ

ホスト: モー・ロッカ


内容: セレブリティの過去の隠された事件を明るみにさらすことで知られるスモーキング・ガンをTV化。


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スモーキング・ガンという名詞が巷で囁かれ始めたのは、いったいいつ頃からだったろうか。1997年に発足したインターネット・サイトのスモーキング・ガン (thesmokinggun.com) は、犯罪関係の公式文書を公けにするという活動を行っていた。一部ではTSGという俗称で当初から知られていたが、しかし、やはり知る人ぞ知るという、どちらかというとマニア受けする類いのサイトであった。


犯罪関係なら、一般人、著名人に関係なく様々な公的文書を掲げていたわけだが、スモーキング・ガンが人々の口の端に上るようになったのは、やはりセレブリティが人々に隠しておきたい、ちょっとした悪いことで警察の厄介になった時の調書や、その時に撮られた顔写真 (マグ・ショットと呼ばれる)、裁判沙汰になった時の陳情書、証明書、直訴状、その他諸々の関係書類を余さずサイトにアップしていたことにある。


一応、情報公開が原則のアメリカでは、裁判官が、極端にプライヴァシーの侵害になる怖れがあるとか、公共の福祉に反すると判断した場合を除いて、その種の情報に第三者が近づくことは禁止されていない。とはいえ、そこはそこ、お上であるから、情報は原則公開だとはいえ、一般人がどこをどう当たればどのような情報があるかということを、手取り足取り教えてくれるわけではない。つまり、その種の情報が見たければ見てもいいが、しかし、自分で探せよ、という立場なのだ。これでは、いくら情報が公開されているとはいえ、専門知識のない一般人ではお手上げである。


そこに登場したのが、スモーキング・ガンだ。スモーキング・ガンとは、読んで字の如く、撃った直後の硝煙を発している拳銃のことで、動かぬ証拠を意味するスラング的な言葉だ。つまり、セレブリティの犯罪や、その種のゴシップ記事等の証拠となる書類や写真を、わざわざお役所の迷路の中から探し出してきて一般消費者の前に提示するということを行っているのが、スモーキング・ガンなのだ。


知る人ぞ知るという感じであったスモーキング・ガンが最初に一般的に人の口の端に上るようになったのは、2000年にFOXが放送した「フー・ウォンツ・トゥ・メアリ・ア・マルチミリオネア」スキャンダルで、百万長者のリック・ロックウェルが、過去、女性に暴力をふるって逮捕されたことがあるということをスモーキング・ガンがすっぱ抜いた時だろう。このスキャンダルによって、当時のFOXは、予定していたリアリティ・ショウすべての編成の見直しを余儀なくされるなど、大騒ぎとなった。とはいえ、この時点ではスモーキング・ガンは、それでもまだマイナーな、その手のゴシップ好きや、パパラッチ予備軍ご用達のサイト以上のものではなかった。


スモーキング・ガンがブレイクしたのは、やはり今年に入ってからだろう。年が明けてからのスモーキング・ガンの活躍は目覚ましく、まず、93年にマイケル・ジャクソンが当時13歳の少年を性的に虐待したかどで訴えられた、その時の供述書をどこからか発掘してきて公けにしてしまった。当然のごとく、マイケルは圧力をかけようと躍起になったらしいが、いたずらに騒ぎを大きくするだけの結果にしかならなかった。


さらにスモーキング・ガンは、今年最大のヒット番組となったFOXの勝ち抜き恋人獲得番組「ジョー・ミリオネア」で、最後の二人まで残ったサラ・コーザーが、以前に学費を稼ぐためになんとボンデッジのヴィデオに出演していたことを突き止め、その写真をサイトで大々的に公開した。その時の主人公であるエヴァン・マリオットも、建設現場の肉体労働者どころか、男性用下着モデルとしてブリーフだけを着用している、昔の商品パンフレットの写真をどこかからか調達してきて公開した。


