Mostly Martha (Bella Martha)

マーサの幸せレシピ  (2002年9月)

シェフとしては一流の腕を持つマーサ (マルチナ・ゲデック) だったが、生来の短気や完璧症が災いして客との揉め事も絶えず、レストランのオーナーのシビルの命令でカウンセリングに通うことになる。そんな時、姉とその娘の乗った車が事故を起こし、姉は帰らぬ人となる。娘のリナ (マキシム・フォーステ) はイタリアにいるはずの父親が見つかるまでマーサが預かることになるが、マーサの仕事は帰りが遅い。リナの面倒を見るためには仕事を休まなければならず、レストランも一時的にイタリア系のシェフ、マリオ (セルジオ・キャステリト) を雇う。マリオはマーサが不得手な魚料理もこなし、レストラン側にとっては ありがたい存在だったが、マーサは気に入らない。気難しいリナの面倒も見なければならず、マーサは自分の場所がなくなっていくのを感じるのだった‥‥


まず、料理がメイン・プロットとして絡んでくるドイツ映画というのが意外である。お隣りのフランスに較べれば、ドイツというと料理と言って思い出すのはせいぜいがビールとソーセージで、やはりグルメの国という印象はない。女性にしたって、今ドイツ出身の女性といってすぐに思い出すのは、テニスのシュテフィ・グラフ、女優ではハリウッドにも進出しつつあるフランカ・ポテンテくらいしかいない。それが料理を題材にしたロマンティック・コメディ系の作品を輸出してきた。それもわりと評がいい。


実は、別にドイツ映画だからということはなく、料理をテーマにする映画というのは、だいたい面白い。おいしそうな食べ物というのはそれを見るだけで食欲が増進するし、幸せな気持ちにもなる。食というのは人間の根源的な欲望の一つだから、人の感覚に直接的にアピールするのかもしれない。その種の作品で私が記憶する2大傑作は、ガブリエル・アクセルの「バベットの晩餐会」とピーター・グリーナウェイの「コックと泥棒、その妻と愛人」であるが、それ以外にもスタンリー・トゥッチの「リストランテの夜 (Big Night)」やアン・リーの「恋人たちの食卓 (Eat Drink Man Woman)」などがすぐに思い浮かぶ。伊丹十三の「タンポポ」は、伊丹映画の中では好きな方ではないが、それでもあのラーメンのシーンは印象に残る。そうそう、先々週見た「マイ・ビッグ・ファット・グリーク・ウェディング」も、食事のシーン満載の映画だった。


作品としては「マイ‥‥ウェディング」同様、「マーサの幸せレシピ」も何か新しいことをしているとか、特にこれといって印象的なエピソードがあるというわけでもない。しかし、細部にまで非常に気を配って丁寧に演出されており、こういう言い方はなんだが、最後まで安心して見れる。その点では、「マイ‥‥ウェディング」よりこちらの方が上質である。少なくとも演出家としての腕は、「マイ‥‥ウェディング」のジョー・ズウィックよりは、「マーサの幸せレシピ」のサンドラ・ネットルベックの方が上だろう。すべてのシーンをきっちりと隅々まで気を配って演出するやり方は、なんとなく周防正行を連想させる。周防が料理映画を撮ったら、きっとこんな風になるのではないか。


作品の中で一つだけ気になったのが、もしかしたらマーサの恋人になるのかと思わせる階下の住人サム (ユーリック・トムセン) の用い方である。ああいう思わせぶりな出し方をしといて、後でまったく関係なくなるやり方は、まあ、本命のマリオとサムと、マーサはいったいどちらを選ぶのだろうと思わせる効果を狙ったのはよくわかるが、あんな中途半端な出し方をするくらいなら、最初からいなくてもよかった。むしろ最初からリナのベビー・シッターとして出せば、どっちつかずの印象を与えなくて済んだのに。


主人公マーサに扮するマルチナ・ゲデックもそうだが、ゲルマン民族の女性というのは非常にがっしりとしている体形をしている者が多い。プロポーションがいいというよりも、ガタイがいい、という形容の方がぴたりと来る。グラフ、ポテンテ、ゲデック、皆骨太で、色っぽいというよりも、健康そうという印象の方が先に立つ。作品の中で、つい寝過ごした下着姿のゲデックを映すシーンがあるのだが、キャミソールとパンティ姿のくせに、まったく色気を感じさせない。へそまで隠す形のパンティで、大した切れ込みもなく、ランジェリーというよりは下着という言い方がぴったりする。これがフランス映画なら、絶対こんな風にはならないだろう。


この作品、紹介される時にわりと多くの媒体でロマンティック・コメディと紹介されているのだが、よくできたドラマだとは思うが、コメディだとはまったく思わなかった。第一、スクリーンを見ながら笑った記憶はほとんどない。せいぜいがにんまり程度だろう。これが本当にもう少し笑えるようなエピソードが2、3付け加えられていたならば、もっと記憶に残る作品になったような気がする。それでも、今年公開された映画の中でベストの作品の一つという大勢の評価に反対する気は毛頭ない。しかし、最後に一つ言わせてもらえるならば、マーサとマリオが今後もうまくやっていける可能性は、私はほとんどないと思う。最終的にやはりマーサがマリオに対して愛想を尽かすのは、十中八九間違いない。「マーサの幸せレシピ2」ができるなら、きっと離婚後のマーサと成長したリナが主人公となることだろう。







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