The Little Things


ザ・リトル・シングス  (2021年1月)

ハリウッド・ステュディオのワーナーメディアは、ペイTVチャンネルのHBO、およびそのストリーミング・サーヴィスのHBO MAXを傘下に持つ。そのワーナーは昨年、同社が製作する劇場公開用映画をHBO MAXで同時提供するという方針を発表した。 

 

これは何もワーナーに限ったことではない。既にNetflixが同様に作品を劇場とストリーミングで同時提供しているし、ディズニーも昨年、「ムーラン (Mulan)」を同時提供した。とはいえNetflixの場合、元々はストリーミングで提供することが先で、しかし製作する作品の質もよかったから、アカデミー賞にノミネートされる資格を得るために、まず劇場で公開を先にすることもあったに過ぎない。ディズニーの場合は、パンデミックに影響された単発の出来事だった。 

 

しかし、今回ワーナーは、今後公開するすべての新作映画を劇場とストリーミングで同時提供するとした。これは、劇場チェーンにとっては死活問題だ。新作映画を家でも映画館封切り時と同じタイミングで見れるなら、多くの者がわざわざ映画館まで足を運ばず、家で見る方を選ぶだろう。特に子供のいる家庭の場合、あれこれの気苦労や手間隙がなくなる上に、月10ドル程度の視聴料だけで家族何人でも見れる。しかも何度でも何作でも好きなだけ見れる。このメリットは計り知れないと思われる。果たして劇場チェーンは生き残っていけるだろうか。 

 

などと思いながら、そのワーナーメディアの新作、「ザ・リトル・シングス」をストリーミングで見る。ここまで来たのだ、やっとワクチン接種が始まったのに今さら新型コロナウイルスに感染する気はさらさらない。もちろん映画館の大きなスクリーンで見れればそれにこしたことはないが、ここはもう、感染の可能性がある映画館における映画鑑賞は当分諦める。CDCのファウチ所長によると、うまく行けば夏頃には集団免疫が達成されるらしい。今はそれを忍耐強く待つのみ。それまで映画館も生きのびていることを願う。 

 

さて、つい最近、「ザ・リトル・シングス」主演のデンゼル・ワシントンの息子のジョン・デイヴィッド・ワシントン主演の「TENET」を見たばかりだ。こういう時期に親子で主演作が続け様に公開されるというのは、なかなかなさそうなことに思う。ワシントン・ダイナスティというのが構築されつつあるようだ。今、黒人俳優で親子で成功しているというのは、ワシントン家とウィル・スミス一家くらいしか思いつかない。 

 

「ザ・リトル・シングス」でワシントンが扮するのは、かつて有能な刑事でありながら、諸所の理由で今ではLA郊外で働いている地方保安官という役どころ。たまたま訪れた古巣で、かつて自分が担当していながら未解決だった事件に手口が酷似した連続殺人事件が起きる。ディーク (ワシントン) は、事件を担当するまだ若く上昇志向の強いバクスター (ラミ・マレク) と共に事件の解決に挑む。 

 

時代が1990年に設定されているのは、いかにも当時起こりそうな話というのもさながら、捜査方法や特に鑑識のやり方で、今ではいくらなんでもそれは通用しないだろうと思われる展開に真実味を与えるためだと思われる。やりようによっては現代でも作れる話だと思うが、90年代という設定は、雰囲気づくりに一役買っていることは確かだ。 

 

ディークは実はかつての自分のキャリアの汚点となった事件のことを片時も忘れたことはなかった。そして今、その時の犯人と思える者が再び自分の前に姿を現す。ほとんど粘着質的に今では自分が担当しているわけではない事件に首を突っ込むディークだが、彼のキャリアに一目置いている、正確にはなぜディークがキャリア路線から脱落したかに興味があるバクスターは、自分から積極的にディークの捜査活動に手を貸す。やがて捜査線上に現れた電気修理店店員のスパーマは、しかしのらりくらりと追及の手をかわす。果たして真犯人は彼なのか。 

 

ヴェテランのワシントンがこういう役もできるのは別に驚かないが、上昇志向のバクスターに扮するマレク、および被疑者役のスパーマに扮するレトがいい。私は体質的にあまり体重の増減がないので、役柄によって痩せたり太ったりできる俳優には一目置くが、今回のレトは、太ったというよりも意図的に下腹だけ膨らませてみました的な、いかにもブルーカラーらしい肉の付き方で、多少はスペシャル・メイキャップの力を借りているだろうにせよ、嫌らしさの出し方に感心した。 

 

この作品、アクションものだとばかり思って見始めたのだが、実は雰囲気重視のスリラーだ。スパーマが本当に犯人なのか、そうでないのなら彼の行動にはどういう意味があるのかをめぐって、じりじりしたペースで話は進む。正直言ってハリウッドの大型俳優が出ている割りには印象は地味だ。目が離せないのは確かだが、終わった後も歯切れよくすかっとは行かない。しかしその意外性は充分ある。 












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1990年LA郊外。保安官のディーク (デンゼル・ワシントン) は、所用でかつて刑事として働いていたLAの警察署を訪れる。あたかもそこではかつてディークが担当していたが、解決できず迷宮入りした連続殺人事件と同様の手口で新しく事件が起きていた。若いが署内で指揮を担当するバクスター刑事 (ラミ・マレク) は、かつて署内一の検挙率を誇っていながら左遷同様に転勤して行ったディークに個人的な興味を持つ。ディークは休暇をとってLAに留まり、バクスターと一緒に事件を追う。やがて電気修理店の従業員であるスパーマ (ジャレッド・レト) が捜査線上に浮かぶ。現実に起きた事件記事の収集癖のあるスパーマはディークのことを知っており、今回の事件に関係がありそうだった。バクスターとディークは執念深くスパーマを張るが、スパーマはなかなか尻尾を出さなかった‥‥ 


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