今夏最大のヒットになったNBCの「フォー・ラヴ・オア・マネー」では、その時の主人公ロブ・カンポスが、こちらは品行方正の弁護士であったはずなのに、かつて軍勤務中、よりにもよって女性の上官が就寝する官舎に酔った勢いで夜這いに忍び込み、ばれて除隊になったという恥ずかしい過去が暴露された。カンポスのそんな過去など知らなかった、彼が現在勤務している弁護士事務所は、さらに彼の番組内での弁護士にあるまじき差別的言動にかんかんになって、カンポスを首にするというおまけまでついた。


しかし現在ではスモーキング・ガンと言えば、FOXの人気番組「アメリカン・アイドル」で、参加者が秘密にしていた過去を、次々と白日の下にさらし出すことで覚えている者が圧倒的に多いだろう。上記の話題になった番組はすべてそうだが、視聴者参加番組では、どうしても参加者の中に多少は過去に後ろ暗いことをした者が入ってくる可能性を完全には排除し難い。当然皆黙っているわけだが、ここでスモーキング・ガンが登場するわけだ。


まず、予選で圧倒的に人気を博していたフランチー・デイヴィスが、「アイドル」参加前にポルノ・サイトで上半身裸でポーズをとっていたことが発覚、次に、予選最後の方まで残っていたジャレッド・アンドリューズがバーで喧嘩をし、相手は打ち所が悪くて死んでしまったことも明らかにされた。本選まで残っていたコーリー・クラークは、妹に暴力をふるったかどで警察の厄介になったことがあり、トレニスも万引きで逮捕されたことがある等の、本人が固く口を閉ざしていたことが、次々と明るみに出された。そのうち比較的罪が軽かったトレニス以外は、すべて失格になった。


今春、最も人気を博していた番組で、参加者が隠していた過去を次々とすっぱ抜いたスモーキング・ガンは、ほどなくして、アメリカのリアリティ・ショウ・ファンなら誰でも知っている一般固有名詞となった。スモーキング・ガンはその後も活躍の場を広げ、対象を公的な書類だけに限らず、広く色々な分野から、特にセレブリティの隠したい過去を中心に白日の下にさらけ出すという活動を続けている。ついこないだも、カリフォルニア州知事に立候補中のアーノルド・シュワルツネッガーが、昔ボディビル時代に、フリー・セックスとドラッグを楽しんでいたという当時のインタヴュウ記事をやはりどっかから見つけ出し、その後に続く一連のシュワちゃんスキャンダルの嚆矢となった。


一方、スモーキング・ガンのこの活躍ぶりに早くから目をつけていたのが、法廷中継や、その他の法律やら刑事捜査活動やらのドキュメンタリー等の番組を放送するコートTV (Court TV) だ。コートTVは、2000年12月にスモーキング・ガンを買収、現在ではスモーキング・ガンは、コートTVのHPの一部のコーナーとしても存続している。


そして今、そのコートTVの後押しを得て、スモーキング・ガンがTV番組になる。私の知る限り、人気ウェブ・サイトがTV番組にまで発展したというのは、これが初めての例ではないか。番組名称は「スモーキング・ガンTV」という、まんまのタイトルに決まり、ホストは、コメディ・セントラルの「デイリー・ショウ」で知られているモー・ロッカが抜擢された。番組は、スモーキング・ガンのサイトにアップされている記事の中から適当なものを選び、それを映像化して再現したり、犯罪者兼セレブリティの弁明の信憑性を秤にかけてみようというものだ。


例えば番組冒頭の「セレブリティ・ディヴォース (Celebrity Divorce)」コーナーでは、有名人離婚のいざこざに焦点を当てる。NASCARレーサーのジェフ・ゴードンが妻のブルックとの離婚で慰謝料で揉めた時、ブルックはNASCARは比較的安全なスポーツであり、事故が起こる確立は釣りより低いと裁判所に申し立てて、ゴードンの職業の危険性が高いために彼の取り分が多くなることに異議を唱えた。そこでロッカが、どちらの言うことが正しいか実地に検証してみようというのだ。


