The Messenger

ジャンヌ・ダルク  (1999年11月)

リュック・ベッソンがフランス史の英雄ジャンヌ・ダルクを生涯を映像化。成長してからのジャンヌ・ダルクを「フィフス・エレメント」に出演して以来ベッソンのガール・フレンドとなったミラ・ジョヴォヴィッチが熱演する。


予告編を見て以来最も見たかった映画の一つだったのだが、公開日が近づくに連れてネガティヴな評ばかりが目に付くのに驚いてしまった。もちろん誉めているのもあるのだが、私がいつも目を通して参考にしているニューヨーク・タイムズとエンタテインメント・ウィークリーが共に否定的な意見である。この目で確かめずばなるまいと私は劇場に向かったのであった。そして劇場に着いて驚いた。


そこは12スクリーンのマルチプレックス劇場なのだが、何とそのうち3スクリーンでやっている、同じく今週から始まった「ポケモン」目当ての家族連れが長蛇の列なのである。時間の余裕を見て行ったはずなのに、やばい、上映時間に間に合わないと、私は切符を買う列に並びながらはらはらし通しであった。結局、一応間には合ったのだが、「ポケモン」の切符が売り切れで流れてきたと見える家族連れが場内に散見される。ほんとかよ、おい、2歳児にジャンヌ・ダルクの生涯なんか見せちゃうわけ?と不安に思っていたらやっぱり、やがて集中力が欠けてきた子供があちこち駆け回ったり泣き出したりしたのだった。こらーっ、R指定の映画にガキなんか連れて見に来るんじゃない!と憤慨したのは私だけではあるまい。


とまあ、劇場のことはこれくらいにして本題に戻ろう。結論から先に言うと、非常に面白かった。最近2時間を余る映画が多いことに閉口しているのだが、先週の「インサイダー」といい、「ジャンヌ・ダルク」といい、長さを感じさせなかった。「ジャンヌ・ダルク」の方は、後半、ジャンヌ・ダルクが英国側に捕えられてから、多分、監督はこれが本当に言いたかったのだと思うが、自分自身のアイデンティティに悩むジャンヌ・ダルク自身の葛藤に話が集中する。前半アクション・シーンが詰まっていただけあって、ここでふと息を抜いて我に帰ったりもしたが(先程のガキ共が暴れ出したのもこの辺であった)、だからといってドラマティックでないことはなく、内面のドラマとしては後半の方が見応えがあったとも言える。


ミラ・ジョヴォヴィッチの魅力全開、と言いたいところだが、実はそのジョヴォヴィッチが一番叩かれているのである。見に行ってなるほどと思ったのだが、ほとんど金切り声で「Follow Me」と叫んでばかりで馬に跨がって疾走する姿は、見方によってはうざったい女性のヒステリーととる者がいても仕方のない、一種あるラインを越えてしまった熱演だったように思う。多分、実物のジャンヌ・ダルクは実際に一種のヒステリー状態にいたのだろうし、これはむしろ監督の狙った演出だと思うのだが、それがある人には違和感をもたらしてしまったのだろう。


そういう狙った通りの結果を得て、それで不満に思う人がいるのは、これはもう不幸としか言い様がない。昔黒澤明が、「批評家はこちらが赤く塗っているのに青くないと言って文句を付ける」とかいうようなことを言っていたのを思い出したが、今回もこれに似たようなものだという気がする。しかし、ベッソンの演出は最初から最後まで、CGやステディカムの使い方までを含めて見事。彼の映画を見ていると「Visionary」という言葉が思い浮かぶ。それから、ジャンヌ・ダルクに最初反発しながらも一緒になって戦うフランス軍の騎士を筆頭に、脇も皆素晴らしい出来である。






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