The Cold Light of Day


シャドー・チェイサー  (2012年9月)

特に今週は見たいものがないなと思って、ではアクションの「 シャドー・チェイサー」にするかと気軽に劇場に足を向ける。このところ目にする機会の多いブルース・ウィルスが出ており、共演はシガーニー・ウィーヴァーと、傑作とは言わなくてもそこそこのできを期待して出かけたのだが、これが久し振り首を捻らざるを得ない作品だった。


出だしは上々、スペインに住む家族と共に久し振りに一緒の休暇を楽しもうと、長男のウィルがサンフランシスコからやって来る。しかしウィルがちょっとの間陸に上がった隙に、突然ヨットから家族が全員跡形もなく消えてしまう。神隠しかそれとも大掛かりな犯罪か。ウィルは慌てて現地の警察に駆け込むが、その警察が頼りにならないだけでなく、ウィルの身柄を拘束しようとする。


その窮地を救ったのは父のマーティンで、実は政府の固い仕事をしているとばかり思っていた父はどうやら諜報機関で働いており、大きな事件に巻き込まれているらしいことが知れる。その相手方の手によって家族は拉致されたのだ。マーティンは仲間のカラックに連絡をとり、助けを求める。しかし実はカラックこそがマーティンを亡き者にしようとしている存在だった。マーティンは撃たれて死亡、ウィルは単身、誰も頼る者のない異郷で、追っ手に対処しながらなおかつ家族を助け出さなければならなかった。ウィルはその途中で、自分には母違いの妹ルチアがいることを知る。二人は共同で行動を起こすが‥‥


主人公ウィルに扮するのは、ショウタイムの「ザ・チューダーズ (The Tudors)」のヘンリー・カヴィルだが、気になるのはやはり父マーティンに扮するブルース・ウィリスと、敵対するカラックを演じるシガーニー・ウィーヴァーだ。映画が始まって最初の10分くらいは悪くない。ヨーロッパの海が舞台ということもあり、「太陽がいっぱい (Purple Noon)」みたいで、雰囲気重視のサスペンス描写はなかなかいい。


しかしマーティンが映画の半ばにすら達しない時点でカラックの手によって殺される辺りから、だんだんテイストが変わってくる。ウィルは一人で逆境に対処しなければならないが、なんてったってジェイソン・ボーンとは違い、武芸や銃器の扱いに秀でているわけでもない単なる素人だ。それでも知恵と度胸でなんとか絶体絶命のピンチを凌いでいく‥‥


作りようによってはかなり面白くなるはずなのにだんだん萎んでいってしまうのは、途中からどう考えてもストーリーがご都合主義に傾いていってしまうからだ。アパートのドアを塞ぐように死んでいるルチアの伯父は、なぜわざわざそこに? とは思うが、まあ許す。しかし奥の部屋にいるカラックやプロのアサシンが、あんな大きな物音立てて気がつかないわけがなかろう。


この辺りからだんだん、あれ、もしかしてオレ、今回ははずれくじを引いたかと思い始めるが、まだこの段階では不安要素はあるとはいえ、確定しているわけではない。実際、マーティンが海外で浮気していて主人公のまったくあずかり知らない妹がいたという設定は、ブルース・ウィルスならやりそうという感じで、悪くない。その義理の妹のルチアに扮するヴェロニカ・エチェーギもなかなか魅力的だ。


しかし、やはり映画は不安的中の形で、後半失速し始める。というか、加速急降下し始める。極めつけがクライマックスのカー・チェイスで、まあアクションではカー・チェイスはかなりの部分お約束だから、ほとんど強引でもカー・チェイスに持っていくことを否定しないが、しかし、その流れを断ち切って、わざわざ逃げる途中でクルマから降りてきて姿をさらすなんてバカなことをするカラックには、呆気にとられた。主人公の最後の対峙シーンを演出したかったんだろうが、今はその場を即刻去るべきなのに、こんな間抜けな犯罪者がいるか。しかもこれだけ銃撃乱射のドンパチで、なんでカラックだけ余裕で動けているんだ。かつての余裕時代の007を見ているわけじゃないんだぞ。


ウィルスが、ヴェテラン・エージェントっぽいのに、簡単に罠にはまって撃たれて殺されるっていうのも、ちょっと安易かなとは思ったんだよ、そしたらクライマックスでこれだ。ああ、もう、なんとかしてくれと思った。既に時々トンデモ作品に出ることを知っており、今回はしかも途中でいなくなるウィルスはともかく、最後まで出てクライマックスで大仕事というウィーヴァーが、実は今回の鍵だった。


ウィーヴァーが昨年出演した「ミッシング ID (Abduction)」は、主人公が今回のウィル同様、知らず知らずのうちに大きな謎に巻き込まれていくという巻き込まれ型の謀略スリラーであり、最初、今回もその流れかと思わせる。しかし実は「シャドー・チェイサー」は、どちらかというとウィーヴァーが今夏出演して見る者を唖然とさせたびっくり仰天もののホラー、「ザ・キャビン・イン・ザ・ウッズ (The Cabin in the Woods)」の系統だった。


ウィーヴァーは一方で今夏、ヒラリー・クリントンのキャリアを参考にしたUSAのTVドラマ「ポリティカル・アニマルズ (Political Animals)」で、主人公を演じている。リアリティ重視のポリティカル・ドラマだとばかり思っていた「ポリティカル・アニマルズ」でも、もしかしてウィーヴァー、なんかとんでもないことをやって、視聴者の度肝を抜いたんじゃないだろうなという気にさせる。









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ウィル (ヘンリー・カヴィル) は休暇をスペインにいる家族と過ごすため、サンフランシスコから飛行機に乗る。しかし実はウィルが共同経営している会社は経営が思わしくなく、今にも倒産 の危機に瀕していた。久しぶりの家族と会っても気もそぞろなウィルは、家族と共にヨットに乗っている最中もアメリカからの連絡が気になり、注意が散漫になって弟のガール・フレンドに怪我をさせてしまう。一人だけ陸に上がって応急手当て用の薬品を購入してヨットに戻ろうとしたウィルだが、あるべきところにヨットがなくなっていた。海岸沿いを走り回って人気のない湾に一艘だけ停泊しているヨットを見つけたウィルだが、そこには家族の姿は影も形もなかった。 いったいウィルのいない間に何が起こったのか‥‥


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