The Insider

インサイダー  (1999年10月)

マイケル・マンが「ヒート」に続き再びアル・パチーノと組んで贈る骨太なドラマ。CBSの著名なニュース・マガジン番組「60ミニッツ」のプロデューサー、ロウェル・バーグマン(パチーノ) の元へ、専門用語が羅列された匿名のレポートが送られてくる。それは煙草が人体に有害なことであることを実証する専門文書であった。バーグマンはレポートを手掛かりに、煙草会社の有能な研究所員であるが、それであるがために馘首になったジェフリー・ワイガンド (ラッセル・クロウ) に知遇を得る。


嫌がるワイガンドを説き伏せて、事実を徹底的に伏せようとする煙草会社の実態を暴くTVインタヴューに成功したまではよかったが、ワイガンドの家には脅迫状が舞い込み、妻は耐えられなくなって家を出ていく。それでもワイガンドは意を決して公の場で煙草会社を弾劾するが、今度は訴訟の恐れがあるということでCBSの社内で圧力がかかり、インタヴューをオン・エアできなくなってしまう‥‥映画は、この間の登場人物の迷い、駆け引き、脅し、悩み、パワー・ゲームを圧倒的なスピード感とリアリズムで描く。


マイケル・マンが、またやってくれました。2時間40分、手抜きなしのハラハラどきどきの連続、よくもこう高いテンションを維持できるもんだと思うほど最初から最後まで突っ走る。彼は特にクロース・アップとブレるカメラを有効に使うコツを心得ているなあ。パチーノは相変わらず。確かにうまいんだろうが、目を剥かずに演技するパチーノは随分と見ていないような気がする。それよりも「L.A. コンフィデンシャル」で朴訥な正義漢を演じたクロウが脂ぎった中年をうまく演じていて、こちらの方に感心した。あと、脇は皆すべてよい。よくできたアメリカ映画でいつも感じることだが (別にアメリカ映画に限らないが)、出番がほんの少ししかなくても皆上手く、印象を残す。大したものだ。


個人的には、バーグマンの有能振りを示す冒頭のイスラエルのエピソードは無用だと思う。この部分がなくてもバーグマンの仕事の仕方は充分観客に伝わる。私はしばらくの間、このプロットがどう本筋に関わってくるのかと思っていた。まったくの捨てプロットだというのに気づくのにちょっと時間がかかった。普通ならこういうふうには思わないのだが、いきなりアクセル全開の演出に入るものだから、引き摺られたわけである。この部分を削ってあと10分短くしてくれてもよかったと思う。


蛇足だが、デイリー・ニュースの名物編集者で、日本でも幾つかの著作で知られているピート・ハミルが、ニューヨーク・タイムスの記者!役で特別出演している。これは私なんかよりもニューヨーカーの方が面食らっただろう。彼のイメージはあくまでもデイリー・ニュースかニューヨーク・ポストかの在野新聞で、タイムスみたいなインテリ新聞とは最もかけ離れたところにいる、というのが人々が彼に持っている印象だからだ。あと、クロウが研究者として日本にも行ったことがあり、日本語が話せるという設定になっているのだが、彼がパチーノと日本料理屋に行くシーンがある。そこで彼は中居さん相手に日本語で天ぷらやおちょうしを注文し、こともあろうに「おねえさん」と呼びかけたりもするのだが、それがちゃんと日本語になっていることに感心した。きっとかなり練習したのだろう。


「ライジング・サン」のように、日本人という設定なのにほとんど何言ってるかわからない日本語を喋られるとえらく興醒めするものだ。そう言えば「戦場のメリー・クリスマス」でも、日本語を喋っているはずのトム・コンティが何言っているのかさっぱりわからなくて閉口したな。関係ないが、大島渚の映画では時々登場人物が何言っているのか全然わからないのがよくある。これは本人があまり口を開けずにむにゃむにゃ喋るのとやはり関係あるのだろうか。昔「ソフィーの選択」で、メリル・ストリープの演技は素晴らしいのに、あの地方の訛りのある英語を喋ると途端に現実に引き戻されると言っていたその地方の出身者の話もついでに思い出した。映画の登場人物の喋る言葉というのは難しい問題だ。






< previous                                      HOME

 
inserted by FC2 system