とはいえ、ロッカがNASCARで実際に車を運転してレースに挑むわけではなく、おもちゃのレーシング・カーを走らせ、それが脱線してロッカの頭にぶつかり、確かにレースは危険という一応の結論を得、さらにフィッシングでは、安全そうに見えながら、実はうららかな日の光にまどろみながらのフィッシングは、人を自殺の誘惑に誘うと、ふらふらとロッカが池の深みに足を踏み入れていくというわざとらしい演出をしている。で、結局、視聴者が自分でどちらが危険かを判断してください、ということになるのだが、最初っから、ちょっと無理があるな、この番組、という危惧は拭い難い。


その後も大同小異の展開で、別にそんなの、わざわざTVでロッカが説明しなくても、既にスモーキング・ガンのサイトで知っているものばかりで、要するに、TV化する必要などさらさらないのだ。マーサ・スチュワートが何と言って庭師を罵ったかとか、バスタ・ライムスはコンサート会場の控え室にフライド・チキンとコンドームを必ず用意させていたとか、確かに話としては面白いが、しかし、それはすべて既に知っていることであり、特にそれらをわざわざ映像化する必要なぞない。


例えば、ここでマーサ・スチュワートにインタヴュウして彼女の言い分を聞くとか、ライムズがそのコンドームを使って控え室でどんなことをしているか見せてくれるとかするなら、それはそれで価値があるだろう。しかしそんなことはなく、それ以外のセグメントも、バカな犯罪者が起こしたバカな事件を再構成する「リアル・ダム・クリミナルズ」コーナーは、深夜トークの「トゥナイト」で、よくホストのジェイ・レノがそういう間抜けた犯罪の新聞記事を紹介していたりするのでまったく二番煎じだし、本物のマフィア・ギャングの盗聴テープに合わせてアニメーションを製作するコーナーは、まあ、試みとしては新しいが、「ソプラノズ」なんてヴァイオレンス描写の極致の番組を見ているので、たとえ誰と誰をどうしようかなんて喋っていることが事実であろうとも、そんなに面白味はない。


その中で、一応、最もTVという媒体でしかできないことをやっているという印象を受けたのが、番組の最後で、ロッカがセレブリティのマグ・ショットにあわせてメイクオーヴァー (変身) するという企画だ。最近流行りのメイクオーヴァー番組の真似をしているだけなのだが、それでも、このコーナーが番組の中では一番面白かった。ただし、ロッカが変身しようとするのが、ほとんどジャンキーづらしてマグ・ショットに写っているニック・ノルティだったからというのはあるかもしれない。


ノルティは数年前、ドラッグを使用していながら車の運転をしていたところを逮捕されている。その時の胡乱な目をしてぼさぼさの髪を振りまいたノルティのマグ・ショットは、絶えず話題を提供するスモーキング・ガンのマグ・ショットの中でも、デブデブになってしまったヤスミン・ブリースのマグ・ショットと共に話題になった。その写真のノルティになりきってみようと、ロッカがメイキャップを施し、髪を立ててノルティもどきに挑戦するのが、バカバカしいながらも、番組の中では最も面白いと思った。ただし、それだって正直言うと、ほとんど似てない。本当にハリウッドの一流メイキャップ陣辺りを連れてきて、付け歯やらマスクやらを使ってやったら、もっと本格的に似てきただろうに、そこまで徹底していたわけではない。


要するに、「スモーキング・ガンTV」は、畢竟スモーキング・ガンの二番煎じでしかなく、別にTVでやるからといって特に新しいものを見せてくれるわけではない。その点で、明らかに期待外れである。もうちょっとなんか面白い番組になるかなと思っていたのだが、こんなもんか。とはいえ、では、どういう番組を作ればいいかというと、それもちょっと見当もつかない。やはりスモーキング・ガンはそれ自体で完結した、インターネットという媒体の特性を最も有効に発揮した時代の申し子なんだろう。







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ザ・スモーキング・ガンTV   ★★

 
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