マーサ

放送局: シンジケーション (NYではNBC)

プレミア放送日: 9/12/2005 (Mon) 11:00-12:00

製作: マーク・バーネット・プロダクションズ、MSLOプロダクションズ

製作総指揮: マーク・バーネット、マーサ・スチュワート

ホスト: マーサ・スチュワート


ジ・アプレンティス: マーサ・スチュワート

放送局: NBC

プレミア放送日: 9/21/2005 (Wed) 20:00-21:00

製作: マーク・バーネット・プロダクションズ

製作総指揮: マーク・バーネット、ドナルド・トランプ

ホスト: マーサ・スチュワート


内容: 時の人、マーサ・スチュワートがホストの2本のリアリティ/ヴァラエティ・ショウ。


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マーサ・スチュワートといえば、アメリカでは知らぬ者はないと断言できる、カリスマ主婦の代名詞のような存在だ。70年代からワン・ランク上の生活スタイルを標榜するケイタリング・サーヴィスを展開しており、82年に出版した、いかにお客をもてなすかのハウ・トゥ本「エンタテインニング」は100万部を売り上げ、一挙にスチュワートの名を全国区に押し上げた。


90年には「マーサ・スチュワート・リヴィング・マガジン」を創刊、そして93年にシンジケーションで始まったライフスタイル提案番組「マーサ・スチュワート・リヴィング」によって、その名声を不動のものにした。この種の番組の定番と言える様々なクッキングのレパートリーの教授から始まって、パーティを開いたり、部屋の模様替えをしたり、いつもとは違ったお洒落をしたりなど、とにかくありとあらゆる生活のポイントで役立つ大小様々な知恵を伝授するこの番組は、アメリカの多くの女性に多大な影響を与えた。


しかしスチュワートは昨年、ガンの特効薬を開発していたインクローン社をめぐるインサイダー取引疑惑によって有罪が確定、昨10月から今年3月にかけて収監されていた。この辺の事情は、多少の誇張や変更があるとはいえ、スチュワートの獄中生活を描いたCBSのドキュドラマ「マーサ: ビハインド・バーズ (Martha: Behind Bars)」に詳しい。因みにこの番組でスチュワートを演じたのはシビル・シェパードで、しかもこの手のドキュドラマで二度スチュワートを演じている。


一方、有名人の刑務所入りということで世間の注目が集まった結果、これは使えると踏んだ番組プロデューサーがいた。その男こそが「サバイバー」「ジ・アプレンティス」等で、アメリカのリアリティ・ショウに旋風を巻き起こした風雲児、マーク・バーネットである。バーネットは、スチュワートを起用した新ヴァージョンの「アプレンティス」である「アプレンティス: マーサ・スチュワート」、および、「マーサ・スチュワート・リヴィング」のアップデイト・ヴァージョンである「マーサ」をプロデュース、両番組はスチュワートの出所後半年が経ったこの秋、放送が始まった。


まず、毎昼放送されるシンジケーション番組の「マーサ」が一足先に放送を開始する。出所後、当然のごとく殺到するマスコミを避けてあまり目立たないようにしていたスチュワートが一般視聴者の前に現れるのは久しぶりのことで、番組第1回の冒頭のモノローグでは、ちゃんと自分自身の刑務所体験をだしに使ってギャグを飛ばす。スチュワートは出所後も、自分の居場所を常に明らかにしておかなければならない、要するに半年間の自宅謹慎 (ハウス・アレストと称される) は続いていた。その間、お上は彼女の所在を常に把握するために、アンクル・ブレスレットと呼ばれる、iPodくらいの大きさの、電波を飛ばす探知機の着用を義務づけた。


で、番組第1回は、実はこのアンクル・ブレスレット、忙しい番組関係者の所在を把握するのに重宝するということで、この回に登場する、バーネットをはじめとする番組関係者、製作者、アシスタント、果てはシェフまで全員アンクル・ブレスレットを足首に巻いて装着しての登場となった。ただ一人、ハウス・アレストが解除されたばかりのスチュワートその人だけがアンクル・ブレスレットを着用していなかったのがなにやらおかしい。それから番組は、ちょうどハリケーン・カトリーナがニュー・オーリーンズを襲った直後ということで、当然、食とアートの町ニュー・オーリーンズとも関係の深いスチュワートは、長めのクリップを使用してオマージュを表明する。


そして栄えある番組第1回のゲストは、現在大人気のABCのコメディ・ドラマ「デスパレートな妻たち (Desperate Housewives)」からマーシャ・クロスを迎える。クロスと共にクッキングやすばやいTシャツのたたみ方など、いつものおなじみの、いかにもスチュワートの番組らしい内容が続いて幕となるわけだが、最後にスチュワートが紹介した、たぶんアメリカのこの手の観客を招いての公開番組では最も大きいと思えるスタジオがなかなかすごかった。スタジオ内に、大きめのキッチンから (もちろんスチュワート自らが視聴者にクッキングの手順を教える簡易キッチンはスタジオのど真ん中に据えられており、それとは別だ) 温室まで備えており、かなり広い。これだけの設備を揃えられたのも、スチュワートの知名度があればこそだろう。


