予告編を見た時から、またえらく凝った映像で、気にはなっていた。さらに出演がベン・キングズレーにジャッキ・ウィーヴァーが演じる牧師夫婦、彼らに絡むならず者にジミ・シンプソンと、これまた非常に気になる布陣。特にキングスレーは、昨年、「オペレーション・フィナーレ (Operation Finale)」で個人的にはオスカーの主演男優賞をあげたいくらいだったので、今回も気になる。
しかも今回の役柄は、最初、不肖の息子を持つ子思いの親、と思わせといて、黙って犯罪のカモになっているわけではなく、反攻に転じる牧師という、何やらきな臭いキャラクターだそうで、これはもう見るっきゃない。
さらに番組のオープニング・クレジットから尋常じゃなく、なぜだか宇宙飛行士が宇宙遊泳している。これがいったい何を意味しているのか、よくわからない。番組第1回では、シンプソン演じるケチな詐欺師が宇宙服姿で町を歩いて電話をかけるという想像のシーンがあるので、それを考えると彼の心象風景かと思えなくもない。とにかく人を食っているというか、唖然とさせる。実はクライム・ドラマですらなくSFだったというオチだったりするか。
キングズレー演じるパーことブラウン牧師と妻のマーことリリアンの間には、素行の悪い息子ポールがいた。ポールは、同様に小悪党のジェイムズに、儲け話を持ちかける。ブラウン牧師夫妻は、ほとんど悪徳商売で信者を騙して金を貯めている。そういう金を奪ってもバチは当たらない。ポールがメキシコで面倒に巻き込まれているといって二人に国境を越えさせれば、そこにいる仲間が二人を拘束できる。2週間彼らを拘束できれば、その間にジェイムズがポールになりすまして有り金を全部ネコババできる。簡単な仕事だ。
ジェイムズは話に乗り、行き倒れのふりをしてパーとマーに介抱してもらい、世話になることに成功する。ジェイムズは伝手を通じて、二人に行方知らずの息子ポールがメキシコで官憲に捕まっているという情報を得たことを伝える。パーとマーは、罠とも知らずにメキシコに発ち、そこで予定通りに監禁される。ジェイムズはポールになりすましてパーとマーが死亡したことにして遺産を相続する手続きを始める。
しかし予定通りだったのはここまでで、メキシコで拘束され、2週間身動きがとれないはずのパーとマーと同じ監房に新しく男が収監され、パーはちょっかいをかけてきた男を逆に靴で殴り殺してしまう。パーの過去が洗い直され、かつて矯正不可能としてさじを投げられ、殺人の罪を犯したこともあるパーの過去が明らかになる。一方、ジェイムズの元にシェリフが現れ、ポールが運転免許証を更新したことから居場所を突き止めた、あんたは昔、川で発見された少女の死体の重要参考人であると告げる‥‥
悠揚迫らぬという感じの展開に、これ、いったいどうなんのと思っていたら、第1回終了直前に事態は急展開する。やっぱりキングズレーは怖かった。「オペレーション・フィナーレ」でも、かつてナチ高官で、何十万人ものユダヤ人を殺した責任者の一人が、過去を隠してアルゼンチンで密やかに暮らしているという状況がある種の怖さを提供していたが、「パーペチュアル・グレイス」は、もっと物理的に怖い。言うならば「セクシー・ビースト (Sexy Beast)」を彷彿とさせる、つまり、切れると怖いキングズレーを再度体現しており、いやあ、怖い怖い。これが本当にあの非暴力を唱える高潔の尊師ガンジーを説得力たっぷりに演じたのと同じ人間かと思われるくらい、ヤバそうな雰囲気をぷんぷん発散させている。
TVで最近これだけイメージと雰囲気醸成を前面に押し出して製作された番組は、ほとんど記憶にない。番組クリエイターのスティーヴ・コンラッドがこの前にamazonで製作した「パトリオット (Patriot)」は、コメディ・ドラマで、ここまで絵に凝ってもいなかった。いったい何が彼を変節させたのか。それともある意味「パーペチュアル・グレイス‥‥」もブラック・コメディか。