ところで、上で述べた、スチュワート直伝のすばやいTシャツのたたみ方を実践してみると、ほんとに1秒でTシャツがきれいにたためてしまう。ちょっと感心してしまった。なのだが、たかだがTシャツなんて、誰がたたんだって数秒でできる。10秒あれば問題ないだろう。それをわざわざ1秒でたためる方法を伝授することがそんなに重要なのかという気はする。ブティックの販売員やクリーニング屋さんじゃあるまいし、人がTシャツをたたむのなんて、一時に10枚程度がいいところだろう。つまり、すばやいTシャツのたたみ方を覚えたって、せいぜい短縮できるのは洗濯一回につき1分程度にしかならない。それが貴重に思えるくらい、世の中の人々は皆忙しい生活を送っているのだろうか。むしろ最近は、人々はスロウ・ライフの方に関心が向かっているのではなかったか。なんというか、これが資本主義というものなのだろうなあと、Tシャツをたたみながら思ってしまうのだった。


一方、もう一本のスチュワートがホストのリアリティ・ショウ「アプレンティス: マーサ」は、NBCの人気番組「アプレンティス」のスピンオフだ。オリジナルの「アプレンティス」は、不動産王ドナルド・トランプがホストとなって、その下に集められた十何人かの参加者が、勝ち抜きでトランプの会社で働く座を射止めるというものだった。もちろんスチュワート版「アプレンティス」は、スチュワートの会社、マーサ・スチュワート・リヴィング・オムニメディア (MSLO) で、スチュワートの片腕となって働く人材を求める。


まず16人の参加者は8人ずつ、以前にクリエイティヴな仕事に就いていた者たちが集まった「マッチスティック」と、起業精神に富む「プリマリウス」と称する2チームに分かれ、それぞれ与えられたビジネス課題に挑む。その結果、成績の劣ったチームから毎週一人ずつが追放されるという、基本的にはオリジナルの「アプレンティス」と同じ体裁をとっている。スチュワートの片腕として、娘でありビジネス・パートナーであるアレックス・スチュワートと、MSLOのチャールズ・コップルマンが、アドヴァイザーとして参加している。


番組第1回の課題は、ランダムハウス社と共同で子供の本を製作するというもので、マッチスティックが、いかにもクリエイティヴな面々が集まったチームらしく、グリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」を脚色したオリジナル童話を製作したのに対し、プリマリウスはクラシックの「ジャックと豆の木」を製作する。マッチスティックの本は、さすがに独創性は高かったが、才気に走りすぎて子供向けの本だというのにやたらと押韻を踏んだりした結果、子供に読み聞かせた時もあまりいい反応を得られず、結局、手堅くまとめたプリマリウスの方に軍配が上がった。


最後に誰を追放するかは、マッチスティックの今回の責任者ジェフ、およびチームから反感を買っていたドーン、ジムの3人の中から決められる。オリジナルの「アプレンティス」では、ここでトランプの決めぜりふ、「You're fired」が発せられるのだが、さて、スチュワートはいったいどんなせりふを用意したのか。と思っていたら、今回追放が決まったジェフは、スチュワートから「You just didn't fit in. Good-bye」と言われて終わりだった。なんだ、決めぜりふはないのか。番組が始まる前は、さて、スチュワートが最後に発する決めぜりふは何になるかと巷では喧々囂々と噂されていて、カリスマ主婦スチュワートらしく、「You're cooked」、や「You're toast」といった、料理関係の用語をまぶしたせりふが予想されていた。スチュワートが最後に何と言うかわくわくして待っていた者も多かったろうに、ちょっと期待はずれだ。


「アプレンティス: マーサ」は、実は今のところ、番組としては大した成績を上げていない。この種の番組、というか特に「アプレンティス」というリアリティ・ショウでは、ホストの独断と偏見で追放者を決めるところが醍醐味となっている。だからこそオリジナルでトランプが最終的には自分の信念だけを恃みに倣岸とすら言える裁定を行っても、そこが逆に受けたのだ。むしろ視聴者はこういう意外性、カリスマ性、リーダーシップを番組に求めている。ところが「マーサ」の場合、スチュワートはかなり当たりが柔らかく、「お前はクビだ」という代わりに「残念だったわね」みたいな印象が濃厚で、はっきり言って視聴者はそんな優柔不断な姿勢なんかホストに求めていない。参加者をばっさりと切り捨ててこその快感なのだ。たぶん番組の人気がそれほどなのは、その辺の未消化感が関係しているのではと思われる。


さて、なにやら時の人という感じがするスチュワートであるが、だからといってこういうセレブリティ・ステイタスがどこへ行っても通用するわけではない。このほど、スチュワートはそろそろハロウィーンも近づいてきたことでもあるし、カナダにパンプキン畑を見に行く話になっていた。そしたら、なんと前科持ちということで、カナダの税関が入国を拒否してしまったのである。一応アメリカから見ればカナダは外国ではあるが、住んでいる者にとっては、川向こうの別の州くらいの印象しかない。ニューヨークからだと、それこそニュー・オーリーンズやテキサスなんかより、物理的に近いトロントやモントリオールの方が親近感があったりする。スチュワートだって当然そう感じていたに違いない。ところが入国を拒否されて、カナダは外国であるということを思い知ったであろう。しかし、たぶんこの番組はカナダでも放送されていたと思うんだが。


スチュワートはこの2番組だけに留まらず、実はまだ自身がホストの人間メイクオーヴァー・リアリティ・ショウの企画を準備していたりする。たぶん、刑務所入りしていた時期に、久しぶりにたっぷりと物事を考える時間だけはあったために、出所後のビジネス・プランをしっかりと練っていたに違いない。さすがに転んでもただでは起きないアメリカ初の女性億万長者起業家なだけはある。刑務所入りで箔がつくのは、なにもやくざやギャングの世界の話だけに限らないのであった。






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